文=池田敏明

高校野球は甲子園、高校サッカーは国立

 スポーツの世界では、“聖地”と呼ばれる特別な場所がいくつか存在する。長い歴史を持つこと、重要な大会が開催されること、人々の記憶に残るような試合が数多く行われたこと、そして、競技者にとって憧れの地であること。“聖地”になるための条件はいくつか考えられる。

 日本のスポーツファンが真っ先にイメージする聖地と言えば、選抜高等学校野球大会、そして全国高等学校野球選手権大会の開催地である阪神甲子園球場(以下、甲子園)ではないだろうか。1920年代から会場となっている甲子園球場は、高校球児にとってはまさに憧れの舞台。蔦の絡まった外観に、天然芝と黒土のグラウンド、4万7000人以上を収容する巨大なスタンドと独特の雰囲気があり、これまでに幾多の名選手がプレーし、数々の名場面、伝説的なプレーを生み出してきた。試合に敗れた球児たちが「甲子園の土」を持ち帰るという伝統も、聖地としての価値を増大させている。

 高校野球の聖地が甲子園なら、高校サッカーの聖地は2014年5月31日に閉場となった国立霞ヶ丘陸上競技場(以下、国立)になるだろう。年末から新年にかけて開催される全国高等学校サッカー選手権大会では、準決勝、決勝の試合のみ(1999年度の第78回大会以降は開幕戦も)開催される。大会の全試合が甲子園で開催される高校野球と違い、4チームないし6チームしか立つことが許されない“狭き門”だ。日本代表の試合や天皇杯決勝、Jリーグヤマザキナビスコカップ(現JリーグYBCルヴァンカップ)決勝などで使用されてきたことも、高校生たちが憧れる気持ちを助長させているはずだ。

 国立でも数々のドラマが生まれ、後に日本代表や海外のクラブでプレーすることになる選手たちがプレーしてきた。国立での最後の開催となった2013年度の第92回大会では、星稜がリードしていながら富山第一が後半ロスタイムに同点に追いつき、延長戦の末に逆転勝利を飾るという劇的な優勝でその歴史に幕を下ろした。

 翌93回大会からは埼玉スタジアム(以下、埼スタ)が準決勝、決勝の舞台となっている。埼スタは2002年日韓W杯の試合会場になり、6万3700人を収容する日本最大のサッカー専用スタジアムだが、今のところ国立ほどの“聖地”感は醸し出せていない。準決勝、決勝の会場となって日が浅いことに加え、過去の大会では1回戦、2回戦の会場になったり、埼玉県予選の決勝で使用されたりと、意外に使用頻度が高いのがその理由と考えられる。

ラグビーの聖地は3カ所!?

©Getty Images

 2019年に日本でワールドカップが開催されるラグビーの場合はどうだろうか。「西の花園、東の秩父宮」と称されるように、大阪府東大阪市にある東大阪市花園ラグビー場(以下、花園)と東京都港区にある秩父宮ラグビー場(以下、秩父宮)が“二大聖地”と言える。花園は日本初のラグビー専用スタジアムであり、全国高等学校ラグビーフットボール大会のメイン会場だ。大会自体が「花園」の愛称で呼ばれ、高校生ラガーマンにとっての憧れの舞台となっている。一方の秩父宮は関東地方を代表するラグビー専用スタジアムで、トップリーグや日本代表の試合が開催される。花園は19年W杯に向けて改修することになっているが、注目は秩父宮の処遇だ。

報道によると、2020年前までに秩父宮ラグビー場を取り壊し、駐車場とした上でオリンピック終了後に新しい球場を建設に着手し、完成した後旧球場を取り壊す。
神宮球場と秩父宮ラグビー場が建て替えへ!野球やラグビーの開催はどうなる?

 ともに老朽化が進んでいる秩父宮と明治神宮球場を、場所を入れ替えながら建て替え、同じく建て替え工事をしている国立競技場ともども、神宮外苑地区を“レガシー(遺産)”として後世に残す計画のようだ。

 ちなみに、ラガーマンにはもう一つの聖地がある。長野県上田市から須坂市にまたがる菅平高原だ。100面以上のグラウンドを持つこの地には、夏になると高校や大学のラグビー部を始めとする多くのチームが集結する。標高1000メートルを超える場所に位置するため夏でも冷涼でプレーしやすく、また高地トレーニングの効果も期待できる。日本代表のキャンプもこの地で行われており、ラグビーW杯の直前には多くの代表チームがこの地でキャンプを張る可能性が高い。

 最後に“格闘技の聖地”後楽園ホールを紹介しよう。東京都文京区の後楽園ホールビル5階にあり、最大収容人数2005人、座席数1403席と小規模な会場ではあるが、ボクシングやキックボクシングといった格闘技やプロレス興行の聖地として、コアなファンから愛され続けている。ほぼ毎日、何らかのイベントが開催されており、5階へと上る階段の壁は、開場を待って列をなすファンたちが書き連ねたという落書きで埋め尽くされている。落書きはれっきとした違法行為であるが、ここにも後楽園ホールの歴史の深さが表れている。

 2020年東京五輪に向けて、様々な会場が整備されている。真新しい会場で数々のドラマや伝説が生まれ、新たな“聖地”となることを願ってやまない。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。