前代未聞! 猛虎魂あふれる国語辞典
耳の早い虎バカさんのもとにはすでに情報が入っていると思うが、近代日本で辞書の歴史を切り開いてきたあの三省堂から、『三省堂国語辞典 第七版《阪神タイガース仕様》』なる辞書が発売された。今回は、この辞書がどんなもので、なぜこのようなものが世に出ることになったのか、売れているのか……そんなことをお伝えしようと思う。

写真のように専用のケースにはおなじみのペットマークとタテジマが印刷され、ひっくりかえすと裏側には球団旗、そしてグッズに必ず貼られている球団承認のホログラムシール……っぽいものが印刷されている。本書は税別3000円なので、そのうちのなんパーセントかは球団に入り、選手の給料とか、遠征先の食事代とか、とにかく球団のために使われることになる(と、思いたい)。
宣伝用のオビには、甲子園ライトスタンドにいるファンのユニフォームさながらに、『六甲おろし』1番の歌詞がそれっぽく記されている。
ケースから本体を取り出すと、表紙は黄色×黒のカラーリング。落ちつくわあ。ふつう、黄色×黒は「警戒せよ!」の意味だけど、落ちつくわあ(笑)。ビニール表紙にエンボスでペットマークと書名がバッチリ刻印、決まってまっせ。

攻めてる国語辞典だけど、「用例」の攻めは控えめ
中身をいろいろ見せちゃうと問題かもしれないので情報だけ伝えると、普通の辞書と違うのは、見返しの部分。いい写真ねえ、これ。いつの読売戦だろうなあ、ナイター7回ウラ直前の甲子園。そして扉はケースと同じデザインだ。うしろの見返しは大きな球団旗と球団ロゴ。
中身については、普通の辞書だ。ただ「三国」の略称で知られる『三省堂国語辞典』は、矢野二軍監督のような「超積極的」編集方針で知られているらしい。新語の類をアグレッシブに取り入れているのだそうだ。たとえば、「つぶやく」にはツイッターのことも書いてあるし、「どや顔」なんて項目もあった。
ところが、中身で「阪神タイガース仕様」といえるのはわずか3語だけみたい。辞書本体の中に「刊行記念読者謝恩キャンペーン」というペラチラシが投げ込まれていて、それによると、3語のみオリジナル用例が収録されていて、赤い文字で記されているとのこと。6月末までに応募券とともに応募すると図書カードが当たるらしい。
しかーし、このチラシにはこれ以上の情報がない! HPで調べると、球団ペットマーク入りオリジナルデザインの図書カード500円分を抽選で100名様にプレゼントということだった。
阪神タイガースで辞書というと、いっとき「ジーニアス和英辞典」が話題になった。今の版がどうだかはわからないが、用例が阪神ネタばっかりだったという。そういう意味では、今回の「三国」、オリジナル用例3つはいかにも寂しすぎる。ここでもアグレッシブに攻めてほしかった。もし、またやるときにはぜひお願いしたいところだ。
そんなこったろうと……中の人に聞いてみた
買った辞書をながめながら書けることはこの程度かな。それじゃつまらないので、思い切って三省堂さんに取材してみた。幸いなことに、宣伝を担当しているAさん(ご本人のご希望によりお名前はふせる)に話を聞くことができた。最後にAさんへのインタビューを収録して、この記事を終わる。
◇ ◇ ◇
――なんでまた阪神タイガース版を出すことになったのですか?
Aさん:一つには、辞書の市場が毎年数%ずつ縮小しているという厳しい現実があります。少子化だけでなく、電子辞書や、オンライン辞書を利用する方も増えていますので。新たに買い直していただくには、モノとしての魅力をなんとかアップさせる必要があると。
――え、ええ、なるほど。
Aさん:実は各社さんもかなり工夫されているんですね。なので、うちでもいろいろなアイディアを検討する中で、『三省堂国語辞典』として、できるだけ幅広い層に訴えるジャンルで攻めたいとなりまして。そうしたら、やっぱりプロ野球だろうと。プロ野球なら阪神タイガースだろうと……。
――今、むっちゃ飛躍がありました。
Aさん:ええ、あのう、営業の中堅のひとりが「絶対、阪神です。間違いないです」と……。
――そうでしょう。そうでしょう。そんなんがいたハズです(笑)。
Aさん:え、ええ。そうしたら今度、出版局長というのがおりまして、本来は別の仕事をしているものなのですが、「だったら自分がやる」と言い出しまして……。
――ね、そうでしょう。そんなこったろうと思いました(笑)。新聞広告で見ましたけど、すでに重版が決定したとか。
Aさん:はい、おかげさまで、情報公開後すぐに一般のお客様や書店様から大きな反響がありまして、2月28日の発売より2週間ほど前に重版が決定しました。
――初刷はどれくらいだったのですか? さしさわりなければ。
Aさん:はい、2万部です。
――2万ですか?! ほう……すごいですねえ。当たり前ですけど、購買者は全員阪神ファンですもんねえ、アホですねえ(笑)。
Aさん:いえいえ、ありがたいことでございます。
――時期もバッチリでしたもんね。ここにも「ロサリオ効果」が……いや、こっちの話です。発売後の売れ行きはいかがですか?
Aさん:取次さんを通じて、まだ全国の書店さんに並びはじめたばかりなのですが、POSデータを見る限り、ちょっと、かなり、ほかにはないようないい動きをしています。熱いタイガースファンのみなさんに感謝しております。
――なんのこれしき、こちらこそ「猛虎魂」に感謝です。お忙しいところ、ありがとうございました。
Aさん:こちらこそ。どうぞよろしくお願いいたします。