【岩隈が21勝、内川は右打者歴代最高打率、2008年のプロ野球界】
10年前、みんなまだガラケーだった。
iPhoneが発売されたのが10年前の2008年7月の出来事だ。この年の9月に日本で麻生太郎が第92代首相に就任、11月にはバラク・オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に当選。グラビア雑誌sabraの12月号表紙は川村ゆきえが飾っている。……ってさすがに登場人物すべてが懐かしい。野球界では渡辺久信新監督率いる埼玉西武ライオンズが読売ジャイアンツに4勝3敗で競り勝ち日本一に。原巨人は最大13ゲーム差を逆転してリーグV2達成でのシリーズ進出だったが、最後は西武のスピードスター片岡治大の俊足の前に涙を飲んだ。
個人記録は横浜ベイスターズ時代の内川聖一が打率.378の右打者歴代最高打率で首位打者に。同じくハマの主砲村田修一も46本塁打をかっ飛ばして自身2度目のタイトル獲得。東北楽天ゴールデンイーグルスの岩隈久志が21勝4敗の好成績で沢村賞やMVPを受賞した。突然だけど、皆さんは2008年シーズンのパ・リーグ首位打者と最下位チームを覚えているだろうか? 熱心な野球ファンでも瞬時に答えられる人は少ない気がする08年NPBクイズ。答えは、楽天のリック・ショートで打率.332。そしてパ最下位は王監督がこの年限りで退任した福岡ソフトバンクホークスである。やはり10年間という時間は大きい。現在ここに挙げたすべての選手の所属球団が変わり、中にはすでに現役引退したプレーヤーもいる。あれから長い時間が経ったのだ。
【オリックスを救ったローズ&カブレラのアラフォーコンビ】
こうして振り返ると、約10年前は球界にとっても転換期だった。清原和博、桑田真澄、野茂英雄といった80〜90年代の名選手たちが08年限りで続々と引退し、まだカープ女子なんて言葉が存在しなかった広島市民球場は51年の歴史に幕を下ろした。球界再編から数年が経過し徐々に変わりつつあるNPBの流れにおいて、個人的に印象に残っているのは、オリックス・バファローズの「ビッグボーイズ打線」だ。あの漫画『キン肉マン』のカナディアンマンとスペシャルマンのズンドコタッグチーム「ビッグ・ボンバーズ」ぽい突っ込みどころ満載のユルいネーミング。同時に往年の“いてまえ打線”とか“ブルーサンダー打線”を彷彿とさせるワクワク感もあった。
なにせ、当時のオリックスはイチローが去り、8年連続Bクラス(内最下位4度)の低迷期。そこで07年には巨人退団後は一時引退していた4度の本塁打王経験のあるタフィ・ローズ、広島時代は40発を放つもヤクルトを1年で自由契約となったグレッグ・ラロッカらを補強。翌08年も西武時代に2度の50本塁打をマークしているアレックス・カブレラを獲得した。当時の球団には通算525本塁打の清原和博も在籍しており、そのパワプロのチーム編成のような超重量打線誕生にファンは盛り上がった。
ところが08年シーズンが開幕すると、序盤から最下位に低迷し5月21日にはテリー・コリンズ監督が電撃辞任。ビッグボーイズの命名と吉本のシルク姐さんとの熱愛報道だけを残してコリンズは静かにアメリカへと帰っていった。代わりに指揮を執ったのは大石大二郎監督代行だ。直後にビッグボーイズの一角を担うはずだったラロッカが右肘手術で離脱。清原はすでに左膝の怪我で満足にプレーできず、今年のオリックスもダメか……と誰もが思った矢先、後半戦から怒濤の巻き返しを見せる。2年目の小松聖がエース級の働きで15勝3敗、防御率2.51で新人王を獲得。打線では37歳カブレラが「率.315 36本 104点 OPS.987」、40歳ローズが「率.277 40本 118点 OPS.977」で打点王に輝き、このアラフォー3・4番コンビで計76本塁打、222打点とチーム2位の原動力となった。
【あまりにも儚かったビッグボーイズ打線……】
よっしゃ来季もこの路線で行ったるでぇ〜ビッグボーイズ打線! なんつってオフには99打点を挙げながら楽天をリリースされたホセ・フェルナンデスを獲得。こうしてすでに日本人選手扱いの4番ローズ、さらに3番カブレラ、5番フェルナンデス、6番ラロッカの4人合わせて08年終了時の通算本塁打1014発を誇るとんでもないカルテットが誕生した。
さて、そんな夢いっぱいのビッグボーイズ打線を擁した09年のオリックスはどうなったのか? まず4月23日西武戦でカブレラが3塁ベース上で打球を受けて小指骨折。5月13日西武戦でローズが右手甲に死球を受けて第5中手骨骨折。7月28日ソフトバンク戦でラロッカが死球を受けて右手第5中手骨を骨折。9月13日西武戦でフェルナンデスが相手の打球を左頬に受けて骨折。自慢のBIG4が全員骨折という不運すぎるアクシデントに見舞われジ・エンド。投手陣も先発防御率4.47、救援防御率4.87、総失点もリーグワーストの715失点と完全な投壊状態に陥り、首位日本ハムと26ゲーム差の最下位に沈んだ。結局、シーズン終了後にローズとフェルナンデスが退団、大石監督も解任された。
あまりに儚かったビッグボーイズ打線の夢の跡。確かにチームバランスを考えたら無茶苦茶、けどそのロジカルを超越した無謀さこそプロ野球の大きな魅力ではないだろうか。また「そんなチームもあったよね」とみんなで盛り上がれるようなオーダーを球場で見てみたいものだ。野球ファンはいつかどこかで再び“新時代のビッグボーイズ打線”に出会うことができるのだろうか?
(参考資料)
『週刊プロ野球セ・パ誕生60年 2008-09年』(ベースボール・マガジン社)
『季刊ベースボール・タイムズvol.2 2009プロ野球総集号』(スクワッド)