取材・文・写真/Baseball Crix編集部
厳しくても勝つことでみんなが幸せになれる
――2016年は早々と上位3チームに差をつけられ、CS争いにも絡めぬまま終戦。毎年のように「選手は揃っている」と言われながら、低迷の原因はどこにあるのでしょうか?
石毛 まず僕らの現役時代は、厳しく強制的に練習をやらされてきた。よく「一軍は完成された選手が集う場所、二軍は鍛錬の場」と言うが、当時の広岡(達郎)監督は「一軍にも未熟者はたくさんいる。常に技術指導しなければならない」と言い続けていた。その結果、個人成績がどんどん上がり、チームは優勝。広岡さんは同じような手法でヤクルトと西武を勝てるチームに作り上げた。
――いまの西武には厳しさが足りないと?
石毛 西武に限らず、現代の野球界は「いかに選手が気持ちよくプレーできるか」と、選手主体で考えるチーム、指導者が多い。「時代が違う」と言われればそれまでだが、やはり僕らみたいな“年寄り”から言わせてもらえれば「ちょっと甘くないか?」と思うね。そういった雰囲気を変えようとしたのが2014年に西武の監督に就任した伊原(春樹)監督だったと思う。だが、思うようにチームが好転せず、球団は選手の意見を尊重する形で伊原さんを解任した(正式発表は休養)。選手側の意見を尊重した球団方針にも寂しさを感じたね。
――確かに第2次伊原政権は約2カ月で幕を閉じました。やり続けていれば結果は違っていたかもしれないと?
石毛 フィギュアスケートの羽生結弦にしても、女子のシンクロナイズドスイミングの日本代表にしても、その道で結果を残し続けている人は、しごき上げてメダルを手にする。特に井村雅代コーチが指導し、リオ五輪で銅メダルを獲得したシンクロチームは、厳しい練習を乗り越えて栄光を掴んだ。組織のなかにはある程度の厳しさがないと、どの世界でも勝ち残れないと思う。僕らの時代は「勝つけど野球自体は面白くないね」とも言われた。それでもファンは勝ち試合を見たいわけだし、手法はどうあれ、勝利を目指すのがチーム。その中で多少の不満はあれども、勝つこと、優勝することで給料が上がり、首脳陣や球団スタッフだっていい思いをしてきた。
辻は現役時代から、目配りや気配りができる人間だった
©︎共同通信――2014年途中からは田辺徳雄監督が3シーズン指揮を執りましたが、結局3年連続のBクラスでした。新指揮官・辻初彦監督に期待する部分は?
石毛 彼自身、「広岡さんに鍛えられた。いいモノを教わった」と言っているし、かつての堅実な野球を踏襲してくれると思う。まだ身体も動くし、実際に自らが手本となり指導している。これは監督として大事だし、重要なことだと思う。彼は現役時代から目配り、気配りのできる人間だった。それをコーチ陣がしっかり汲み取り、選手たちへ伝えることができれば、チームとして機能すると思う。
――エースの岸孝之がチームを去り、新監督にとっては厳しい船出となります。若手で期待したい投手は?
石毛 やはり菊池雄星、高橋光成、多和田(真三郎)あたりでしょう。ドラフト1位で獲得した今井(達也/作新学院)も、即戦力としては厳しいけどいいモノは持っている。あとは中堅どころの野上(亮磨)、十亀(剣)あたりがね……。彼らのような波のある投手をどう使うか。過信はダメだし、かといって早めに見限ってしまうと代役がいない。そのあたりの線引き、使い方がポイントになるだろうね。
――投手陣を引っ張る正捕手争いも注目です。4年目を迎える森友哉はどう起用すべきでしょうか?
石毛 捕手一本でしょう。昨年も後半戦から使いはじめたけど、わたしに言わせれば遅いくらい。キャッチングやスローイングを見ても、そこまで悪くないように見える。辻監督も捕手として鍛えると明言しているし、我慢強く育ててほしい。
――野手陣では、金子侑司が盗塁王を獲得するなど若手の台頭がありました。後半戦は金子に盗塁王を取らせようと上位打線がコロコロ変わりましたが、ベストな1、2番は?
石毛 1番・秋山(翔吾)、2番・金子だね。そのあとに浅村(栄斗)、中村(剛也)、メヒアらがどっしりと座ってくれれば強力だ。栗山(巧)は6番かな。わたしも6番を打つ機会が多かったが、6番はポイントゲッターだけではなく細かい役割も求められる。経験豊富な栗山あたりが6番にいたら相手投手も嫌だろうね。
主将は自分の調子に左右されず平常心でいるべき
――2016年は、打率.309、24本塁打、82打点の活躍を見せた浅村が、2017年からは主将に就任することが決まりました。チームリーダーにとって大事なことはなんでしょうか?
石毛 プレースタイルはいまのままでいいし、試合中にやるべきことはこれといってない。ただし、ゲーム前、ゲーム後には多少の気配りが必要だ。あとは自分の好不調に左右されることなく、常に平常心でいることが大事だと思う。
――石毛さんも20代の頃からリーダーとしての英才教育を受けたとか。
石毛 わたしは広岡監督に指名されて、若い頃から試合前に1分間スピーチというものをやらせてもらった。これは試合に関するコメントや指揮を高めるためのメッセージなどではなく、普段の生活のなかで気づいたことや、時事ネタを発表する日記的なもの。そのために本を読んだり映画を見たり、野球以外のことにも目を向けた。その結果、人間としての視野が広がったし、人脈も広がった。
――野球だけじゃダメ。
石毛 そうだね。あと、「肩書きが人を作る」と言うけど、正式に主将に任命されたことで動きやすくなる。これまでは先輩たちに遠慮していた部分もあったと思うが、これから言いやすくなる。二塁手ということでマウンドへもいきやすいし、投手陣にも堂々と声掛けしてほしいね。
――最後に、パ・リーグのなかで再び西武が躍進するためにはなにが必要でしょうか。
石毛 まずは相手どうこうではなく、辻監督が標榜する「守り勝つ野球」を実現できるかだろうね。岸が抜けるわけだし、正捕手も現時点では誰になるかわからない。昨年の野上のように、先発投手がある程度試合を作っても、ミスから自滅して先発に勝ちが付かないとチームの雰囲気も悪くなる。エラーが少なくなれば先発投手の白星は増えると思うし、僅差の試合を増やすことができれば、武器である長打で試合をひっくり返すことは可能。そのためにはつまらないミスを減らすこと。それを実現させるためにも、適度な緊張感があるチームになってほしいね。
(プロフィール)
石毛宏典
1956年、千葉県生まれ。銚子高-駒沢大-プリンスホテルを経て、ドラフト1位で1981年に西武へ入団。1年目から新人王を獲得するなど、若きチームリーダーとして黄金時代をけん引。西武在籍時は11度のリーグ優勝、8度の日本一を経験し、1995年からは2年間、ダイエーでプレーした。現役引退後は、ダイエーの二軍監督、オリックスの監督を歴任し、日本発の独立リーグである四国アイランドリーグを創立。現在は、野球教室、野球塾、講演、他のアスリートのクリニック、講演等も行う。