考えようでは負けっぱなしのオープン戦もまた有意義

 オープン戦は、わずか2勝で最下位。ここまで負けると逆にすがすがしい。そして、こんなに負けたのに全部チャラにしてもらえて、すごくトクした気分。そんな感じでいいんじゃないかと思う。

 弱いから負けた――確かに。しかし、負けたから弱くなったというのも多分にあろう。初めは大したことなかったけれど、だんだん負の空気が厚くなってくると、まとわりついて離れなくなる。しかし、また全選手がオープン戦とはまったく違う緊張感の中でリスタートするわけだから、そこでうまくトントンと勝てれば全然違う空気になる。

 ただ、金本知憲監督の心中は穏やかではないだろう。いろいろ構想はあっただろうが、ほとんど手応えを感じられないまま本番を迎える。ロサリオの導火線にすぐ点火してくれるだろうか。ショート糸原健斗・セカンド鳥谷敬という二遊間で本当にいいのか。1つ年をとった福留孝介が額面どおりに働けるのか……。

 ただ逆に言うと、これだけ思いどおりにならないっていうのも貴重な経験だ。オープン戦期間中にそれを味わい、「想定外を想定する訓練」は十分に積めた。これがチームの危機管理や、活性化に繋がっていくのなら、非常に有意義な「負けっぱなし」になる。

外野に帰ってきた「背番号53」

 それに「思いどおりにならない」は、マイナスのことに限らない。チームが躍進するには、「思ってもいなかった嬉しい誤算」がたくさん必要なのだ。そうでないと、全体の士気は高揚しないし、大きな勢いになっていかない。

 マイナス面に備える危機管理も大事だが、希望の光を絶対に見落とさないために、「意外なプラス」を待ちかまえるイマジネーションも重要だ。それを「妄想」とも言うのだけれど(笑)。

 私が今季こじつけたい妄想ポイントは、「背番号53久々の復活」だ。赤星憲広氏が引退したのが2009年のオフ。それ以来、8年、背番号53の後継者は現れなかった。本人はもちろん、ファンもショックを受けた引退劇。頸椎のダメージによって、まだまだ余力ある赤星が引退したのは本当に悲しかった。

 ところで、8年間ずっと空き番号だったかというとそうではない。2014年に建山義紀が背番号53をつけて、8試合に登板している。球団としては、あまりにも重くなった背番号を「ロンダリング」したかったのだろう。しかし、建山は往年の投球はできなかった。ファンの意識というのは勝手なもので、いつのまにか「なかったこと」のように扱ってしまう。かく言う私もすっかり忘れていた。

 さて、塁に出れば当たり前のように盗塁を成功させた男。二度の優勝へと駆け込んだ韋駄天の背負った番号は、そうやすやすと新人に与えられなかった。しかし、月日は人の心を変えていく。「そろそろいいんじゃない?」と思っていたところに、赤星と同じドラフト4位の俊足ルーキー島田海吏が登場、背番号53をもらった。あの番号がグラウンドを走っているのが見られて本当に嬉しい。

 だが、島田と赤星とでは境遇が違いすぎた。いきなりレギュラー獲得とはいかなかった。そりゃそうだ。赤星は社会人出身、しかも当時の阪神は選手層が薄く、センター・新庄剛志がFAで抜けたばかり。今の島田の状況とは随分違う。

 島田は、脚力は十分だが、走塁技術という面ではまだまだだ。守備力も向上の余地がたっぷりある。それでも二軍戦では全8試合に出場し、すでに5盗塁を決めている。今季どこかでその足が武器となり、チームの空気を変える存在になるに違いない。

後輩たちもブレーク待ったなし!

「背番号53の復活」により、赤星と同じ亜細亜大出身の2人もまたチームにインパクトを与えそうな予感。新人の髙橋遥人は、25日の二軍戦で7回2/3、104球を投げた。遠くない将来、先発ローテに組み入れられることだろう。コンディションを見ながら、どんどん使ってほしいところだ。

 そしてもう1人、「亜細亜魂」を継ぐ男が板山祐太郎だ。今でこそ冷静、賢明なコメントで有名な解説者赤星氏だが、現役時代はものすごい闘争心……っていうか、「瞬間湯沸かし器」(←死語?)だった。板山も熱いハートの持ち主。ルーキーイヤーは、キャンプから同じ外野で左打ちの高山俊にメラメラとライバル心を燃やした。だが、一軍でヒットを量産したドラ1に対して、同期のドラ6は実力の差を見せつけられた。

 打撃で壁にぶちあたった2年目を越えて、3年目の今季は二軍で4番を任せられている。現在8試合出場で12安打1本塁打2盗塁。阪神の外野は層が厚いが、二塁も守れるのが強みだ。もともと類い希な身体能力を持っているので、打撃・守備の技術がついてくれば、堂々のレギュラー候補に浮上する。

 もちろん外野も二塁手も入り込むのは大変だ。でも背番号53復活年に「思ってもみなかった男」板山が、突如としてブレークするイメージはぜひともみんなで持っておいてほしい。


鳴尾浜トラオ