プロは腰を落としていない

まず、腰を落とす動きと落とさない動きの違いを確認してみましょう。

©︎中野崇

右側がいわゆる腰を落とした状態での捕球。
安定感を感じる方もいるかもしれません。
しかし、この腰を落とす動きにはたくさんのデメリットが起こります。
実際、断言しますがプロ選手たちはこのような動きは使っていません。
プロ選手たちの捕球体勢を確認してみましょう。

©︎共同通信

プロ選手は、名手と言われる菊池涼介選手に代表されるように、むしろ腰高なのです。

腰を落とすと動きが遅くなる

腰を落とすデメリットは大きく分けて3つあります。

1)動きが遅くなる
腰を落とすと、重心位置が低くなります。
物理学的に考えると、重心位置が低いと動くのに多くの力を必要とします。
多くの力を要求されるということは、動きが遅くなるということです。
ゴロを捕球する際、構えた位置から必ず左右か前後に移動する必要があります。
つまり「動きながら」または「動いてから」捕球するのですが、そういう前提条件を考えると、重心位置は高い方が有利です。

2)変化への反応が遅れる
打球は必ずしも思ったような軌道で向かってくるわけではありません。
大きなイレギュラーバウンドだけでなく、小さな軌道の変化は常に起こるため、そういった変化に対応しながら捕球ポイントに向かって動く必要があります。
腰を落としてしまっていると、上記のように動きが遅くなるため、反応が遅れます。

3)送球動作に悪影響
ゴロを捕球した直後は、ほぼ全ての場面で送球を行います。
また、捕球してから送球までの早さは特に内野手にとっては非常に重要な課題です。
トップレベルの選手たちは、捕球動作がそのまま送球の準備動作になっています。
その時の鍵になるのが、腰の高さ、詳しくいうとモモ裏の筋肉です(後述します)。

捕球から送球への流れが邪魔される

腰を落とすと、捕球の直後にやるべき送球動作への妨げになります。
理由は前モモの筋肉です。
専門的には大腿四頭筋と言います。
腰を落とすと、この筋肉が過剰に働きます。
モモ前の筋肉が強く働くと、送球時に重要となる股関節の作用が低下するのです。
逆に腰を高く保つようにしつつ、股関節を折り曲げるようにすると、モモ裏の筋肉であるハムストリングスが働きやすくなります。
この筋肉は、股関節の作用を高める特徴があり、スピードやパワーを発揮するためには欠かせません。野球だけでなく他競技の多くのトップアスリートが使いこなしている重要な筋肉です。

日本人は腰を落とす特性がある

ちなみに、我々日本人は「腰を落とせ」と言われなくても腰を落として重心を下げてしまう傾向が強いです。
私はこの理由を「どっしり感」や「安定感」を重要視する文化の影響だと考えています。
相撲や柔道には向いているのですが、素早く動く必要のあるフィールディングには不向きなのです。
そういうことを前提条件として考えると、より腰を落とさないように注意が必要なのです。

©︎共同通信

腰を落とすのではなく、お尻を持ち上げて股関節を入れる

腰を落とさず、モモ裏を働かせた状態で捕球できるようになるための運動をご紹介します。

©︎中野崇

まず、これまで度々ご紹介したように、両手の2本指で鼠径部を押さえます。
身体の中心近く、ちょっと薄くなってると感じる場所です。

©︎中野崇

その状態で、写真のように一歩踏み出した状態で上半身を倒し、股関節を曲げます。
そのまま、お尻の穴を上に向けるようにしてモモ裏の筋肉が張りを感じるぐらいストレッチします。
モモ裏が伸びているのを感じたら、そのまま上半身を揺する反動を使ってグッグッとリズムよくストレッチを加えます。

ノックの前や合間に行い、無意識にできるまで繰り返しましょう。

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