取材・文/Baseball Crix編集部 写真/小林学

ポストシーズンで勝つためには“ギアチェンジ”が重要

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――ドジャースへ移籍した前田健太が16勝11敗、防御率3.48の好成績を残し、改めて日本人投手の良質ぶりを示してくれました。

小早川 1年目から先発ローテーションを守り、十分な戦力になっていた。契約時にいろいろとあったが、しっかりと結果を残し雑音を振り払った感がある。ポストシーズンでは悔しい思いをしたが、メジャーリーガーとしては素晴らしいスタートを切ったのではないか。技術面で光ったのは制球力。自分のボールをしっかり操れていたと思う。

――岩隈久志も防御率こそ4.12だったものの、マリナーズの勝ち頭として16勝(12敗)を挙げました。

小早川 岩隈は、改めて「メジャーリーガーだな」と強く感じさせてくれた。どんなときでも淡々とボールを投げ込む姿勢が素晴らしい。誰もが冷静に淡々と投げたいんだけど、これがなかなかできない。それができるのが岩隈だし、黙々とイニング数を積み重ねながら、マリナーズをポストシーズン進出あと一歩のところまで導いてくれた。

――田中将大はヤンキースのエースとして14勝4敗。防御率はリーグ3位の3.07でした。

小早川 シーズンを通して働き続けたのは初めてだし、エースとして名門・ヤンキースをしっかり引っ張ったことは間違いない。ただ、肘の不安は手術をしない限り今後もずっとつきまとうと思う。2016年は先発陣の柱として投げ抜いたが、また今年はどうなるかわからない。そこだけが心配だ。

――田中とは対照的にトミー・ジョン手術という選択をしたレンジャーズのダルビッシュ有は、約1年半ぶりにメジャー復帰を果たし、7勝5敗、防御率3.41という成績でした。

小早川 復帰元年だったし、様子を伺いながらのシーズンだった。ただ、投げているボールを見る限り、ストレートの走り、変化球の精度ともに素晴らしかった。本人もイメージ通り、もしかしたらそれ以上の手応えを感じているかもしれない。トミー・ジョン手術は復帰後2年目に効果が最も出ると聞く。本格復帰となる2017年シーズンは期待大だ。

――上原浩治は一時故障離脱もありましたが、後半戦に持ち前の安定感を発揮。シーズン終了後には、昨年108年ぶりの世界一に輝いたカブス移籍が決まりました。

小早川 復帰したシーズン後半は特に安定感があり、レッドソックスの地区優勝に貢献した。40歳を超えても制球力は衰えないし、改めて素晴らしい投手だと感じた。「どこからも声が掛からなければ引退する」と言っていたが、カブスと契約できてなにより。初めてナショナル・リーグでプレーすることになるが、しっかりコンディションを整えることができれば新天地でもやってくれると思う。

――同じくレッドソックスの田沢純一は、シーズン終盤に息切れしましたが4年連続の50試合登板は評価に値すると思います。

小早川 後半戦に調子を落とし、登録枠が広がった9月以降は出番が激減。苦しいシーズンだったと思う。ただ、田沢に関してはまったく心配してない。4年連続50試合登板という実績があるし、いまの状態でもどこへ行ってもプレーできる。(後日、マーリンズと契約締結)。来年はリセットの1年にしてほしい。

――シーズン中は安定していた日本人投手ですが、近年はポストシーズンでの先発陣の苦戦が目立ちます。2016年は前田とダルビッシュが未勝利。2015年のワイルドカードゲームでは、ヤンキース先発の田中将大も負け投手でした。大一番で勝つためにはなにが必要なのでしょうか。

小早川 大事なのは“ギアチェンジ”。メジャーの選手はポストシーズンがはじまる10月に入ると、ギアをもう一段階上げてくる。これは日本のプロ野球にはない感覚だし、日本人選手もそれに合わせる必要がある。そのために大事なのが、長丁場を戦うためのスタミナ。日本人選手は真面目だから開幕にキッチリ合わせてくるけど、それが長続きしない。ダルビッシュ、田中、前田はポストシーズン経験者だし、今後は対応してくれるはず。個人的にも久々にポストシーズンで好投する日本人投手が見たい。

――メジャーのポストシーズンは、ファンの盛り上がりもすごいですよね。

小早川 街全体が盛り上がるし、例えるならサッカーワールドカップでの日本戦後や、ハロウィン時の渋谷の雰囲気だと思う。見方によっては、街自体のテンションが高くて怖いくらい(笑)。プロ野球のCS、日本シリーズとは盛り上がり方がまるで違う。

純粋にメジャーで活躍する川崎が見たい!

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――野手では、マーリンズのイチローがメジャー3000安打を達成するなど盛り返した。

小早川 少ない出番のなかでしっかり巻き返してきたのはさすがだと思う。ただ、本人は納得していないと思う。彼は求めるレベルが高いし、我々の物差しでは測れない。本人は50歳まで現役を続けるつもりでいるし、今後もブレずに自分の理想を求め続けてほしい。

――終わって見れば打率.283、出塁率.349の成績を残したマリナーズの青木宣親。さすがの安定感を示した一方で、2度のマイナー落ちを経験するなど悔しさも残りました。

小早川 ジャイアンツ時代の2015年に頭部死球を含む2度の離脱があり、マリナーズへ移籍した2016年は存在価値を示すためにも非常に大事な年だった。それが前半の不調もあり消化不良に。2017年もアストロズ移籍決定みたいなことになっているが(2016年12月31日時点)、これもルールの穴をついたような保険的な契約で、まだまだ予断を許さない状況。ただ、青木が新天地で求められるものは明白。メジャー挑戦後から毎シーズン安定している出塁率をキープすること。新天地でも首脳陣の期待に応えてほしい。

――カブスで108年ぶりの世界一を経験した川崎宗則は、去就に注目が集まっています。

小早川 個人的にはまだアメリカで頑張ってほしい。ちょっとファン目線になるが、川崎は苦労しながらも常に前向きだし、純粋にメジャーで活躍する川崎が見たい!(笑)。2017年の所属先はまだ決まっていないが(2016年12月31日時点)、レギュラーに定着するためには打力を上げないと厳しいだろう。川崎はここ数年、メジャーとマイナーを行ったり来たりするシーズンが続いているが、マイナーは練習も満足にできる環境ではない。シーズン中の技術向上が難しい状況だからこそ、自主トレ期間にでもまたイチローの下へ弟子入りし、技術指導してもらってほしいな(笑)。

打者・大谷は、メジャー屈指の強打者・ハーパークラス

――近年はメジャーに挑戦する野手が減少傾向にあります。現在のプロ野球界において、通用しそうなタイプ、選手はいますか?

小早川 メジャーで活躍するならパワーがないと厳しい。そうなるとやはり大谷翔平だ。

――大谷は2017年シーズン終了後にも、海を渡るのではと言われています。メジャーでプレーするなら投手、野手、それとも二刀流?

小早川 僕自身はメジャーでも二刀流を貫いてほしい。基本は野手で出場して、投手はセーブシチュエーションでの抑え投手起用。日本ハムでも二刀流として活躍し続けているわけだし、どちらかに専念するつもりなら、いまからでもどちらかに絞って起用した方がいい。

――噂されているポスティング移籍となれば、交渉内容も気になるところです。

小早川 メジャーは契約社会だから、どう折り合いをつけるのか。数字の予測が難しいぶん、出来高も設定しづらいはず。そもそも日本でも「規定(打席、投球回)に達していない」とか「数字が残せていない」とか言う人がいるが、僕は現状でも十分だと思う。間違いなくチームを優勝、日本一へ導いているわけだから。記録には残らなくでも、記憶に残れば十分。箸にも棒にも引っ掛からない数字なら別だが、2016年は2桁勝利、打率3割、20本塁打以上をマークしているわけだから。

――率直に、二刀流のままメジャーで通用すると思いますか?

小早川 現状、投手はちょっと厳しいかもしれないが、打者としては十分通用すると思う。

――メジャーリーガーで言えば、どのクラスの打者でしょうか。

小早川 プライス・ハーパー(ナショナルズ/2015年ナ・リーグMVP)クラスの打者になれると思うし、現時点で比較しても遜色ない。スイングスピードは大谷の方が早いと思うし、実際に間近で見ても、身体は大谷の方が大きい。それくらいの素材ですよ、大谷は。

(プロフィール)
小早川毅彦
1961年、広島県生まれ。PL学園高-法政大を経て、ドラフト2位で1984年に広島へ入団。1年目から新人王を獲得するなど「赤ヘルの若大将」として3度のリーグ優勝、1度の日本一を経験。1997年にヤクルトに移籍し、開幕戦の巨人戦で史上3人目となる開幕戦における3打席連続本塁打を記録するなど、優勝に大きく貢献した。現在は、NHK解説者の他、多方面で活躍中。


BBCrix編集部