キッカケは偶然に
いまから20年ぐらい前ですかね。地上波の巨人戦が30%の視聴率を誇っていた時代から、僕はどうしてもプロ野球のユニフォームデザインがやりたいと思っていました。美大を卒業し、その後もユニフォームに関する個展をやったり、自主制作でユニフォームをデザインしたりしながら、どうやったら実現するか道を探っていたんです。
今でこそ12球団中4球団のユニフォームデザインを経験していますが、誰からも「そんなの無理だろう」というようなことを言われていました。みなさんご存知の通り、ホーム・ビジターユニフォームはそんなにしょっちゅう変わりませんし、当時は現在のように企画ユニフォームなどなかったですからね。“ユニフォームデザイナー”と呼ばれるような専門家もいませんでした。

※個展などで自主制作したユニフォームです。かなり手間が掛かったものでした
そうして先が見えない暗闇でもがき続ける中、2007年のある日、まさかのきっかけで初めてのプロ野球のユニフォームをデザインするきっかけをいただきました。僕がずっと行きつけだった美容院のお客さんの中に球団職員の方がいたんです。その方が「来年、チームで特別なユニフォームを企画しているんだけど、誰かデザインできる人がいないかと探しているんですよ」と、髪を切られながら話していたそうで、ピンときた美容師さんが僕の名前を挙げてくれたんです。
普段から周りに話していてよかったと思いました。人の縁は大事ですよね。その日、その場から僕に連絡をいただき、翌日には早速面会させていただくという、夢のようなスピード感で、話は進んでいきました。
縁があった“メーカー”との初仕事
そんな縁があって、僕が初めてプロ野球チームのユニフォームをデザインさせていただくことになりました。何度か他の場所でも話させてもらっていますが、その球団は西武ライオンズ(当時)です。
最初の仕事が西武ライオンズで、本当によかったと思っています。前述した、僕が個人でやっていたユニフォームをテーマにした個展では、実はナイキジャパンに協賛していただいていたんです。記憶にある方も多いかと思いますが、当時の西武ライオンズのユニフォームサプライヤーはナイキでした。初の仕事が、縁のあるメーカーさんとできたんです。個展を担当してくださった担当の方に「ナイキさんと堂々と仕事ができます!」と報告ができたときのことを、いまでも思い出します。ずっと応援してくれていた方だったので「それはよかったな!」と一緒に喜んでくれたたことが本当に嬉しかったです。
大学時代には、当時住んでいた家から原付で通える距離ということで2年間、西武球場で場内係員のアルバイトもしていたという縁もあり、運命的なものを感じました。
ちなみに西武グループの創業者である堤康次郎氏は、僕の故郷・滋賀県のご出身。その関係だと思いますが、地元テレビ局ではほぼ全試合、西武主催試合の中継を放送していて、チーム自身も強かった事もあってか、回りにも西武ファンが多かったんです。
初仕事も、強いテーマを込めて
こうしていろいろな事を振り返りながら、いろいろな事を感じながら、大きな案件に取りかかります。今もそうですが、僕はまず、その球団の現状をヒアリングし、状況を見ることから始めます。いま、チームがうまくいっている事は何か、逆に問題点は何か。また、どういう状況にいるのか——。そういうポイントを見つけ、デザインに落とし込むコンセプトにしていきます。僕が仕事をさせてもらう前年、西武は26年振りのBクラスに転落したまさかの年でした。80年代、90年代の黄金期が終わりを告げたのです。
チームにとっては最悪な事ですが、これをデザインのテーマにしたら球団とファンが一つになるのではないか——。
コンセプトは決まりました。この年はユニフォーム以外のポスタービジュアルも依頼していただき、まず開幕前のファンクラブ会員向けのポスターからやらせてもらいました。そうして出来上がったビジュアルがこちらです。

※球団とコンセプトを話し合い、出来上がったビジュアルのうちのひとつです。
※26年ぶりにBクラスに転落した成績を掲示し、それを受け止め、そこから巻き返しをはかるコンセプト。
このビジュアルに込めた思いとテーマは、また次のおはなしで。
編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com