退団・引退のときに

 今年も、セ・パ共に優勝チームが確定し、クライマックスシリーズに進出できるチームも絞られてきました。上位チームはまだまだ日本一に向けて戦っていますが、この時期、同時に寂しいニュースも耳にするようになります。各球団の監督や選手の退団、引退の話題です。
 プロ野球には毎年、新人が入団してくる。ということは、何人かは退団しなくてはいけません。実績を残せず、ひっそり辞めていく選手もいれば、大々的にセレモニーをやってもらえる選手もいます。

 引退試合などを組んでもらえる選手には、引退を惜しむべく、ロゴが作られるのが最近の通例とりました。私も何度かデザインをさせていただいています。楽天イーグルスの星野監督が退団された時、そして、同じく楽天の斎藤隆投手が引退された時のものです。
 星野監督は、球団を初の日本一に導いた闘将として。斎藤隆投手は楽天への所属年数は短かったものの、その十分な実績に加え、地元・仙台出身ということもあり、引退試合が行われました。私個人的にもどちらもずっと見てきた野球人なので、デザインをさせていただけたのは大変光栄でした。

©︎大岩Larry正志

※応援してきたファンの方々にも共感してもらえることを意識しています。
左から、星野監督退団ロゴ・松井稼頭夫2000本安打達成ロゴ・斎藤隆投手引退ロゴ

 こういった取り組みに向けた“選手”がメインとなるロゴというと、背番号や名前以外にも、その人物のイラストやシルエットが組み込まれる事が多いです。素材は、写真を元に制作するのですが、選定がなかなか大変そうです。“大変そう”というのは、実はその写真というのは、私が選んでいるのではなく、球団から送られてくる素材なのですが、どのポーズにするか、どの瞬間にするか、かなり迷うそうなのです。

 球団職員の方々も、チームに貢献した監督や選手に思い入れがあるので、候補がなかなか絞れないようで。もちろん私が選んでもいいのですが、やはりそこはファンの方々の気持ちも理解している職員の方が皆さんで相談して選んだ方が、思い入れのあるロゴになるのではないかなと思い、お任せしています。
 結局1枚に絞れず、数種類来てデザインに落とし込んでから選ぶ、ということもありますが、いろんな人がその選手に思いを馳せて作るものとなると、いつもとはまた違った重みを感じ、気が引き締まります。

記念・記録ものを作るということ

 少し種類は違いますが、2000本安打などの区切りの記録を達成した選手にもイラスト入りロゴが作られる事が多いです。この場合も引退ロゴ同様の過程を経て、写真が送られてきます。
 どちらも似たような作業行程で進めていくのですが、圧倒的に違うのはそのデザイン作業中の気持ちです。記録ロゴの時は「この選手もついにここまで来たかー」という興奮状態で作業していますが、引退ロゴの場合はやはりなんとなく寂しい気持ちになってしまいます。
 しかもその引退がまだ世間に発表される前に知ってしまうので、回りに話す事もできず、一人で悲しくなっていますが、もしかしたらその気持ちの入り込みがデザインにもいいのかもしれないとも思っています。記録達成にしろ、引退にしろ、そのロゴがどういう役割のものなのかをしっかりファン目線で表現できるような気がしているからです。

©︎大岩Larry正志

※イラストがないとその雰囲気などイメージしにくい感じですかね。

 これからも偉大な記録は達成されていくでしょうし、残念ながら、どんな選手にも必ず引退というものはあります。今後もこれらのロゴを作らせていただく機会があると思いますが、ファンの方々に共感してもらえるようなものをデザインしていけたらなと思います。
 ちなみに、私個人も、引退試合を何試合か観ていますが、ヤクルト・池山選手の時は神宮球場で、大泣きしました。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志