空振りが取れる球の理由は”回転数”その方法は……

 則本投手の特徴として奪三振が多いことがあげられ、その理由の1つとして「ボールの回転数」がずば抜けているとされています。

 最近注目されているトラックマンという計測器によってはじき出されるボールの回転数は、ピッチャーが投げたボールがキャッチャーに届くまでにどれだけの回転をしているかの指標です。(2500rpmというのは、キャッチャーに届くまでの回転数を1分あたりどれぐらい回転するかに換算している数値です)

 回転数が他の投手よりも多いと、それだけ打者の予測と違う軌道になるためバットに当てるのが難しくなります。例えばストレート(4シーム)だと、いわゆる「ノビのあるボール」となり、バッターの予測よりも高いボールが来ることになります。

 実際、則本投手が奪うストレートでの空振りの大半が、バットがボールの下を振っています。また、変化球の鋭さもこの回転数が影響しますので、ピッチャーにとってはとても重要な指標となっています。
※ここには回転軸の角度や初速と終速の差なども要因としては加わってきますが、ここでは省略します。

 どうしたらボールの回転数を高められるのでしょうか。その条件としてあげられるのが、【腕を振る速さ+ボールに長く触れていること】

 よくピッチャーへの指導で使われる、「前で離せ」という言葉がこのことを指し示しています。

「前で離せ」というのは、ボールが指から離れていくポイントをできるだけキャッチャー寄りにせよ、という考え方です。一般的には、キャッチャーまでの距離が物理的に近くなるから有利とされることが多いですが、それに加えてこれは回転数を高める上でも有利に働きます。

 なぜかというと、ボールに回転数を加えるには、大きな力を加える必要があるからです。その力を高めるには【腕を振る速度+ボールに長く力を加えられること】が重要なのです。なので回転数を高めるには腕を速く振るだけでは足りず、それに加えて少しでも長い時間ボールに力を加えることも不可欠なのです。

 プロのピッチャーの中でもかなり大きく上体が前に傾いている姿から分かるように、実際に則本投手はかなり「前で離す」ことができています。

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柔らかさとパワーの両立が必要

 このように、回転数が高いボールを投げるためには腕を振る速度が高い、かつ前で離すということが必要です。

 注意したいのは、身体の構造上、単に前で離そうとするだけでは指先に力がうまく伝わらなくなるという点です。「前で離しているけれど、力も十分に伝わっている」という条件を満たす必要があるのです。
 
 ではそれを満たすために必要な能力はどのようなものがあるでしょうか。

 その点に着目して、「前で離せている」則本投手のフォームの特徴を考えると、「柔らかい・しなやか」かつ「パワフル」があげられます。しなやかなだけでなく、パワフルさも同時に発揮できているのが則本投手の特徴でありとんでもない回転数の秘密です。

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 則本投手のフォームは非常にしなりが大きく、足元から指先までが一本のムチのようになっているような印象を与えます。そのしなりは腕だけでなく肩甲骨・背骨・股関節がしなやかに繋がっていることを意味します。

 則本投手の場合は、これを最大限活用して全身で筋肉の反射を起こし、腕を振る速さを高めています。投手のフォームでしなやかな腕の振りが重要なことは、もういうまでもないぐらい常識ですが、則本投手の場合はそれが腕だけでなく「背骨を起点として」腕まで波及させていることが特徴です。

 そしてこれこそが、則本投手がしなやかさに加えてパワフルさも持ち合わすことができている理由です。

 球団記録、4試合連続2桁奪三振の場面。最後に投球フォームのスローがあります。全身のしなやかさ、リリースポイントに注目です。

 ※他にも、今シーズンFAで読売ジャイアンツ入りした野上亮磨投手・菅野智之投手、埼玉西武ライオンズの武隈祥太投手なども回転数が非常に優れている投手です。 野上投手と武隈投手は私がトレーニングを指導している選手ですが、彼らも身体が非常に柔らかく、柔らかさとパワーの両立能力が高い選手です。

回転数の多い球を投げるには、下半身と背骨の連動がキーポイント

©︎中野崇

 腕だけでなく背骨を起点として腕まで波及させているというのはどういうことかというと、力の源が背骨であるということです。背骨が非常にしなやかに速く回転することで腕にその力が伝わり、腕が強烈に振られています。

 その背骨の力源はもちろん下半身です。

 則本投手の凄さを一言で表現すると、この下半身→背骨→腕の連動性が非常に強く、それを利用してしなやかさを保ったまま力を発揮できているところです。そしてこれが「前で離しても」ボールに強い力を加えられている理由です。

背骨を中心とした力の伝達を高めるコモドドラゴントレーニング

 則本投手のように股関節や背骨を力源として全身を強烈に繋げ、腕をしなやかかつパワフルに使うためのトレーニングを紹介します。オフの自主トレでもプロ野球選手やなでしこの選手が取り入れていて話題になったコモドドラゴンです。

 お尻の筋肉や体幹の強化にも非常に有効です。

©︎中野崇

 写真のように、右足を大きく前に出した状態で構え、左手をやや前に置きます。この時、胸は右に向けておきます。足は、かかとを着けておきます。

 できる限りかかとが浮くのを我慢してください。

©︎中野崇©︎中野崇

 ここから先に胸を左に向けていきながら、それに続いて左足と右手を大きく前に踏み出します。左足を踏み出したとき、胸は左に向いているようにします。あくまで背骨の動きが先で、その次に腕や足が動く、という順番が重要です。

 また、上半身や腰は低いまま行うのがポイントです。この動作を繰り返しながら、一歩ずつゆっくり前に進んでいきます。

 まずは塁間を休まず移動できるぐらいを目指して挑戦してみてください。

©︎中野崇

 参考に正面から。胸が右に向いているとき、右足が前です。

 初めはちょっと大変かもしれませんが、力任せでなく楽にできるようになるまで、丁寧に継続してくださいね。

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