レジェンドたちとのおしごと

 今回は“プロ野球チーム”ではありませんが、プロ野球の世界で凄い成績を残した選手達だけが入会を許される、日本プロ野球名球会とのお仕事のおはなしです。

 中日・荒木選手や巨人・阿部選手を含め、今年は多くの選手がこの名球会に入会する条件を達成する可能性があり話題になっていました。実は、僕も名球会さんには少し関わらせてもらっていて、最初に仕事をさせていただいたのは2006年。所属している40数名のTシャツを作らせていただくというものでした。
 その40数名というのは、王貞治氏や長嶋茂雄氏をはじめとした、言わずと知れたいわゆる“レジェンド”たち。当時まだプロ野球チームとは仕事をしていなかった僕にとって、初めての野球界との仕事でした。最近入会した現役選手から、引退して何十年も経っている方までを同じシリーズとして販売するというので、どういう手法でレジェンドを表現するか考えました。プレー写真を使ってかっこよくデザインするか…。しかし、残っている写真の量や、写真そのものの画質の差が大きく、統一性を持たせることは難しかった。そのような理由から、全てのレジェンドを、イラスト化することにしました。

©︎大岩Larry正志

※ひとつの球団でも、どの時代のユニフォームにするかは迷いました。

 イラストであれば、複数球団に所属した選手のユニフォームも自由に選択できますし、スムーズに制作できるかと思いましたが、イラストレーターさんに依頼をするにあたり、課題は少なくありませんでした。特に素材が難しく、このポーズがいい!という写真が見つかっても顔がこっちを向いていない、などかなり難航しましたが、なんとか全40数種類が完成しました。

 ちなみにこの時、元西武の東尾氏からお話をうかがう機会があり、このTシャツについての感想をうかがうと、「僕らのころはこういう個人のグッズというのがなかったから、かなり嬉しい」という返答をいただき、ホッとしたのをいまでも覚えています。

コンセプトはGOLDEN

 そこから数年経って、今度はユニフォームのリニューアルを依頼いただきました。名球会の皆さんは、試合はしない(したとしても、エキシビジョン的なことが多い)ので、ユニフォームを着用するのは子供達への野球教室のときなどが主です。
 いわゆる“戦闘衣”ではないのですが、レジェンドたちが身を包むユニフォームをデザインできるということで、かなり興奮しました。

 最初にデザインしたのは胸ロゴ。名球会は、英語表記で『GOLDEN PLAYERS CLUB』と書きます。そのまま2、3行で胸に配置するには長過ぎて、動くのに邪魔になりそう、など思われるかもしれませんが、前述のとおり、このユニフォームでは激しい試合はあまりすることはないので、それもアリ、と候補にいれました。
 最終的には、頭文字のG、P、Cをベースにバリエーションをいくつか制作した結果、その3文字が斜めに重なるデザインに決定しました。僕が依頼をいただいたのは、王貞治さんが新しく名球会の会長に就任されたタイミングでしたので、『世界の王』へのリスペクトから、ロゴに王冠をカブせてあるのも僕のこだわりポイントのひとつです。

©︎大岩Larry正志

 ユニフォーム全体のカラーは、これまでの歴史あるユニフォームを踏襲する意味も込め、ネイビーをベースカラーとして継続しました。差し色には前述のコンセプト等から、『GOLDEN』を持ってきました。
 背中のA~Zや0~9の書体は胸のGPCロゴのテイストに合わせて制作しましたが、けっこう丸っこい書体で、年配の方が着るにはかわいすぎるのではないか、という意見もありました。ただ、僕はユニフォームをデザインする時はいつも「かっこいい」より「かわいい」ものを目指しています。かわいいデザインを選ばれたトップのアスリートが着用すると、「かっこいい」ものになるというのを感じているからです。「かっこいい」デザインを着ると、尖りすぎるというか、ちょっとやりすぎ、という雰囲気が出てしまうのが気になるところで。メジャーリーグのデザインも、クールなんだけど、普段から身につけられる“ポップさ”というのがいいところだと思っています。

©︎大岩Larry正志

 ちなみにこのユニフォームが初めてお披露目されるという野球教室の会場にうかがいましたが、担当の方が「王さん、彼がデザイナーです」と王氏を呼んでくださいました。僕に「気にいっていますよ!」と笑顔で握手をしてくださったそうなのですが…緊張しすぎて目の前が真白になり、その時の記憶がうろ覚えなのは内緒です。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。
http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志