一体経営で可能となるボールパークとしてのあり方
米国では、ほとんどのケースで球団と球場の経営が一体化している。その一体化により、自由な発想でビジネスがやりやすい環境が整っているのだ。
たとえばこんな具合だ。試合が開催されていない日でも、球場の裏側を見たいファンに向けてのスタジアムツアーを随時開催する。そして、法人用にはスタジアムを会議、パーティー、さらにはトレードショー開催のために開放。はたまた個人用には、結婚式場、プロポーズをする会場として活用を願う人々に有料で貸し出すこともいとわない。
それだけではない。球場の至るところがさまざまなイベントスペースとして活用されているのだ。野球観戦をしながら会社のパーティーを開催できるスイートルームは、試合がない日でも活用できる。球場全体を見渡し、そこで食事をとりながら会議ができる場へと変貌するのだ。青空の下でイベントを開催したい場合には、「ウォーニング・トラック」と呼ばれるファールゾーンエリアの土の部分にテーブルと椅子を設置し、ランチイベントなどを開催することも可能だ。
米国では、試合が開催されない日でもスタジアムツアーに訪れ、グッズショップに立ち寄る人を多く見かける。そして、スタジアムに隣接されたバーやレストランで食事を楽しみ、試合のない日でもそのスタジアムが地域と一体化していることが多い。地域に住み、そこで働く人々にとってもホームスタジアムは身近なものであり、気軽に活用できることで、日常の生活にスタジアムが溶け込んでいくのだ。
またスタジアム自体が地域の復興に繋がっていくケースもアメリカでは見られる。産業が廃れていくのと同時に荒廃していったクリーブランドでは、スポーツやエンターテイメントを中心とした複合施設プロジェクト、”Gateway Sports and Entertainment Complex"を一つの柱として市街地再構成の開発が行われ、街の雰囲気が一変していった。(ただ、スタジアム周辺以外は手付かずになってしまっている。)
コンサートだけでなくサッカーやスノーボードイベントも開催
チームが長期遠征に出かけた際には、シーズン中であってもスタジアムでコンサートが開催されることも珍しくない。遠征から帰ってくると、グラウンドの芝生の状態を見れば野球とは違ったイベントが開催されたことは一目瞭然な場合もあるが……グラウンドキーパーたちの努力により、すぐさまプレー可能な環境を保っている。
シーズンオフになれば野球の試合は開催されないため、ウィンタースポーツを開催するスタジアムも出てきている。ボストン・レッドソックスのフェンウェイスタジアムでは2016年2月に、平昌オリンピックの新競技にもなった「ビッグ・エア」のイベントを開催したほどだ。さらには、NHLの屋外試合「ウィンター・クラシック」の試合会場として、シカゴ・カブスのリグレー・フィールドやボストン・レッドソックスのフェンウェイ・パークなど歴史あるスタジアムが活用された。
それ以外でも、アメリカンフットボールやサッカーの試合など、スタジアムとして稼働率を上げるためにあらゆるイベントが年中開催されている。稼動を繰り返し、「野球以外の部分でもしっかりと収益を上げる」という思考が根付いているのだ。
日本でも広がりはじめた地域のための施設作り
上記に挙げたように、米国では知恵を凝らしたイベントがたくさん開催されているが、ここ日本でも野球をするため、見るためだけのスタジアムだけではなくなっていきそうな動きが増えてきた。米国では、アリゾナ・ダイヤモンドバックスの本拠地でプールやジャグジーに入りながらの観戦を楽しめるが、楽天ゴールデンイーグルスの本拠地・Koboスタ宮城でも興味深い施策がとられている。日本球界初となる観覧車を左中間席後方に設置し、いままでにない独自の野球観戦の在り方を提供している。さらに、広島のMazda Zoom-Zoomスタジアムではライトスタンドにスポーツクラブ&スパ「ルネサンス」が隣接しており、球場を見渡しながらトレーニングに励むこともできる。
また、横浜スタジアムでは、球場と球団の一体経営が実現したことで来場客への“内向き施設”だけではなく、公園に訪れる“外向け”のサービスも行われている。「+B(プラス・ビー)」は、コーヒースタンドが併設されたチームグッズを販売しているショップで、スタジアムに入るファンでなくても気軽に立ち寄ることが可能。日常に野球をプラスするというコンセプトで、「ボールパーク・ブレンド」というここでしか味わえないコーヒーも存在する。そして日本ハムの「ボールパーク構想」。特徴的なのは、外野席の向こうが自由通路になっていて、その先にバーベキュー場、少年野球のグラウンドなどが配置され、自然公園の趣が広がっていること。球場に入るメインストリートはファッション性の高い一大ショッピングタウンとレストラン街。ディズニーランドのメインエントランス周辺を大人向けにデザインしたようなイメージだ。
今後は、間違いなく日本でも球団と球場の一体経営が進んでいくだろう。試合やイベントが開催される日は非日常的空間になり、催しがない日でも、地域と一体化した日常の一部としてスタジアムが街に存在することになる。そういった取り組みが、日本でも多く行われることを切に願いたい。
著者:新川 諒
1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。