ロサリオの一発を呼び込んだ植田の出塁

 甲子園で読売にボコボコにされ、広島でも負け越して、上位3チームに水を空けられそうになっている我がタイガース。いま、まさに前半の苦しいところだが、なんとか本拠でのDeNA戦では勝ち越して、食らいついていってほしい。

 4月30日の試合では、阪神打線の浮沈を決めるロサリオにようやく一発が出て、広島に一矢報いることができた。これでなんとなく展望が開けてきた。そして、それをアシストしたのが一塁で二盗の構えを見せて、マウンドの一岡竜司に失投させた植田海だった。この日、2試合連続でショートスタメンに起用された植田は、一塁線へのセーフティーバントを含む2打数2安打、さらに3四球を選んで全5打席で出塁。1盗塁、2得点と自分がやるべき最高の働きを見せた。

 そういえば、オープン戦で負けまくっていた開幕前、この連載で植田を入れるオーダーを提案したことがあった。

 1 二 上本(鳥谷)
 2 遊 植田
 3 右 糸井
 4 一 ロサリオ
 5 左 福留
 6 三 大山(糸原)
 7 中 俊介(中谷)
 8 捕 梅野

 これがそれ。ちなみに29日の先発オーダーは次。

 1 二 鳥谷
 2 遊 植田
 3 右 糸井
 4 一 ロサリオ
 5 左 福留
 6 三 糸原
 7 中 髙山
 8 捕 梅野

 センターに髙山が入ったが、まあ意味は同じ。べつに「ほれ見ろ」と自慢したいのではない。ようやくいい感じのオーダーになったことを素直に喜んでいるだけだ。開幕から1カ月。まだ遅すぎるということはない。

苦しむ若手たちだが個性の芽は出ている

 ところで、キャンプのときに心ときめかせてくれた若い野手たちは、いまどうしているのか。二軍選手たちの打率をざっとながめるかぎり、とくに目を惹くようなものはない。規定打席に到達していて「そこそこ」なのは、板山祐太郎の.272と、長坂拳弥の.270くらい。レギュラーを決めて戦っているため、北條史也、江越大賀、熊谷敬宥、中谷将大も規定に達しているが、のきなみ低打率だ。

 しかし、打率ばかりを見ていると本質を見落とす。彼らの個性はしっかり出ているのだ。打率.202の北條だが、出塁率となると.360でリーグ7位に跳ね上がる。江越の4本塁打はバティスタの6本に次ぐリーグ2位タイ、打点17は1差でやはりリーグ2位タイだ。熊谷の14盗塁はリーグダントツ。中谷の6二塁打はリーグ2位タイ。陽川尚将もしっかり3本塁打を打っている。

 まだ未完成である野手にとって、打率とは「バットコントロールの良さ」を計る目安のひとつでしかない。実際は足の速さや運の良さも数値に影響するから、本当にただの「参考記録」だ。

 それよりも、それぞれの選手がどんな長所を持っていて、それが今後どれだけ伸びそうなのか、それを正しく想像することのほうがずっと重要だ。北條の四球を奪う技術、江越・陽川・中谷の長打力、熊谷の走塁、そして板山と長坂のバットコントロール。さらに江越、中谷、熊谷には守備力もある。やっぱり楽しみじゃないか。打率を見て失望している場合じゃない。

成長曲線と完成形をイメージする想像力

 最終的には、みんなに総合力の高い選手になってほしいが、そのアプローチはそれぞれ違っていいのだ。とにかく長所だけをガンガン出していけばいい。

 あとは使う側の力量だ。使えるときを見逃さずにどんどん経験を積ませる。それができるかどうか。若手選手は経験値が増えると、長所は飛躍的に伸びていく。その一方、短所によって大きな失敗をすることもある。それでも、経験によって短所も少しずつ改善されていく。

 30日の試合で植田は併殺を焦って遊ゴロを捕球ミスした。本来、長所である守備でのミスだが、これなどはまさに経験不足から来るもの。一軍での試合出場が増えていけば焦ることもなくなり、本来の実力が存分に出せるようになる。飛躍的にいいプレーが出るだろう。その一方、短所である打撃についても着実に良くなっていくはずだ。

 どの選手にもデコボコがある。首脳陣がリスクを取って「デコ」に期待をかけ、「ボコ」による失敗に目をつぶる。成長に必要な失敗の責任を負い、「気にするな、それでいい」と励ます。心を折ることなく、成長曲線と将来の完成形をイメージしつづける。結局のところ、育成とはそれができるかどうかに尽きる。

 決して乱暴に扱ってはいけない。粗雑な言葉を使うこともあるかもしれないが、それでも慈しみ深くしなくてはいけない。朝顔の花をタネから育てるように、ていねいに水をやり、慎重に肥料を与えなくてはならない。学ぶ姿勢さえあれば、いまの阪神のコーチングスタッフにもできるはずだ。期待している。

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 さて、「虎バカ旬だより」の連載はこれにて最終回です。ご愛読いただきましたことに心より感謝を申し上げます。なお、阪神については毎朝ブログを書いていますので、そちらをごらんいただけると嬉しく思います。

自称阪神タイガース評論家 by 鳴尾浜トラオ

 なお、こちらでも、またまったくちがった毛色の記事でお目にかかれたらと思っておりますが、ひとまずこれにて。長い間ありがとうございました。


鳴尾浜トラオ