史上初! 2度目の大学駅伝3冠へ

95回目の箱根駅伝で、圧倒的な優勝候補との呼び声が高いのが青山学院大学だ。箱根駅伝は前回までに4連覇を果たしており、今回は史上3校目の5連覇がかかっている。また、今季は10月に行われた第30回出雲全日本大学選抜駅伝競走(出雲駅伝)、11月に行われた秩父宮賜杯第50回全日本大学駅伝対抗選手権記念大会(全日本大学駅伝)と、大学三大駅伝ですでに2冠を獲得している。2度目の大学駅伝3冠となれば史上初の偉業だ。
 記録でも10000mの上位10人の平均タイムは28分43秒93と他校を圧倒するが、記録以上にレース本番での安定感が光る。出雲駅伝では走った6人全員が区間2位以内(うち3区間で区間1位)、全日本大学駅伝も区間1位と2位が2区間ずつ、3位が3区間、5位が1区間と、レースで力を発揮できるのも、このチームの強さだろう。

強さの秘密となる“青トレ”の確立

毎年選手が入れ替わる大学スポーツにおいて、勝ち続けるのは決して簡単なことではない。それでも、青山学院大は箱根駅伝で連覇を続けてきた。その強さの秘密のひとつは、フィジカルトレーニングやケアの方法などの“青トレ”が確立されたことにあるだろう。
 青山学院大が箱根駅伝で初優勝した2014-15年シーズンからフィジカルトレーナーを務めているのが、中野ジェームズ修一氏をはじめとした株式会社スポーツモチベーションのトレーナー陣だ。箱根を制した翌年度からも徹底して“青トレ”に取り組み、チーム力をより強固なものにしてきた。

 また、青山学院大の活躍により、陸上競技の長距離界で以前よりもフィジカルトレーニングの重要性がいっそう高まった印象があり、今では各大学がさまざまなアプローチでフィジカルを鍛えるようになった。
「陸上界はトレーニングに関してすごく遅れていた印象がありましたが、そういう風潮ができたのは本当にうれしいこと。そこに少しは貢献できたのかなと思います」と中野氏は言う。

「チームで取り組む形式」を作った“青トレ”

それでは、多くの大学がフィジカルトレーニングを取り入れているとなると、“青トレ”独自の強みとはどんな点にあるのだろうか。
 中野氏は、各大学の取り組みについて「それぞれのトレーナーたちが考えるトレーニングは、どれも正しいと思います」と前置きした上で、「フィジカルトレーニングはトレーナーとアスリートが1対1で指導するものだったが、青山学院大ではチームで取り組む形式を作れた」と、青トレの特長を挙げる。
「人によって体力レベルも違うし、全員が同じメニューをして全員が強くなっていくという形式を作るのはとても難しいことだった。青トレは、トレーニングのレベルが、ステップ1、ステップ2、ステップ3とレベルが上がっていくわけですが、ステップ1ができていないのに、次のステップに進むわけにはいきません。定期的にうちのスタッフも通っていますが、その判断は学生のマネジャーもできるようにしています。そのシステムができたのは大きいと思います」

 とはいえ、中野氏が青山学院大の学生アスリートに課しているのは、基礎中の基礎だという。青トレ導入2年目にある程度確立させたトレーニングをその後も“継続”していき、それを“徹底”してチームに“定着”させてきた。その上で、チームのレギュラークラスなど、さらに上を目指すものに関しては個別指導に当たっている。
 また、「フィジカルトレーニングだけをやっていても伸びるわけではない。良質な(走る)練習と合致してこそ、パフォーマンスは上がる」(中野氏)ということも補足しておく。中野氏が課すトレーニングと原晋監督の練習メニューとが両輪になり、青山学院大は結果を出してきた。

 蛇足になるが、このトレーニングを卒業後も継続している、または発展させて取り組んでいる青山学院大OBも多いという。マラソンの結果ばかりが注目されるゆえ、「青山学院大OBが伸びていない」などという報道もあるが、トラックの10000mに目を向けると、今季27分台を走っている日本人5人のうち2人が青山学院大OBなのだ。

(C)The Asahi Shinbun/ Getty Images

箱根駅伝5連覇に向けた分厚い選手層作り

 単に“教える”のではなく、“理解させる”ことに重点を置いているのも、中野氏と原監督が大事にしていることだ。
「このトレーニングはなぜ必要なのか。このケアはなぜ必要なのか。なぜストレッチをしなければならないのか。この筋肉はどんな動きのときに使われているか。どういう痛みのときにどの筋肉が関与しているか……そういったことを全部理論で教えているんですよ」
 青山学院大には、こういった事柄が網羅された門外不出の“虎の巻”がある(この“虎の巻”が書籍『青トレ』シリーズ(徳間書店)の原型になっている)。これを選手全員が持っており、卒業するときには後輩に引き継いでいく。これは選手たち自らが、中野氏の講習や資料をまとめて完成させたものだ。筋肉やケガの症例などそれぞれのパートに担当がいて、ケガをしたときの対応については、過去に同様のケガしたOBにインタビューしているので、実感が伴っている。これほど高い意識で選手たちが取り組んでいるのだから、いかに“最強であること”が徹底されてきたかお分かりだろう。
 青山学院大は、“虎の巻”を後輩へと受け継いでいき、基礎を徹底させることで、分厚い選手層を誇るチームを形成してきた。華やかな活躍の裏では、実はかなり地道な作業に取り組んできたのだ。今回の箱根駅伝では5連覇が有力視されているが、その分厚い根拠はこんなところにあった。



(著者プロフィール)
和田悟志


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和田悟志

著者プロフィール 和田悟志

1980年生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。