数少ない「消化試合」で若手を試す
前週は、今季最終戦となるはずの6日の試合が雨天中止。5日の1試合だけが行われました。
先発の秋山拓巳が久々の白星を目指しましたが、援護に恵まれず6回1失点で予定どおりの交代。
7回には2年目の竹安大知が登場。わずか9球で3者凡退とすると、そのウラに大山悠輔、植田海が連打でチャンスメーク。俊介が一塁手を強襲する間に(記録は二ゴロ)三走の大山が帰って勝ち越します。
8回は高卒ルーキー才木浩人が登板。二死満塁の大ピンチとなりますが、これを切り抜けます。精神的に追い込まれているのかと思いきや、どこか大舞台を楽しんでいるかのような余裕の表情。なかなかの強心臓が繰り出す、最速149キロのストレートは魅力たっぷりでした。
最後はドリスがセーブ王確定で締めて逃げ切り、竹安にプロ初勝利が転がり込んできました。新人捕手の長坂拳弥も一軍初マスクを無難にこなしました。
同じ日、二軍の本拠地・鳴尾浜では、BFL選抜との練習試合が行われ、2年目の望月惇志が7回9奪三振無失点の好投。相手との実力差があるので、抑えて当然ではありますが、直球は154キロを計時するなど、ケガで思うように活躍できなかったシーズンを明るく締めくくりました。
ここまで、昨季からの「超変革」を象徴するように、若い選手たちの名前がたくさん出てきました。とくに、高卒で阪神に入ってきた選手たちがキラキラと輝いていたのがうれしい週でしたね。
去りゆく「高卒の虎」たち
ところで、このBFL選抜の一員として先発したのが井川慶でした。高卒で阪神に入り、大きく成長し絶対的なエースという存在になりました。2度の優勝を飾ったときも「エース井川」という呼び名は不動のものでした。
いろんなことを言う人がいますが、私は井川という投手が大好きでした。集中したときの獲物を狙うような眼光。ぶっとい太ももの強い蹴り込みから生み出されるパワー。それが乗っかった「ゴーーッ」という音が聞こえてきそうな直球。そしてマウンド上で舞い踊るようなフィニッシュ。全盛時の投球が今でも目に焼き付いています。
今年は二軍でローテを守ったか。じゃ、来季は一軍デビューもあるかもな。おお、すごいぞ井川。これはエースの器だ。よし、ついに阪神にも絶対的なエースが育った。これで暗黒時代も終わり、優勝争いに加わっていける――。
2000年代の夢のような黄金時代は、虎風荘で大きくなった井川とともにやってきたものでした。
井川は去就について明言していませんが、事実上、NPBへのチャレンジには区切りをつけた様子。
型にはまらない、独特な価値観を持った人です。阪神を去り、MLBに移籍した後は思うような活躍ができていませんが、何も困っていないようです。
やりたいことを思いっきり楽しんでやる。そんなところもまた井川らしくていいと思うのです。
また、前週は二軍戦の最終戦が行われ、狩野恵輔選手の引退セレモニーもありました。最後は「代打の切り札」という立場になりかけましたが、振り返れば故障が多く、ほとんど満足なシーズンがおくれなかった選手生活でした。
それでもデビュー以来、読売戦で大活躍するなど大きな仕事をやってのける選手でした。
真弓明信監督の1年目、2009年にはレギュラー捕手として127試合に出場。持病の腰痛さえなければ……と思わないわけにはいきません。
狩野もまた高卒で虎風荘に入ってきた選手。右も左もわからない高校生が、鳴尾浜の寮に入って、野球漬けになりながら大人になっていきます。いつか甲子園で活躍したいという夢を持って、毎日必死で練習しています。
その日が来ることを、私たちはひっそりと待って見守っています。でも、多くの若者は夢破れて去っていってしまうのです。
とくにかつての阪神はひどかった。一度も一軍に上がれずにユニフォームを脱いでいく選手の多かったこと。それが着実に変わってきたのは、本当にうれしいことです。
今年のドラフトでも、高卒選手を狙っているとのこと。結果はどうなるかわかりませんが、また阪神タイガースで大人になっていく選手が入ってくるのが楽しみです。
その成長物語を見守り、成功を一緒に喜ぶことこそ、ファンの一番の楽しみですから。
高卒じゃない選手への愛情は……?
では、大卒や社会人から来た選手への愛情は薄くなるのか?と問われれば、「いいや、そんなことはない!」と胸を張って答えます。
いよいよ引退試合を迎えることになった安藤優也投手や、ケガから復帰したルーキー糸原健斗のような、大学、社会人と進んでコツコツと力をつけて、ようやくプロ野球から指名された遅咲きタイプ。「後がない」という必死な姿を見れば、そりゃもう文句なしで応援したくなります。
だいたい、生え抜きかどうかも関係ないんです。独立リーグ福島でユニフォームを脱ぐことになった加藤康介投手、同じく引退を決意したと報じられた、中日から移籍の新井良太選手、みんなみんな、タイガースの一時代を支え、ともに戦った大事な仲間です。経歴、生え抜き、トレード、そんなの関係ありません!
――結局、阪神の選手なら誰でもいいみたいです(笑)。ということで、タイトルについて「看板に偽りあり」と訂正し、今日はおしまいです。