開幕2連敗発進も本来の粘り取り戻し復活を印象付ける

巨人の元エース、34歳となった内海哲也が、自身のプロ人生をかけた正念場のマウンドを続けている。
昨年に続いての開幕二軍スタートから、5月上旬にようやく一軍に合流。本人は、「状態はいい」と笑みを見せたが、それまでのファームでの6試合1勝2敗、防御率4.28という成績を見れば、決して自信満々だったわけではない。しかも、当初は5月11日の阪神戦(甲子園)に先発予定だったが、前日の試合が雨天中止となった影響で内海の登板も流れ、同17日のDeNA戦(山形)で今季初登板。内海哲也の2016年は、随分と待たされる形ではじまった。
今季初登板の結果は、5回2/3を9安打3失点。4回まで毎回走者を背負いながらも無失点で切り抜けたが、5回に同点タイムリーを許すと、続く6回には味方の守備の乱れも重なって2点を失って敗戦投手となった。さらに続く今季2戦目、5月24日の広島戦(マツダ)では5回7安打4失点、2本のアーチを浴び、苦しい2連敗スタートとなった。
それでも調子自体は悪くなく、ボールも低めに集まっていた。元来、150キロを超えるスピードボールで打者をねじ伏せるタイプではなく、“粘り”が内海の真骨頂。今季3戦目、6月1日のオリックス戦(京セラD大阪)では、「最後という気持ちでマウンドに上がった」と背水の覚悟で臨むと、初回と3回の2死二塁、5回の1死一、三塁のピンチを切り抜け、6回3安打無失点で今季初勝利。復活を印象付けた。
限界説の浮上……屈辱のシーズン2勝止まり
東京ガスから自由獲得枠でプロ入りした内海哲也。2年目の2005年に開幕ローテ入りを果たすと、翌2006年にチームトップの12勝を挙げた。以降の8年間で計7度の2桁勝利をマークし、2011年に18勝5敗、防御率1.70、2012年も15勝6敗、防御率1.98の好成績を残して2年連続の最多勝に輝いた。「投手陣は内海中心」。練習中から常に先頭に立ってチームを引っ張り、エースと呼ぶにふさわしい成績も残した。
だが2014年、32歳となった内海哲也は、開幕から9試合勝ち星なしのトンネルに入り込み、最終的に7勝(9敗、防御率3.17)で自身5年ぶりに2桁勝利に届かず。さらに翌2015年は、オープン戦期間中に左前腕部の炎症で出遅れると、開幕後も不振やコンディション不良、登板中に太もも裏がつるアクシデントなどで、2度に渡って一軍登録を抹消され、最終的にプロ1年目を除いて自己最低の2勝(1敗、防御率5.01)に終わった。
「内海はもう限界」、「内海は終わった」――。下降線を辿る成績と屈辱のシーズン2勝、さらに他の主力勢の高齢化に新エース・菅野智之の台頭などの波に飲み込まれるなかで、内海哲也に対しては“限界説”がささやかれるようになった。
春季キャンプで“チェンジ”した調整法
2勝に終わった2015年を「成績は最悪。あり得ない数字」と振り返った内海哲也は今年、恒例の宮崎・青島神社での絵馬掛けに“復活”の2文字を刻み込むと、迎えた春季キャンプでこれまでとはちがった調整法に取り組んだ。
2011年には202球の投げ込みを敢行するなど、春季キャンプ期間中に100球を超える球数を幾度となく重ねながら肩を作り上げていくのが内海哲也のスタイルだったが、今年は第1クール最終日でようやく捕手を座らせるなどスローペースを貫いた。100球以上を投げ込んだのは2回のみ。2016年の内海哲也は“投げず”に肩とフォームを作った。
調整法を変えた大きな理由として、昨年悩まされた左前腕部の炎症が挙げられる。本人の意気込みとしては「もっと投げたい」という気持ちがあったが、再発のリスクを考えると慎重にならざるを得なかったのが正直なところだ。
だが、それが功を奏する場合もある。日本球界には昭和時代から続く“投げ込み神話”がまだまだ残っているが、「肩、肘は消耗品」との考え方があるメジャーリーグでは、ブルペンに入る日が制限され、1日50球でも多い方だ。内海哲也に関しては今年4月に34歳になった年齢的なものもあり、“投げない”調整法が肉体の疲労を取り除き、ボールにキレを生むことは大いに考えられる。
まだまだ不可欠な存在、内海が勝てばチームは勢いに乗る
6月1日に今季初勝利を挙げた内海哲也は、続く同8日の西武戦(西武プリンス)でも6回6安打2失点の好投を見せると、その後も調子の上がらないチームの連敗ストップ役を務め、7月5日の阪神戦(東京ドーム)では6回2/3を4安打1失点の好投で、自身4連勝での今季4勝目を挙げた。お立ち台では、「最高です!」と叫び、「(打たせて取る投球は)僕の真骨頂」と笑み。フォーム固めに苦しんでスタートは出遅れたが、焦らずに自らを見つめ直すことで本来のピッチングを取り戻すことに成功した。
今季前半戦を8試合登板4勝3敗、防御率4.14で折り返した内海哲也。確かに最多勝に輝いた頃の自分とはちがうかも知れない。エースの座も、菅野智之に譲った。だが、やれることはまだまだある。
2死満塁のピンチを招いた状態でマウンドを降りた7月5日の阪神戦では、押し出し四球を許したことに「すみません……」と顔をしかめて何度も謝る後輩・宮國椋丞に対し、ベンチ前で待ち受けた内海哲也は、優しくその頭をポンポンと叩いた。
兄貴分として、チーム全員から慕われる男の存在感は、いまも、そしてこれからも変わらない。前半戦で10ゲーム差を離された首位・広島に追い付き、奇跡の“メークドラマ”を再現するためには、チームのムードを高めることのできる内海哲也の力が必要になる。
※数字は2016年7月13日終了時点