「スイッチ転向の壁」は低くなった?
秋季キャンプも終わってしまいましたね。何人かは軽いケガ、違和感で練習を控えたり、早めに帰ったりしたようですが、それ以外の選手たちは厳しい練習で体力的にも技術的にも手応えを掴むことができたようです。
この後も甲子園での練習は続くようですし、今の選手たちは、オフの努力こそが真の競争とばかりに真面目にやりますから、どんな成長を見せてくれるか来春が楽しみです。
そんな中、突如として飛び込んできたのが、「江越スイッチ挑戦」という話題。誰が言い出したことなのかは定かではありませんが、片岡ヘッドコーチなどが「右で当たらないから」などとコメントをしています。
はじめは、そんあアホな……と思いましたが、実際のところクセのないスイングで、バッティング練習では柵越えの打球も飛ばしているとか。
ふだんから、本来とは逆のスイングを練習に取り入れる選手が多くなったので、こんなふうにすぐに両打ちに対応できるのだそうです。両方で振るメリットは、筋肉のバランスを整えてケガを予防したり、体の使い方がよくなってスイングにパワーを与えることにあります。
なるほどね。子どものころからのことを考えると、練習の質と量は、昔の選手たちよりずっと多いだろうし、理にかなったことをやってきているから、昔ほど「スイッチ転向の壁」」は高くないのかもね。
スイッチヒッターは日本ではかなり珍しい存在ですが、阪神にはスイッチヒッターがたくさんいます。
まずは西岡剛。高校時代までは右投げ左打ちの選手でしたが、ロッテに入ってスイッチに転向しました。この、左打ち→両打ちっていうのは珍しいパターンですね。
植田海は、俊足を生かすために右打ちからスイッチへ。高卒でプロ入りして2年目のこと。これはよくあるパターンですね。
そして、現在「渦中の人」である大和。高卒でプロ入りして12年目の今季、スイッチに挑戦。なんと100試合に出て打率.280(キャリアハイ)、右が.287、左が.276の成績を残し、スイッチ転向は大成功でした。
「頭のスランプ」に効く「別の角度から見てみよう」
そして江越です。これはちょっと考えてもいませんでした。
確かにチームでもトップを争うような俊足で、外野守備のうまさにも定評がある選手です。その身体能力を生かす意味で左打ちに挑戦させるというのは、考えてもよさそうなことでした。
今までそんな発想にまったくならなかった理由は、一つには来季で大卒4年目となる年齢。「今さら」というのがあったわけです。でも、これは大和が見事に払拭してくれました。遅すぎるということはありません。
それよりも江越の持ち味というかキャラクターですね。身長も182センチと大きいですし、体もしっかりしています。駒大出身ということで、入れ替わりとなった新井貴浩がつけていた背番号25をもらって、「当たるとでっかい一発屋」というイメージがありました。
持ち前の長打力を生かしたいという方向性でいつも考えていたので、むしろ俊足・攻守はおまけみたいな感覚でした。
ところが、バッティングは本当にうまくいかなかったですね。1年目は56試合で打率.214、OPS.637、本塁打5。2年目は72試合で打率.209、OPS.645、本塁打7。
いよいよレギュラー奪取が期待された3年目の今季でしたが、28試合で打率.077、OPS.410、本塁打は0に終わってしまいました。
その打席の内容は、クソボールでもなんでも、来る球を全部振ってしまったり、逆に甘い直球にまったく反応できなかったりと残念なもの。まるで「頭のスランプ」に陥ってしまっているようでした。
誰でもうまくいかないときはあるわけです。そんなとき、「別の角度から見てみたらどうだ?」なんていう先輩のアドバイスで、ハッと何かに気づいたりすることもあります。
今回の江越のスイッチ挑戦も、まさにそんな感じかもしれません。
ただ、「別の角度」と「逆の打席」では発想の転換が大違いなので、本当によくそれを思いついたなあ……と感心します。
「一発逆転」で激戦の外野に挑む
もちろん、この試みが成功すると決まったわけではありません。そんなに世の中は甘くない。
これまで頑張ってきた右打席でできなかったことが、左に変えたらできました……なんて、都合よくはいかないですよね。江越がこれからやらなきゃいけないこと、乗り越えなきゃいけないことはたやすいことではないでしょう。
ただ、本当に自信がなくなって、いわばパニックになってしまって「頭のスランプ」になっているのなら、これはとてもよさそうです。
左打席で何も考えないで、とにかく数をこなすのは、なんとなくよさそうな感じがします。
それに、なんといっても身体能力はトップクラスなのですし、その体をうまく使い切れていないのであれば、違う運動で刺激を与えてやるのは、なんとなくよさそうです。
どこまでいっても、根拠のない「なんとなく」なんですけどね(笑)。
阪神の外野はかなりの「狭き門」です。福留、糸井はまだまだチームの中心です。打撃がよくなって存在感を増した俊介がいて、20発の中谷がいて、守備の猛特訓で捲土重来を期す高山がいます。同じく守備を上げてレギュラー奪取を狙う伊藤隼、もし内野のポジション争いからこぼれたら、西岡、大山あたりも外野で復活を狙うことになります。いやあ、大変ですよ、本当に。
そうなると、江越は一発逆転狙いでいかなきゃいけません。ただ、江越には足と守備がありますので、あとは打撃の開眼だけ。これまでのイメージを変えるダイナミックなスイッチヒッターとして頭角を現せば、一気にレギュラー獲りもありますよ。
だから、このスイッチヒッター挑戦は江越にとって損はありません。もうそれは、「ハズレなしの宝くじ」と言ってもいいのです。
「5等300円」かもしれないけど(笑)。