「上から叩く」理由

多くのプロの打者も口を揃える「上から叩く」感覚の重要性。
プロの打者のスイングを見てみると、確かにトップからインパクトまでのバットの軌道は必ず下降方向。

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だから必ず「上から叩く」力は働いていますし、バッティングに欠かすことができないものと言えます。
感覚的にも、良いバッティングができた時には上から叩くことができた、という打者は数多く存在します。
こういう理由から、伝統的に「上から叩け」という指導は繰り返し行われてきました。
練習方法としても、ダウンスウイングと称してインパクトに向かってバットを振り下ろすような素振りや、タイヤ叩きが行われます。

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感覚と外見は違う

ただし、一般的に指導される「上から叩く力」は、あくまで「感覚」です。
感覚と外見は必ずしもイコールにはなりません。
外見としてトップからインパクトに向かって上から叩く軌道になっていても、力の向きが必ずしもその方向になるわけではありません。

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バットスイングのように高速になればなるほど、そのギャップは大きくなります。
特に1m前後の長さ(少年野球でも約70~80cm)と1kg弱の重さがあるバットを振ろうとすると、遠心力や慣性力などの力が強烈に働きます。
このため、まっすぐ動かしているつもりでも弧を描く軌道になったりという現象が起こります。
これを「感覚と外見のギャップ」と呼びます。

指導や練習の際は、この点を十分に踏まえておく必要があります。

スイングを構成する3つの力

バットスイングを構成する3つの力を、作用する順番に紹介します。
順番とは言いましたが、実際にはほんの一瞬の出来事なので、発動するタイミングは重なり合っていると考えてください。
「感覚的には」ほぼ同時と感じるかもしれません。

①ダウンの力|上から真下にバットを叩きつける力

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これが「上から叩く」感覚の正体です。
後ろ側の腕が主力になります。
トップからインパクトに向かって斜めではなく、トップから真下の方向です。
上から叩く力ばかりになってしまうと、腰の回転や脇の「捻り締め」がおろそかになってしまう傾向が生じます。
(ダウンスイング練習の写真とプロのインパクトの腰の位置を比べてみてください)

②レベルの力|腰(股関節・体幹)の回転

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これがバットが水平方向にスイングする力の源になります。
腰・股関節と、前側の腕の引きが主力になります。
ダウンの力が不足すると、アッパースイング傾向が生まれます。

③ハンドルの力|脇を締める・手首を返す力

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前回「脇を締めろ」でご紹介した、捻り締めを起こす力です。
脇の捻り締めによってダウンの力とレベルの力を最終的にバットに集約する働きがあります。
ヘッドが下がっていると言われてしまう選手は、この力が不足しています。

コースなどやインパクトの位置によってこれら3つの力のバランスが変わります。
例えば外角を流し打ちする場合は、レベルの力を少し減らしてダウンの力とハンドルの力でインパクトします(腰の回転を抑える)。
逆に内角高めを打つときは、ダウンの力を抑えます。

コーチが言う3つのセリフ。上から叩け、腰を回せ、脇を締めろ

どんなコーチでも、少なくともこのどれか一つは必ず口にします。
それだけ重要なのです。
そしてこれはどれもが正解です。
どれもが上で紹介した3つの力を発揮することを表しているからです。
ただ、あるコーチから「上から叩け」、また別のコーチから「脇を締めろ」と言われてしまうことも。
言われた側は、かなり混乱しますよね。

そこで、言われたことと動きの関係をまとめておきます。

「もっと上から叩け」→①ダウンの力が不足している。(下記で運動を紹介します)
「もっと腰を鋭く回せ、腰で打て」→②レベルの力が不足している。
「もっと脇を締めろ」→③ハンドルの力が不足している。(前回記事で運動を紹介しています)

ちなみに近年ボールの軌道に合わせてバットをスイングしようとするレベルスイングを指導される方もいますが、これもやはり外見です。
レベルに振ろうとしすぎると、ダウンの力やハンドルの力が不足することがありますので、3つの力のうち自分がどの
力が不足しているのかをチェックすることが重要です。

ダウンの力トレーニング「引き落とし」

①前側の手を後ろ脇に挟み、後ろ側の股関節を「カクッ」と少しだけ曲げておきます。
後ろ足はつま先ではなく、ややカカト寄り(外くるぶし下あたり)に体重をかけます。
*アウトエッジと言ってプロ選手が使う動きです。
その状態で後ろ腕をトップの位置に持っていき、そこからまっすぐ真下に肘を引き落とします。
脇に挟んだ手が痛いぐらい強烈に引き落とすのがポイントです。

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レベルアップとしては、片足立ちで行なったり、地面に置いたタイヤなどにバットを実際に叩きつける方法も良いでしょう。

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