安定感抜群の投球でエース級の貢献
前週、私がもっともスカッと気持ちよかった試合は、5-0と快勝した7月28日の中日戦。大和の今季初ホームランや、俊介の中押し2点タイムリー二塁打もうれしかったのですが、3連戦の頭を任された秋山の好投が光りました。
7回を投げて8奪三振、無失点。無理のないフォームから投げ下ろされた直球が面白いように捕手坂本のミットに吸い込まれます。低めのコーナーいっぱいに、糸を引くような美しい球道。しびれました。
今季、秋山は開幕から16試合に先発。うち6回以上を投げて3失点以内に抑えるQS(クオリティースタート)は12。QS率は75%です。
こうなればおのずと勝利がついてきます。9勝4敗で「個人貯金」は5。これはメッセンジャー(10勝5敗)と並ぶチームトップですから、2位キープに最大級の貢献をしていると言ってよいでしょう。
不振だった頃と比べると、球速も10キロほど上がっていますし、コントロール、投げ下ろす角度、変化球のキレ、マウンドさばきやフィールディング、打撃……すべてが別人のようにレベルアップしています。
秋山の奪三振率7.69は特筆すべきでもありませんが、与四死球が極端に少なく(15)、投手の制球力を示す指標の1つ、K/BBが9.20とずば抜けて高いのが特徴です。これは規定投球回数を越える投手で12球団トップ。ちなみに2位はマイコラス(読売)で8.83、3位は菅野(読売)で5.36、以下4位則本(楽天)5.00、5位菊池(西武)4.82、6位岸(楽天)4.54、7位美馬(楽天)4.24、8位野村(広島)3.65。「優秀」とされる3.50以上は、12球団でもわずか8人。そうそうたる面々の中で秋山がトップに君臨しているのです(数値はいずれも7/31現在)。
我慢して長所を伸ばす指導がハマる
高卒1年目で4勝をあげたとき、近い将来、秋山は虎のエースになるのだろうと信じて疑いませんでした。その後の6シーズン、なぜこれほどまでに自信を喪失してしまったのか、私には知る由もありません。
伝えられるところによると、優しさ、人のよさがアダになってしまったとか、些細なことにこだわってしまったとか、とにかく秋山のよさが打ち消されていました。
暗黒時代を生き抜いた阪神ファンは、「期待をしない・こだわらない」により、心の平穏を保つことを知っています。
一度は「エースになる」と信じた秋山が、マウンド上で小動物のように自信を失っている様を見て、「ああ、秋山はアカンかったんや」と溜め息をつきました。
ところが秋山は戻ってきました。雌伏の6年の間も、地下で成長曲線を描き続けていたかのように、完璧な姿になって――。
なぜここまで急によくなったのでしょうか。投手の再生に定評のある久保康生二軍投手コーチの指導もあったでしょう。同じ四国出身の高卒生え抜きである藤川球児の助言から開眼したという報道もありました。
すべては推論にすぎませんが、金本監督が率いる阪神タイガースコーチ陣は、基本的に長所を伸ばす指導によって活路を見出そうとしているように感じます。半ばパニック状態にあった秋山に「そこがアカンよ」ではなく、「そこはええで」の声を送ったことで、螺旋の向きを逆転させたのではないかと思うのです。
「今年は調子がいい」という周囲に対し、秋山は調子なんかではなく、コツを掴んだのだと言っているのだそうです。きっとそうなのだと思います。そうだとすれば、そのコツをずっと忘れないでほしいと願うばかりです。
心配されるまでもなく、苦労して苦労して、それはもうやっと掴んだものですから、簡単に失うつもりはないでしょう。
新人秋山が球団に与えた影響
正直、「秋山はアカン」と思いかけていた私ですが、それでも秋山が球団に与えた影響、貢献度は非常に大きいものがあると思っていました。2010年秋山の高卒ルーキー勝利は、1986年の遠山昭治以来24年ぶりのことでした。
それまでの間の阪神では、高卒新人投手が試合に出るということはまず考えられないことでした。上がつかえていてチャンスもなかったでしょうし、体づくり優先という方針もあったのでしょう。でも、結局、何年かけてもほとんどの高卒投手は、試合に出られませんでした。育成能力が欠如していたのです。
でも秋山の活躍以来、阪神は甲子園のスター選手をどん欲に獲りにいくようになりましたし、早い段階で一軍を経験させることも多くなりました。「24年ぶりの秋山」が勝ってくれたおかげで、育成の意識、方法論に変化が生まれました。
その延長線上にあったのが藤浪晋太郎の指名(和田監督よくぞ引き当ててくれました)だと思うのです。その時、秋山自身は不振のどん底にいましたが、あの年の秋山の活躍が1つの尺度になっていたはずです。
「遠山以来24年ぶりの勝利」があったからこそ、ルーキー藤浪は開幕からローテーションに入ることができ、「江夏豊以来46年ぶりの2ケタ勝利」をあげることができたのです。
そして今、8年目の浮上を見せた秋山とは対照的に、藤浪が5年目の不振に陥っています。
プロ野球選手には向かないのではないのかとさえいわれた気の優しい秋山。プロ野球選手になるために生まれてきたと思わせる藤浪。対照的な性格を持つ二人が、今また不思議な交差を織りなしています。
でも、やがて藤浪は秋山の足跡に気づくでしょう。そして、秋山がいたから、自分も復活できた――そう思える日が必ず来ます。
その時、二人は阪神黄金時代を牽引しているに違いありません。