ユニフォームデザイナーとしてのこだわりを
みなさん、はじめまして。大岩Larry正志です。このたび、ご縁があってこちらで連載させていただくことになりました。どうぞ、よろしくお願いします。
私は小さい頃からの野球好きで、過去には『野球』をテーマに個展をやらせていただいたこともあります。申し遅れましたが職業はアートディレクターです。
『日本の野球をデザインで変えたい』
『メジャーリーグのようにレプリカユニフォームを街でカジュアルに着られるようなデザインにしたい』
と、そんな思いを持っていろいろな活動をしてきた結果、近年はプロ野球チームのユニフォームをデザインさせていただくことも増えました。過去に、西武、ソフトバンク、そして現在は東京ヤクルトと共に楽天のユニフォームやロゴ、グラフィックをデザインさせていただいています。野球オタク&ユニフォームオタクだった私としては、これ以上ない仕事で、楽しんで制作させてもらっています。
そんな私が連載をやらせていただくにあたってお話ししたいのは、野球のデザインについて。ひとつひとつのユニフォームができるまでにこんな風に考えられているんだなあ、などと思ってもらえるようなことを、ユニフォームデザイナーとしての観点からお話しができればと思っています。
ということで連載初回となる今回お話しするのは、今年の東北楽天ゴールデンイーグルスの限定ユニフォーム『BLACK EAGLES』について。楽天球団とは、2012年のイーグルスターを皮切りに、もう6年、ユニフォームなどを手がけさせていただいています。

※2012年にはじめて手がけた限定ユニフォーム『イーグルスター』。球団史上初のストライプデザインでした
ポイントは『力強いイメージ』の2017年ユニフォーム
ご存知の方も多いかもしれませんが、今年は、黒を基調にしたデザインに仕上がっています。球団との話し合いがはじまったのは、実は2016年の開幕直後ぐらいのこと。例年は、夏くらいに、翌年の限定ユニフォームをどんなものにするかという話し合いが球団職員の方々と始まるのですが、このユニフォームは、秋のファン感謝デーで発表したいとのことで、始動も早かったんです。
デザインや色など数ヶ月を掛けて検証を行い、2017年は『力強いイメージ』のある黒いユニフォームでいくことになりました。

※力強さをイメージした黒基調の『BLACK EAGLES』着用ユニ。袖のロゴは昨年夏のモデルに採用したものの色違いです
色と胸に配置する表記が決まってからは私の仕事。“組み合わせ”を考えます。“楽天が着用する”黒のユニフォームということで、楽天がチームカラーとして採用している『クリムゾンレッド』との組み合わせでいくつもパターンを作りました。
クリムゾンレッドは、いわゆる“えんじ色”を少し濃くしたような色です。これまでの経験から、深い緑や黒といった濃いカラーとは、シックな仕上がりを目指すには相性のいい色ということがわかっていました。
色のバランスってすごく難しいんですが、例えばクリムゾンレッドがもう少し明るい赤に近い色だった場合、かなり“ポップ”になりがちです。ですが、クリムゾンレッドを使用し、さらに組み合わせる色が黒などの場合は、シックな大人な雰囲気の完成を目指す方がまとまります。
そこで私は、“差し色”として、チームのサブカラーであるイエローではなく、ベージュを使っています。ポップで派手にするならイエローの方がいいと思われるかもしれませんが、クリムゾンレッドのような色の仲間として、黄色系統でも彩度を落としたベージュやまたはグレーの方が、全体のトーンとしてまとまるんです。
なら白だとどうなるか。一見、個性のないように思われる白ですが、クリムゾンレッドや黒という濃い色に対してトーンが明るすぎて、存在感が強い感じがします。全体のバランスの中では白では強いし、黄色だと浮いている感じがするので、シックを目指すバランスの中では、ベージュのような色が僕の目指すシックさを作ってくれます。

※左が実際に採用されたベージュのモデル。バランスの違いを感じてもらえるとうれしいです。
気候の違いなのか文化の違いなのか、この仕事をしている中で、地域によって好まれる色が違うような気が最近しています。東北の方はこういったシックな組み合わせが好まれるのか、デザイン発表直後からファンの方々からの評判が良かったという、うれしい意見を耳にし、ホッと胸をなでおろしました。
カッコいいデザインで好循環を!
このBLACK EAGLESは、勝率も良く、ここまで5試合着用し、4勝。強いイメージを持たれつつあるユニフォームになっている嬉しい状況です。2013年に作らせてもらったTOHOKU GREENも10勝6敗1分と勝率が良く、縁起のいいユニフォームとしてファンの皆さんに支持いただき、最終的に球団初の優勝へと繋がりました。
僕がユニフォームを作る上で大事にしているのが、カッコいいデザインでファンが集まり、選手のテンションが上がり、チームが勝ってさらにファンが盛り上がる! という好循環を作りたいということ。まだ7月なので結果はわかりませんが、今年も多くの人に愛され、“勝てる”ユニフォームとして浸透してくれるとうれしい限りです。