野球では体幹は固めて使わない
まず、体幹とはどこを指すかですが、読んで字のごとく「体の幹」、胴体部分です。体幹とは、人間の身体の頭部と四肢(左右の手足)を除いた部分を指すのが一般的です。
通常の体幹トレーニングでは、体幹部分が曲がったりしないように、「固める」ように心がけるのが主流です。しかし、よくよくプロ選手たちの体幹を見てみると、決して固めていません。それどころか、グニャッと大きく曲がっている場面をたくさん見かけます。
プロの体幹の使い方
©︎共同通信岸孝之選手のストレートを投げるフォーム
例えば東北楽天ゴールデンイーグルス・岸孝之投手。
細身でものすごいボールを投げるタイプの典型例と言える投手ですが、その要因の一つが体幹。
決して固めるのではなく、非常にしなやかに使っています。決して筋骨隆々でなくとも、体幹の操作レベルによってそれを補い、プロでストレートが通用する好例です。
柳田悠岐選手の豪快なフルスイング
逆に筋骨隆々に見える柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)の場合。
柳田選手が特大ホームランを打っている場面を見ると、やっぱり「体幹が強い」って思う人も多いのでは。
力任せに思いっきり振っているような印象を与える柳田選手のスイングですが、実はものすごく理にかなっています。柳田選手のスイングで特に印象に残りやすいのが写真の大きなフォロースルー。写真のように肘が深く入り、肩甲骨と腕がものすごく捻られています。
こんな動きができるのも、体幹を柔らかく使えているからです。
体幹を固めるトレーニングは固めるクセがついてしまう……
だったら、体幹トレーニングで体幹を強くしてから体幹の使い方を練習すればいいんだな、と思われるかもしれません。
しかし、人間の身体と脳はそんなに単純ではありません。
人間の身体は、トレーニングで行なっている動きも覚えます。知らないうちにクセが出来上がっているのと同じように、動きを覚えようとしていなくても無意識に覚えるのです。
だから、体幹を固めて使うトレーニングは、体幹を固めるクセがついてしまいます。
これは他のトレーニングにも同じことが言えるため、野球の動きにつながらない動きを使うトレーニングは、やればやるほど下手になる可能性もあるのです。
体幹は柔らかく強く、が基本。
体幹が強いことはとても重要なのはいうまでもありませんが、野球の動きにつなげていくには、柔らかさも同時に発揮するようにしていくのが重要。どうしても、強い=固い、というイメージなりがちですが、野球では強いかつ柔らかく動くという機能が必要です。
だからトレーニングでもそんな動きが重要です。
そこで今回は、私が指導するプロ野球選手たちにもやってもらっているトレーニングの中から、ぜひ小学生のうちからスタートしてほしいものをご紹介します。野手にも投手にも使えます。
野球の体幹を動かすパターンを身につける『雑巾絞り』トレーニング
プロ野球たちの動きをよく観察すると、単にグニャグニャというより、一定の動きのパターンで体幹を使っているのがわかります。これは柔らかく使いながらも強い力を発揮するために必要な能力です。
例えば、手首と肩甲骨と胸(みぞおち)の繋がり。
いくら柔らかくてもここがバラバラになってしまうと、大きな力は出ません。
そこで今回は体幹を柔らかくしつつ、その繋がりを強化するトレーニングをご紹介します。名前は、「雑巾絞り」。体幹部分が複雑かつ強烈に捻られることで、野球に必要な体幹の強さと動きを高めることができます。
まず写真のように座ります。
写真2 ©︎中野崇 写真のように膝と肘の位置が合うように腕を捻りながら肩を前に出し、体幹を捻ります。
肩の裏側を正面に見せるようにします。この時、前に出す肘は90度に曲げておきます。
伸ばしてしまうと、肩甲骨が動きにくくなるので、ここはとても重要なポイントです。反対側の腕は、外向きに捻ります(手のひらが顔の方を向きます)
肘は、膝と同じところまで前に出します。この辺りの腕と肩甲骨・胸の関係は、投球動作などで非常によく使われる動きです。
写真4 ©︎中野崇 写真3の形ができたら、左右を入れ替えます。
入れ替えるときは、両足を同時に浮かして入れ替えます。このとき、足首に力が入ってしまいやすのでリラックス。
左右が入れ替わって、完了。
また入れ替えて、一連の動きを繰り返します。余裕が出てきたら、テンポを上げて、なるべく早く肘と肩を入れられるように。
プロ選手はこれを3分間やり続ける、という形で行います。
この動きは、肩甲骨の動きに加えて、みぞおちを丸める動きがかなり重要ですので、以前紹介したみぞおちのトレーニングを行なってからやると効果的です。
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インナーマッスル信仰を捨てよ。日本人が身につけるべき筋トレ知識(前編)
スポーツに興味を持たない人でも、「インナーマッスル」という言葉を知っている人は多いだろう。2008年まで明大サッカー部員だった長友佑都選手が、日本代表入りし、FCインテル入団まで駆け上ったサクセスストーリーを支えたのが「体幹トレーニング」であり、そのキモがインナーマッスルである、というのがおよその一般認識ではなかろうか。(文=FR[ブロガー])