「死ぬ気でやらなあかん」

 いまと同様に、高校時代から球界の注目を集めていた。大阪桐蔭高では、全国に名をとどろかせる強豪にあって1年夏から5番打者の座を掴み、夏の甲子園でのベスト4入りに貢献。秋からはエース兼4番となり、2年夏の甲子園では推定140mの特大本塁打を放って野球ファンの度肝を抜いた。

 高校通算87本塁打の大記録を引っさげてプロ入りすると、日本ハムの入団会見では「新人王を狙います」と高らかに宣言。だが、のちに中田は振り返っている。「“活躍したい”ではなく、“活躍できる”と思っていた」。だが、いきなりプロの壁に阻まれた。春季キャンプのフリーバッティングでは柵越えを連発できても、投手の肩が徐々に出来上がるオープン戦ではボールをとらえられない。ストレートを、まともにバットに当てることができない――。中田の野球人生のなかで、はじめての挫折であった。

 結果、1年目の中田は、新人王はおろか、一軍の試合に出場することすらできずに終わる。続く2年目の2009年、ようやく一軍初出場を果たしたものの、期待された本塁打は22試合に出場して0本。この年、イースタン・リーグでは本塁打と打点の二冠を獲得しているが、一軍では結果がまるで出ない。「練習しても打てないのなら練習しなくてもいい、と思ったりもした」。若い中田の心は乱れた。

 だが、翌年、転機が訪れる。スレッジの退団や森本稀哲の故障によって初の開幕スタメンを掴んだものの、開幕直後に左膝半月板を損傷。「野球ができなくなると野球をしたくなる」。リハビリ生活のなか、真剣に野球に向き合った。ドラフト1位で入団しながら、2年間、周囲の期待に応えられていない。そんななか、中田は奮い立った。「死ぬ気でやらなあかん」。

 無我夢中でバットを振り続けた。そして、一軍に再昇格した7月19日、早速、復帰後初安打を記録すると、翌20日のロッテ戦で大嶺祐太から待望の初本塁打を記録。実に公式戦91打席目での初アーチだった。この年、9本塁打を記録し、翌年からはレギュラーに定着。その後の活躍は周知のとおりだ。

 高校時代の実績から、「平成の怪物」とも称された中田だが、決して天才タイプではない。球界を代表するスラッガーとなったいまも、“死ぬ気”で努力を続けているのである。

「4番というのは信じてもらっているという意味」

 いまや不動の4番として君臨する中田。はじめてスタメン4番を務めたのは、2011年5月25日の中日戦。この年はあくまでも小谷野栄一(現オリックス)との併用という形だった。だが、翌2012年から監督に就任した栗山英樹は、当時22歳の中田を開幕から4番で使い続けた。

 ところが、4番の重圧からか、中田は開幕5試合で19打数無安打と絶不調に陥ることとなる。6試合目にしてようやくシーズン初安打を放ったものの、その後も低迷が続き、6月末になっても打率は1割台。当然、コーチ陣を含め、周囲からは中田の4番起用を疑問視する声が上がった。それでも栗山監督は中田を4番に据え続ける。

 すると、夏場以降、徐々に中田の打撃は上向いた。8月には月間打率.330、6本塁打を記録するなど完全に復調。結局、この年の中田は、開幕から最終戦に至る全144試合で4番としてスタメン出場を果たすこととなった。シーズン序盤の低迷が響いて打率は.239にとどまったが、前年の18本塁打を上回る24本塁打をマーク。4番の重みに耐え続けた男が、苦悩のなかで確かな成長を果たした。

「日ごろから『俺は翔を信じているから』と監督に言っていただいた。4番というのは信じてもらっているという意味なんだと考えた」とは、2012年シーズンを振り返っての中田の言葉だ。信頼に応えたい――その思いが、日本ハムの4番・中田翔を作り上げたと言っていいだろう。

「神がかっていた」

 昨年の11月8日~同21日にかけて開催された「WBSCプレミア12」を振り返っての中田の発言である。世界のトップ12チームが参加した同大会で、中田は輝きを放った。グループリーグ第2戦のメキシコ戦ではサヨナラタイムリーを含む5打点をマークすると、続く第3戦のドミニカ戦、第4戦のアメリカ戦でも決勝打を放つなど獅子奮迅の活躍を披露。8試合で3本塁打15打点をたたき出し、ベストナインに選出された。

 中軸打者に求められる“勝負強さ”が導いた結果だ。「ここぞ」の場面での勝負強さは、つい先日幕を閉じたソフトバンクとのCSファイナルステージでも大いに発揮された。10月16日の第5戦は、初回に4点を失う苦しい展開。だが、2回、先頭で打席に入った中田が大逆転劇の口火を切る本塁打を放つ。この一打が、「いけるぞ!」とチームの雰囲気をがらりと変えた。

 この日、3打数3安打1打点3得点という中田の貢献もあり、日本ハムは逆転勝利。見事に日本シリーズ進出を決め、ファイナルステージ5試合で18打数6安打2本塁打5打点と大当たりした中田はシリーズMVPに輝いた。

 “神がかり”の中田が牽引する日本ハムが日本シリーズで相まみえるのは、“神ってる”鈴木誠也を擁する広島だ。果たして勝利の女神がほほ笑むのはどちらだろうか。

(著者プロフィール)
清家茂樹
1975年、愛媛県生まれ。出版社勤務を経て2012年独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。


BBCrix編集部