球数は少なく休みも少ないアメリカ 球数は不規則だが休みは多い日本

 先日、MLB、ヤンキースのエース各として活躍する田中将大のあるニュースが話題となった。それは「中5日の登板では好投するが、中4日になると成績が落ちる」というものである。報道時の数字によれば、中5日の際は1点台の防御率が、中4日になると5点台に落ちるという。

 野球ファンにはおなじみの話だが、MLBは先発投手5人でローテーションを組みシーズンを戦う。試合のない日が少ないアメリカの場合は、結果的に先発投手は多くの登板を中4日で迎えることになる。100球をメドにした交代も、ある意味ハードなシーズンを考えてのこと。過去に、球数とピッチングの内容、故障の発生率を集計、比較した結果も合わせて生まれた“基準”である。

 一方、日本のプロ野球はというと、一般的には中6日が多い。試合は基本的に1週間6試合で月曜が休み。6人の投手でローテーションを組めば中6日だ。チーム事情で安定した先発が5人でも、いわゆる“ローテの谷間”に調子のいい投手や新たな先発候補などを投げさせたりする。シーズン終盤の競った段階では変則的になることもあるが、基本的に先発投手は1週間に一度の登板だ。

 MLBと比べると余裕があるように感じるが、替わりに球数は必ずしも100球前後で交代とは限らず、120球前後投げるときもあるし、それ以上の球数を投げての完投もしばしば。ある意味では、臨機応変な先発投手の起用と言えよう。さらに、近年は日本の先発投手も100球前後の交代が目立つ。そのうえで中6日となれば、肩の負担はかなり少ない。

アメリカで大きな話題を呼んだダルビッシュ有の発言

 このようにして、「先発ローテーション投手は中何日がベストか」という問題は、今回の田中の件より以前から、というよりも先発ローテーションというものが定着してから、ずっとあったといっても過言ではない。先頃、トミー・ジョン手術から復帰したレンジャースのダルビッシュ有も、かつて2014年のオールスターゲームの会見で、「MLBも先発投手6人制にし、中5日登板にした方が投手の体を守れるのではないか」と発言。アメリカでも大きく取り上げられた。

 というのも、実は近年のMLBではトミー・ジョン手術をする投手が激増しているという現実がある。アマチュアも含めた傾向なので一概には言えないが、「中4日登板が負担をかけているのではないか」と指摘したのである。ダルビッシュによれば「中4日は短い。球数はあまり関係ないんです。120球、140球投げても中6日あれば靱帯の炎症はとれる」という。逆を言えば、中4日では100球という球数制限をしても炎症がとれないときがある、という意味でもあるのだろう。

 これはもちろん個人差もあるだろうが、日米の先発ローテーション投手を務め、フィジカルとトレーニングに高い関心と深い知識を持つダルビッシュの発言はやはり重い。その後、自らも肘を痛め、トミー・ジョン手術をすることになっただけに、このときの発言はなにかしらの危機を実感していたのかもしれない。

MLBの先発投手増に立ちはだかる選手枠の問題

 難しいのは、MLBには先発投手を5人で回さなければならない、MLBならではの“事情”があることである。それは、“選手枠”の問題だ。

 日米ともに一軍(メジャー)の試合に出場できる選手は25人と決められている。しかし、日本は28名登録可能で、そのなかから25人がベンチ入りする方式をとっている。先発投手が翌日のベンチ入りを外れて休養できる、いわゆる“あがり”ができるのも、このシステムがあるからだ。

 対してアメリカは、登録も原則として25人きっかり。もし、このルールのなかで先発投手を増やすとなると、リリーフ投手か野手の登録人数をひとり減らすか、あるいは登録選手の枠を25人以上に増やす必要がある。前者は戦術上、大きな決断だし、現代野球を考えると特にリリーフ投手が減るのは痛い。仮に先発投手の球数制限をなくしても、一部のトップクラスの投手を除けば、完投が期待できる投手はグッと減るだろう(そもそも、現代のMLBは先発投手不足という見方もある)。

やはり後者の案、登録枠を増やすのが良さそうだが、今度はMLB全体のシステムの話になる。人件費など球団経営にも配慮して決めなければならず、スムーズな解決は難しそうだ。

最新のデータを用いた故障傾向の分析がローテを変えるか?

 ただ、現在、日米の一部球団では、「PITCH f/x」という投球追跡システムなどから得られる膨大かつ最新のデータを、故障防止に役立てようという試みがされている。たとえば各種故障やトミー・ジョン手術をすることになった投手の傾向をより細かく分析し、その前兆をつかんで予防する、といった具合である。もし、こうした取り組みが大きな成果を生み、先発ローテーション投手の人数に起因するなんらかの問題が客観的要素で実証されれば、MLBでも案外、あっさりと選手枠の問題や「中○日」が変わりそうな気もする。

「中○日」という先発ローテーション問題は、かつてがそうだったように、野球の進化、あるいは環境や条件の変化とともにあった問題だ。もしかしたら、いまが時代の大きなターニングポイントなのかもしれない。

著者:田澤健一郎
1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。


田澤健一郎

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。