稼働「量」では則本、涌井、菅野、メッセンジャー
投手の評価のベースとなる「勝利数」とは、改めてなにを評価している数字なのだろう。先発投手で言えば、5回以降までチームのリードとマウンドを守り、最終的にチームが勝った試合の「回数」ということになる。
回数の評価なので、単位としては量を評価している。質については「先発」「リード」「5回以上」「結果としての勝利」という条件をクリアできたかという形で問われているが、基本的には143試合という各球団共通の機会に対する占有を競うものとみなせる。
しかし、勝敗というものは打線の援護や相手投手の出来などが影響し、投手がすべてコントロールできるものではない。そうしたものを切り離して、どれだけ機会を占有したかを見ていくために、まず投球回の比較をしておくべきだ。
セ、パ両リーグで最も多くのイニングを占有したのは則本昂大(楽天)で195回、次に涌井秀章(ロッテ)が続き188回2/3となる。セではランディ・メッセンジャー(阪神)、菅野智之(読売)が1、2位となっていた。
長く投げたことを、そのまま投手の頑張りととらえるのはどうかと思う方もいるだろう。もちろん、投手を交代するかどうかはベンチが決めることで、その志向の影響を受ける。先発投手を引っ張りがちな監督もいれば、ブルペンに託しがちな監督もいる。投手陣の台所事情も当然影響する。
ただ、上位でも下位でもわざと負けようとするチームはない。試合を壊した、もしくは壊しそうだと見なされた投手は、マウンドを降ろされる。そのため、年間を通じて見たときに則本や涌井らが長い間マウンドに立ち続けた事実は、それだけで一定の価値がある。
逆の見方をするなら、黒田博樹(広島)や吉見一起(中日)は素晴らしい技術を持った投手だが、その技術を披露できたのは、それぞれ151回2/3、131回1/3という機会に過ぎず、その分価値が下がる、という見方もできる。


次に、一般的には「9回当たりの自責点」を示す防御率などで評価される、投球の質について考えてみたい。
防御率は、勝利数だけでは計れない貢献を見る数字として利用されているが、失点(自責点)というもの自体にも、投手がコントロールできない要素が関わっている。味方の守備や、アンラッキーなヒットのような「運」である。そうしたノイズの混入をさけるべく、確実に責任として投手に帰属すると言える数字だけで先発投手たちを見ていく。
K%は対戦打者の何%から三振を奪ったか、BB%は同じく何%に四球を出したかというシンプルな数字だ。HR/9は9イニング当たりどれだけホームランを打たれたかとう数字である。
FIP(Fielding Independent Pitching)は、三振に2、四球に-3、本塁打に-13というバランスの価値を置いて合算し、9イニング当たりの失点を推定した値となる。バックが同じ程度の守備力を持っていて、極端な不運に見舞われなかった場合、どれくらいの失点率で9イニングを投げ切れたかを、ざっくりと推測した数字だ。防御率同様に、低いほど良い。
100イニング以上先発投手としてのマウンドに立った投手のなかでは、セは菅野、パは大谷翔平(日本ハム)がFIPにおいてはトップに立つ。大谷は飛び抜けていた三振を奪う力、菅野が三振を奪いつつも四球を与えないバランスの良さで傑出していた。
防御率では2位以降を引き離してパのトップだった石川歩(ロッテ)は10番目の数字。もちろん評価すべき質の高い投球を見せたが、優れた先発投手のなかのひとりという位置づけが妥当か。


質と量、両面から見たとき、どんな評価になるのか?
そして、質と量を掛け合わせた数字を出して最終評価としてみたい。FIPがリーグ平均をどれだけ上回ったか差分を出し、それを9で割り投球回をかけた数字を出す。つまりは、
(1)平均的な投手に対し、1イニング当たりどれだけ少ない失点で切り抜ける力を発揮していたか
(2)その力を、どれだけ長いイニング発揮したか
を算出することによる、得点換算した貢献量(抑止失点)の確認である。
セは質・量兼ね備えていた菅野が、2位以下を引き離してトップに立っている。リーグ平均を基準にした比較なので、そのままパの数字とは比べられないが、則本や大谷よりも大きな数字となっていた。
2位はメッセンジャー、3位は岩貞祐太の阪神勢。これは本塁打の出にくい甲子園を本拠地とする恩恵も受けた格好か。しかしそれを考慮しても岩貞の投球にはかなりの価値があったと言える。苦しいシーズンを過ごした阪神だったが、非常に貴重な戦力が台頭したシーズンだった。
DeNAから巨人へのFA移籍が決まった山口俊は6番目という数字になる。138回2/3と担ったイニングは短かかったが、FIP=質が高く、数字を伸ばした。さらに稼働が増やせればペナントレースを左右する働きを見せてもおかしくない。DeNAはあまり残留にこだわる様子を見せなかったが、本当にそれで良かったのだろうか。
優勝した広島は、沢村賞のジョンソンが4番目。黒田、野村の数字もそこまで伸びていない。今年の広島が打でアドバンテージを築いていたチームだったことの表れともとれる。
パは稼働量の則本、質の大谷が競り合う形に。防御率では数字の良くなかった西勇輝(オリックス)が3位。四球と本塁打がトップレベルで少なかった。恵まれないシーズンを送った投手の代表格と言えるだろう。
西武から楽天へのFA移籍が決まった岸孝之は山口同様、リーグ屈指の貢献を見せている。やはり、稼働が伸ばせれば順位に影響を与えるような存在だ。


セーブやホールドにとらわれない、救援投手の評価があってもよいのでは?

同じような方法で救援投手についての数字も出しておく。救援投手は投げるシチュエーションが役割によって様々で、先発投手のようにイニングを均一なものと見なしにくい面もある。だが、終盤は緊迫するとはいっても、特別な打者が続々と現れて打席に立つわけではないので、同じ数字での比較を行いたい。
先発では数字の伸びなかった広島だが、今村猛、ジェイ・ジャクソン、中崎翔太が上位に入った。先発で数字が伸びなかったのは、こちらに配分されていたのも理由か。優勝チームで勝ちパターンを担ったがゆえに登板回数が増えるのは自然なことだが、FIPもかなり低く、質の良い投球を見せていた。
ホールドポイントではトップのスコット・マシソン(読売)が49、次がジャクソンの42だったが、防御率でも引き離していたジャクソンがFIPでも上だった。そのほか、岡田俊哉(中日)、須田幸太(DeNA)、秋吉亮(ヤクルト)らもチームを支えるトップクラスのリリーフと言ってよい働きだった。
パの救援投手は、ペナントレースでのデッドヒートを支えたデニス・サファテ(ソフトバンク)、クリス・マーティン(日本ハム)が僅差で1、2位。
ただ、広島が上位に固まったセとは違い、上位は各球団に分散しており、ブルペンの安定感を保って戦いきった球団はなかったことがわかる。サファテ、先発も務めた岩嵜翔、ロベルト・スアレスらが働いたソフトバンクも、森唯斗や飯田優也が数字を伸ばせず迫力を欠いた。ロッテは主力が軒並み離脱するなか、南昌輝、益田直也らが踏ん張ったことが3位を守る上で大きかったと言えるだろう。
セーブやホールドにこだわらない「最優秀リリーフ」という表彰がもしあれば、今村、サファテという選出を推したい。勝敗に直結する場面を担う役割だけに、セーブやホールドという結果の回数が評価になるのはやむを得ない。だが、また別の視点の表彰があってもいいはずだ。
今年10月、沢村賞の選考委員会委員長の堀内恒夫氏が、沢村賞の基準である「10完投」「200投球回」という項目の見直しを示唆し、評価基準を時代にあったものに変えていこうとする姿勢を見せた。
球界を支えてきた過去の選手を尊重し、そうした人々への評価との一貫性を保つことも重要だ。だが、先入観を一度取り払い、本当に称えるべき活躍とはなんなのかを話し合う時期にきているようにも思う。

