鳥谷、今季初猛打賞で不振脱出なるか
阪神タイガースのスタートは、7勝7敗で勝率5割。開幕当初は打線が活発だったが、最近はサッパリ打てず。完封でもしなきゃ勝てない試合が続いた。でも、好調なDeNAや広島に勝ち越しての5割確保は、悪いなりに踏みとどまっていると言うべきかもしれない。
とくに「悪目立ち」してしまったのが鳥谷敬だ。日曜の試合こそ3安打して勝利に貢献したが、それまではもうどうしようもないほど不調を極めた。ただヒットが出ないだけでなく、打球そのものに力がない。守備での動きもキレが感じられない。どこかが痛いのかと思わせるほど。
元気がないからそう見えたのかもしれないが、何か体が小さくなったような印象を受けた。はじめのうちは右の上本博紀との併用でセカンドのスタメンで使われたが、途中から西岡剛にとってかわられた。
ところが、連続試合出場が継続しているため、試合展開と関係なく代打や守備固めで途中出場する。あまりにも元気がなかったので、ムリに試合に出すのはどうなんだろうと思わせるほどだった。
球場の雰囲気もだんだんそんな感じになっていたし、報道もされた。本人としても尻に火が点き、「必死のパッチ」でやった結果が日曜の猛打賞だったのかもしれない。
FA宣言からの「何ごともなかったかのよう」
もちろん鳥谷は特別待遇に値する選手ではある。スターとして長年タイガースを引っ張ってきたのは間違いないのだから。
まずは入団の経緯がよかった。東京六大学の三冠王が読売からの誘いを蹴り、「お金じゃない」と阪神を逆指名したエピソードは痛快の極み。
広い守備範囲を誇り、ショートとしては十分な打撃成績も残した。顔も大きな武器。やっぱりいい男は人気がある。キャプテンという立場も板についた。スターとして、入団から引退までひとつの球団で選手生命をまっとうする「フランチャイズ・プレーヤー」へ一直線だと信じていた。
鳥谷にとって大きな岐路になったのが、2014年オフのFA宣言。メジャー移籍を希望した。もう忘れるべきことかもしれないが、あえて蒸し返す。あのとき、チームは鳥谷の残留を無期限で待つとしながら、移籍する場合にも備えなければならなかった。次期ショートスタメンに大和を指名するなど対応に追われた。その大和は今、他球団でショートのレギュラーを張っている。
FAは頑張ってきた選手にとって勲章であり、権利だ。だから、それをどう使おうともちろん自由。入団時に「ゼニカネじゃない」と言った鳥谷だから、メジャー挑戦は純粋な向上心から希望したことだろう。
しかし、私はショックだった。フランチャイズ・プレーヤーになることを信じて疑わなかった鳥谷がFA宣言する。言葉は悪いが「裏切り」に感じた。
でも、そうなるには理由があったのだろう。阪神ファンと鳥谷の間には、ずっと前から「微妙な亀裂」が存在していたのかもしれない。
「東京六大学の三冠王」は、プロ野球デビュー後はつねに打撃成績で同門同期の青木宣親の後塵を拝した。それもあって、阪神ファンの鳥谷の打撃評は「ショートとしては十分」にはならず、「期待ほどではない」「もっとできるはず」だった。
それが「亀裂」だったのかはわからないが、とにかく鳥谷はフランチャイズ・プレーヤーになる将来を捨てて、メジャー挑戦に踏み切った。
しかし、結果的に鳥谷はメジャーに挑戦しなかった。そして、何ごともなかったかのように、超大型契約で阪神に残留した。それは球団も望み、ファンも望んだことではあった。形としては何ごともなかったかのようだったが、そんなわけはない。
時間がたつと、見たくないことは見えなくなるし、イヤなことは忘れてしまう。でもやっぱり残っている「何か」はある。超大型契約も、連続試合出場記録も、一度はあのとき鳥谷自身が捨てたもの。そんなに大事にすることだろうか。
あの時、私は鳥谷にただ「引退まで阪神でやります」と言ってほしかっただけ。あるいは、もしメジャーに挑戦するというのなら、マイナー契約だろうがテスト生だろうが、行ってほしかった。それでもしボロボロに失敗してしまったとしたら、「鳥谷よ、もういいから阪神に帰ってこい」という気持ちになっただろう。まあ、そんなの鳥谷にはまったく似合わないのだけれど。
まるでフランチャイズ・プレーヤー
まあ、そんなことを蒸し返したり、思い出したりする必要がないくらい、鳥谷が活躍すればいいだけのことではある。さてその一方で、鳥谷と同じ1981年生まれのある選手が、「まるでフランチャイズ・プレーヤー」という振る舞いをした。ランディ・メッセンジャーだ。
外国人選手として9人目のFA権を獲得。他球団への移籍の可能性を問われて、こう答えた。
「タイガースというチームがチャンスをくれた。ないよ。キャリアをここで終わりたいし、他にいくつもりはない」
外国人の場合、契約が切れれば事実上の「FA」なので、メッセンジャーはこれまでいくらでも他球団へ移籍するチャンスがあったはず。MLB球団からもいいオファーがあっただろう。それでもその都度、ずっと阪神でプレーしたい、このチームで優勝したいと言ってくれている。
ハイスクールを出てプロ野球の世界に飛び込み、リリーフ専門ながらメジャーでも173試合に登板している。しかし、本当の一流選手に育ててくれたのは阪神タイガースだと、恩義を感じてくれている。チームへの尋常じゃない情愛が伝わってくるからこそ、ファンはメッセンジャーを愛するのだ。
もっとも、素晴らしい投手であるからこその「愛」だ。これが毎回毎回打たれてしまったり、しょっちゅう審判から退場させられたりしたら、愛もクソもない。やっぱりファンというのは勝手だ。