提案のための準備
2015年から東京ヤクルトスワローズのユニフォームやロゴなどをいろいろとデザインさせていただいていますが、その中には選手を押し出したビジュアルグラフィックというのもあります。いわゆる企画ユニフォームやイベントの告知ポスターなどのことになりますが、試合中のプレー写真を使う物もあれば、その企画内容に合わせて撮影をすることもあります。
2016年末に、ヤクルトが翌年一年間あちこちに掲出するためのメイングラフィックのデザインを担当させていただく事が決まりました。メイングラフィックというのは、球団がその年に発信したいイメージをビジュアル化させたものです。球団が発信したい事、つまりその年のスローガンになるわけですが、2017年のスローガンは「目を覚ませ!」でした。
それをどう表現するか。言葉からするとなにか“勢い”とか“やる気”のようなキーワードがイメージされたので、それをどうビジュアル化すればいいかを考えます。アイデアを練り、いくつか案を用意し、球団に提案します。
そのうちの一つが「選手が拳(こぶし)を作る」というポーズで気合いが入った雰囲気をデザインするというものでした。最終的にその案が採用されたのですが、撮影前のイメージを作る際に、自分でもそれがどういうものになるのかを検証するため、一度カメラマンとスタジオに入り、実際に撮影をしてみました。自分が選手役になり、いくつか拳を作り気合いの入った表情で撮影し、それを元にラフを制作し、球団に提出しました。
結果的には、選手撮影本番でもその時と同じ事をして、完成品もほぼそのラフ通りのものになります。

※そのラフ制作の時に実際に撮影したもの。
完成品をイメージして
この完成グラフィックは紙の定型サイズのみならず、のぼりのような極端に縦長のものや横長のものなど、いろいろなサイズになることがわかっていたので、ラフ撮影の素材で、どういうサイズになってもデザインとしておさまるかなどの検証も行っています。
ちなみにその本番撮影は、チームがキャンプ中ということで、沖縄で行いました。選手にもこのラフを見せながら、意図を説明し、どういう写真を撮りたいかという事を話します。もちろん選手側からも質問が来る場合があり、練習の合間の時間がない中ですが、しっかりお互いが同じ方向を向くまで詰めます。

※完成したグラフィックの一部。これらを元にいろいろなサイズに合わせてデザインしていきます。
撮影した素材を元に、全員集合のものや2人だけのものなど、様々なパターンで組んでいき、完成に向かう作業を進めますが、各選手、何十枚も撮っていて、どの写真にするかが毎回すごく悩むんです。
単体で見ていい感じの写真、というのはもちろんなのですが、それだけでは選べないんです。全員集合になると、他の選手とポーズや角度が似てしまっていたりするという理由などで、違う候補を探して全体のバランスがとれるものにしていかなければなりません。
この時は監督を入れて8名。なので、その人数のものを完成させるには、けっこうパズルを解くような感覚でバランスが良くなるものを探していきました。

※いろんな所に大きく掲示されました。
完成したデザインは、スケジュールガイドやイヤーブックなどの印刷物から神宮球場の最寄り駅の周辺、もちろん球場にも大きく掲示されました。それらを見た時には、あらためて大きな責任がある仕事だったんだなと感じました。やらせてもらえてよかったと思える大きな仕事のひとつになりました。
編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com