打球音がしたらもうヒット!? 世界基準の打球速度は190キロ以上

 2018年シーズンはニューヨークヤンキースで田中将大投手の同僚として活躍した、ジャンカルロ・スタントン選手。2017年シーズン(当時:マイアミ・マーリンズ)は59本でMLBナショナル・リーグ本塁打王に輝いたこともあるように、長距離打者として定評がある選手です。そして彼はMLBで今最も打球速度が速い選手です。

 その速度なんと121.7マイル(時速約195.85キロ=秒速54.40メートル)。

(C)Getty Images

 本塁から二塁までが約40メートルですから、内野手だったら、打球音がしたと思った瞬間すでに自分の横を通り過ぎているような感覚の打球の速さです。

 打球速度が速いと本塁打やヒットの確率は飛躍的に向上し、最近ではこの数値に注目してバッターを評価するチームも増えてきました。

 ちなみにEVはまだ日本ではあまり盛んに記録されているわけではないため推測になりますが、日本人選手だと150~180キロぐらいの間ではないかと言われています。

 2018シーズンのMLBの平均打球速度の順位をまとめたのが下の表です。

順位バッター所属チーム平均打球速度(km/h)
1J.ギャロレンジャーズ153.53
2A.ジャッジヤンキース152.89
3N.クルーズマリナーズ152.73
4G.スタントンヤンキース152.73
5M.チャップマンアスレチックス152.08
6M.オルソンアスレチックス152.08
7M.トランボオリオールズ150.96
8R.カノーマリナーズ150.80
9T.ファムレイズ150.47
10J.D.マルチネスレッドソックス150.15
10大谷翔平エンジェルス150.15

(200イベント以上、すなわち200回以上の打球を放った打者に限定。MLB公式サイト、スタットキャスト参照。)

 もちろん単純に打球速度と本塁打数が完全に比例するわけではなく、打球の角度も非常に重要な要素として重視されていますので、この点については別の機会に触れてみたいと思います。

体格が良ければ「打球速度」が上がるわけではない

1)体格は重要だけど、肉体改造には要注意。

 このような話になると、どうしても体格が、となりやすいですね。

 もちろん体格とパワーの問題は切っても切り離せませんので、体格を大きくしようとする努力は重要です。ただしその際、動きやスピードが低下してしまうようなやり方だけは避けるように注意してください。

 体格が大きくなったけど打てなくなった、打球が飛ばなくなったなんて話は本当に多いので……。

2)「力を逃がさない」という考え方によって体幹を活かす。

 パワーという観点では、日本では体幹を強化、という流れが主流になっていますが、それだけでは事をなしません。「力を逃がさない」という観点が不可欠です。

 特に力が逃げやすいのが、腕・肩。

 ここは人間の構造上の理由から、力が逃げやすい特徴を持っています。 ボールを遠くへ飛ばす、または速い打球を打つためにはバットを高速で振る必要がありますが、そのためには腕だけではなく、大きな筋肉がたくさん付いている下半身や体幹の力を使う必要があります。

 そのため、バッティングでは下半身や腰が重視されていますが、せっかく下半身や体幹で作った力も腕や肩の使い方一つで力が逃げてしまって台無し、という事は非常に多いのです。打球速度が速い選手たちの凄さは、発揮する力の大きさだけでなく、力を上手く伝える技術にもあると言えます。

体幹から前腕まで力を伝えるための方法

 スタントン選手はもちろん、今年からスタントン選手とチームメイトになった、アメリカン・リーグ2017シーズン本塁打王(52本)のアーロン・ジャッジ選手(ニューヨーク・ヤンキース)も、下半身・体幹から腕に力を伝える達人です。また彼は2018シーズンの平均打球速度でMLB2位の数値を誇っています。(上記表参照)

(C)Getty Images

 彼らは体格も大きく腕もゴツいですが、決して腕の力だけで打っているわけではなく、身体と腕の連結を強める身体の動かし方を行なっています。もちろん、下半身の操作も飛び抜けて優秀なのですが、ややこしくなるのでここでは省きます。

 腕に関しては彼らの動きを分析すると、2つの能力が必要なことがわかります。

1)捻り締め

 以前ここでご紹介した「脇を締める」という動きですが、脇を締める動きには大きく分けて2種類あります。「直線締め」と「捻り締め」と名付けましたが、バッティングでは捻り締めができることが必要です。

2)アンバランスな状態でも、パワーを出す

 バッティングは、動きながら大きな力を発揮しつつ高速で向かってくるボールをミートするという非常に高度な運動です。どう高度なのかというと、「同時に」いろんな事をやらなければならない点です。

 この点については、例えばマシーンに身体を固定して動かないようにして腕を鍛える方法とは大きく異なります。マシーンだと、「力を出すことだけ」に集中できますので、難易度という点では高くありません。

 バランス能力を発揮しながらもパワーを発揮する、そんな力の出し方と鍛え方が重要です。

 下は現時点でMLB最高の打球速度を記録しているスタントン選手のバッティング映像です。

 もちろん、すごいのは腕の使い方だけでなく特筆ポイントはたくさんあるのですが、今回は体幹から腕のつながり具合に焦点を当てます。後ほど紹介するトレーニングと関係してきますが、特に右腕の動かし方に注目です。

アンバランスな状態で腕を鍛えると、つながる

 下半身や体幹で作ってきた力をバット、そしてボールに伝えるためには、腕や肩の使い方が重要です。具体的には、バランスを保持しながらも大きな力を出せるようなスタイルでの練習が重要です。

 今回は、それを習得していくための方法を1つご紹介します。プロ野球選手もやっていますが、小学生でもやれる非常に基本的な方法です。
※捻り締めについては以前ご紹介しているので省略します。

©︎中野崇

 フロッグという名前のカエルのような体勢をとるトレーニングです。バランスをとりながら腕で全体重を支える力を鍛えます。

 両手は肩幅ぐらいに広げて、写真のように腕だけで身体を支えます。呼吸を止めないように。そして視線は固定せず、周りを見渡せるようにしましょう。

©︎中野崇

 手の指はなるべく大きく開きます。また、やや小指側に体重がかかるようにするのがポイントです。

©︎中野崇

 足首はブランブランにリラックスします。腕での支え方のコツは、前腕が地面に対して垂直を保つことです。

©︎中野崇

 写真のように、肘の上に完全に膝を乗せておくようにしてください。股関節が固い場合はそのままストレッチとしても使えます。

 また、写真の☆印の位置に力が入る感覚があると上手くできています。なかなかそれが感じにくい、という方は捻り締めのページで紹介した動きを先に行ってください。

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