取材・文/Baseball Crix編集部 写真/小林学

海外は周りの目が気にならず練習に集中できた

――宮崎にはどんどん新しい球場ができて、誘致にも積極的です。小早川さんも広島時代に宮崎キャンプを経験していますが、当時の印象は。

小早川 キャンプはきついししんどい……。それを乗り越え、1日1日しっかり切り替えるために大事なのが食事だ。美味しいものを口にすることで気分転換にもなる。宮崎は地鶏が有名だし、お酒も果物も美味しい。それが宮崎キャンプの楽しみだった。

――広島の春季キャンプは一次宮崎、二次沖縄の形を長らくとっています。沖縄キャンプのメリットは。

小早川 沖縄はやはり気候面にメリットがある。暖かければ身体もよく動くし、スタートを切るにはもってこいの場所。さらに日本のチームだけはなく、韓国のチームも多く訪れる。結果的に練習試合の相手見つけやすいし、多くの実戦を重ねられる。

――小早川さんはヤクルト時代にユマキャンプも経験していますが、海外キャンプのメリットはどこでしょう。

小早川 海外は解放的だし、ファンや人の目を気にせずノビノビと練習できる。僕自身も感じたことだが、キツい練習では苦悶の表情になったり、ファンには見られたくない顔になるときがある。これが国内キャンプだと、周りの目を意識してしまって、キツいのにスマートなふりをしてしまう(笑)。でも海外だと余計なことを考えず、ありのままの感情を表情に出せる。施設も密集しているところが多いし、練習に集中できる。

――そんな葛藤があったんですね(笑)。ちなみにユマキャンプ時代のヤクルトは強かった印象ですし、昨年の日本ハムも結果的に日本一でした。練習に集中できる海外キャンプがもっと増えてもいいと思うのですが。

小早川 そこには球団経営という問題がある。いまはキャンプも興行だし、ファンが集まれば球団もキャンプ地も潤う。海外キャンプでは大勢のファンを呼べないからね。

どの球団も反復練習が減り実戦練習が増加傾向にある

©︎共同通信

――練習内容やスケジュールなど、球団による違いはありますか。

小早川 メディアの数や扱いの違いはあるね。2016年、阪神の春季キャンプで練習後のリレー競争が話題になったけど、あれは金本(知憲)監督が広島の現役時代にもやっていたこと。ただ、当時の広島の場合はメディアも取り上げたりしないし、シンプルに陸上競技場を使ったガチレースだったんだ(笑)。昨年の阪神のように笑顔交じりの和気あいあいとした雰囲気じゃなかったし、ほとんど話題にもならなかった。それから、巨人は一次キャンプ地の宮崎、二次キャンプ地の沖縄と、設備の充実度が別格。ファンも集まるし、施設一帯がテーマパークのよう。

――近年はどの球団も設備が充実しているように感じます。

小早川 ただその割には、各施設の移動に時間がかかっている印象を受ける。もうちょっと効率よく、濃密な練習ができるんじゃないかと……。あと、どのチームにも共通して言えることだが、近年は実戦的な練習が増加傾向にある。僕らの時代はキャッチボールやランニング、ペッパーなど、基礎的な練習に多くの時間を費やしていた。

――基礎的な練習を増やすべきだと。

小早川 現役時代を振り返ると、シートノックや連携プレーなど、実戦的な練習の方が楽。ただ、特にキャンプ序盤はキャッチボールやランニングなど、反復的な練習に多くの時間を費やした方が、技術向上につながると改めて感じた。

新戦力はチームに勢いを与える可能性を秘めている

――キャンプで注視しているポイントはどこにありますか?

小早川 解説者として大事にしている視点はふたつ。新戦力とチームの雰囲気。新戦力はチームに勢いをもたらしてくれる可能性があるし、前評判通りの活躍ができるか否かを改めて自分の眼でチェックする。新監督を迎えるチームなどは、1年で雰囲気がガラッと変わったりする。

――キャンプ時のムードがいいと、シーズン成績にも影響するものでしょうか。

小早川 そう簡単には成績改善にはつながらない。あと、事前に先入観を持ってしまうと、冷静にチーム分析できない。僕自身も一旦フラットな状態に立ち返って、2月1日のキャンプンを迎えるようにしている。

――今年はWBCに備えた侍ジャパンの代表合宿もあります。

小早川 誰が残りの代表メンバーに選ばれるか注目だし、代表選手の例年とは違う調整ペースに注目したい。さらに主力選手が所属チームを離れることで、他の選手はアピールの場が広がる。新たなブレーク候補の出現にも期待したいね。

(プロフィール)
小早川毅彦
1961年、広島県生まれ。PL学園高-法政大を経て、ドラフト2位で1984年に広島へ入団。1年目から新人王を獲得するなど「赤ヘルの若大将」として3度のリーグ優勝、1度の日本一を経験。1997年にヤクルトに移籍し、開幕戦の巨人戦で史上3人目となる開幕戦における3打席連続本塁打を記録するなど、優勝に大きく貢献した。現在は、NHK解説者の他、多方面で活躍中。


BBCrix編集部