際立ったマウンドさばきで悪天候も問題なし

最大風速13メートルを記録した4月29日のQVCマリンフィールド。中堅ポールに掲げられた鯉のぼりは3匹中2匹が吹き飛ばされ、対戦相手の日本ハム先発・メンドーサは5回途中3失点、今季ワーストとなる6四球でマウンドを降りた
一方、ロッテ先発の涌井秀章は、初回と5回に適時打を許したが、それでも大崩れすることなく丁寧な投球を淡々と続ける。砂埃が舞い、突然タイムがかかってもペースを乱すことなく、メンドーサとは対照的に無四死球。7回9安打2失点と粘り、先発の役割を十分に果たした。
好調な打線もすかさずエースを援護。5回に3番・清田育弘の2ランなどで3対2と逆転。7回には再合流したヤマイコ・ナバーロが貴重な適時二塁打を放ち、チームは4対3で勝利。これで涌井は、開幕から無傷の5勝目を手にした。
お立ち台に上がった右腕は、「本当に大変だった。風が強かったので、とにかく低目に投げようと思っていた」と振り返ると、「自分のときは(野手が)しっかり打ってくれる。このまま負けなければいいかなと、ちょっとだけ思っています」と笑顔を見せた。
ファンの胸を打った昨年最終戦での10回137球

西武時代もエースとして一時代を築いた涌井だが、開幕5連勝は自身初めてとなる。昨年は10月6日の楽天戦で10回137球、3失点の大熱投。シーズン最終戦でリーグ最多となる15勝目をもぎ取り、大谷翔平(日本ハム)とともに最多勝に輝いた。
振り返れば、昨年9月25日のソフトバンク戦からレギュラーシーズンは8連勝である(2016年5月3日終了時点)。今年は開幕から大谷、金子千尋(オリックス)、摂津正(ソフトバンク)との開幕投手対決にも全勝し、快調に白星を重ねている。
際立っているのは、持ち前のゲームメイク能力だろう。前述の強風のなかでもペースを乱さず、開幕からの6試合で、クオリティスタート(6回以上、3自責点以内)を5度も達成。四死球数もすべて3つ以内に収め、4月23日のオリックス戦、同29日の日本ハム戦は、2試合連続の無四死球だった。
3、4月は5勝0敗、防御率2.59の成績で、月間MVPの最有力候補に挙げられている。受賞すれば、西武時代の2009年7月以来、自身3度目。この年は最終的に211回と2/3を投げ、16勝6敗、199奪三振、防御率2.30の好成績。23歳の若さで沢村賞にも輝いている。2012年以降は配置転換などもあり調子を落としたが、2014年のロッテ移籍後は、全盛期を知る伊東勤監督の下、先発投手として再生。昨年は復活を印象付ける最多勝に輝き、今年もスタートダッシュに成功した。
一目置かれる野球への取り組みで周囲にも好影響
自ら多くを語らない男だが、涌井は練習の虫としても知られる。実際にキャンプ期間中は黙々と走り込みを行い、その練習量は周囲も認めるところだ。その影響を受けるひとりが、高卒3年目でロッテ投手陣期待の星でもある二木康太である。
二木は身長187センチの右腕で、制球力に長けた将来のエース候補。元々ドラフト6位指名の“素材型”の選手だったが、昨年からファームで頭角を現し、本拠地最終戦となった10月5日の日本ハム戦で一軍デビューを果たした。この試合は2番手として5回1失点の好投。地元ファンの前で期待以上の投球を披露し、降板時は喝采を浴びた。
今年はキャンプ、オープン戦からアピールを続け、期待通りに開幕ローテーション入りを果たす。だが、シーズン初登板と2戦目は5回を投げ切ることなく早期KOされてしまう。そこに歩み寄ったのが、涌井だった。
エースから助言を受けた若手右腕は、3戦目以降は本来の姿を取り戻した。それまでは変化球に頼るケースが多かったが、4月12日の楽天戦では直球を軸にテンポの良い投球を展開。結果、9回133球を投げ1失点。記念すべきプロ初勝利を完投勝利で飾った。今季5戦目となった4月27日の西武戦も、6回1失点の好投で2勝目をマーク。涌井、石川歩、ジェイソン・スタンリッジに次ぐ先発4番手として、好調なチームを支えている。
マウンド外で見せる意外な一面

マウンド上では帽子を深くかぶりまったく表情を変えない涌井だが、その姿を見続けていると、意外な一面にも遭遇することがある。西武時代の2010年には、2月の南郷キャンプ中に赤田将吾のトレード移籍が決定。入団当時から慕っていた先輩の退団に、涌井は人目もはばからず号泣。現場に居合わせた報道陣は、その姿に驚いた。
当時の西武には石井一久、西口文也などマイペースな先輩も多く、練習後には大勢でサッカーを楽しむなど和気あいあいとした雰囲気があった。だが、ひとたび練習ともなれば涌井はその先頭に立ち、ひたすら練習メニューに取り組む姿勢は若手の道標でもあった。
奇しくも古巣の西武は、涌井退団と時を同じくして2年連続のBクラスに沈み、昨年は3位争いで直接引導を渡した。新天地でも背中で引っ張る寡黙なエースが、千葉移転25周年のロッテを熱くする。