もっとも、この循環にうんざりしている愛好家はきわめて多いのではないか。実際、ナショナルチームの強化の肝は、選手の国籍や出自とあまり関係がない。

他国代表も「純国産」とは限らない?

<ラグビーが注目されてる今だからこそ日本代表にいる外国人選手にもスポットを。彼らは母国の代表より日本を選び日本のために戦っている最高の仲間だ。国籍は違うが日本を背負っている。これがラグビーだ(原文ママ)>

2015年9月、ツイッターでこう発したのは五郎丸歩だ。折しもラグビー日本代表の副将として、W杯イングランド大会の予選プール初戦に出場。23名中7名を海外出身者とし、過去優勝2回の南アフリカ代表に勝っていた。

2019年のビッグイベントを広く周知できそうな頃だ。当の本人は肉声でも発した。

「2019年に向けて、クリアしなきゃいけない問題だったと思うんです。どうしても『何で外国人が入っているんだ』という見られ方をする。ただ、メディアの方にそこへ注目してもらうことで、日本人が『ラグビーはそういうものなんだな』と理解しやすくなると思いました」

統括団体のワールドラグビーは、当該国のパスポートを持たない者でも「当該国で3年以上継続して、もしくは累積で10年以上、居住する」「他国代表としての試合出場経験がない」という条件を満たせば15人制の代表入りに挑めるとしている。

7人制ラグビーが五輪競技となってからは、他国代表経験者でも「当該国の国籍を取る」「代表戦出場から1年6カ月以上離れている」「7人制のワールドシリーズに4大会以上出場する」というハードルを越えれば15人制の代表を目指せる。ワールドカップで上位を争う国でも、外国人が選ばれる例は少なくない。

ましてや小柄な選手の多い日本代表では、骨格、筋肉量に長けた海外勢が重用されてきた。特に身体接触の多いフランカー、ナンバーエイトの位置で期待されてきたのが、リーチ マイケル。15歳でニュージーランドから来日し、東海大2年時に代表デビューを果たした30歳だ。

2014年には、海外出身者として史上2人目となる代表主将に就任。イングランド大会後には、海外のレフリーとのやりとりを円滑に進める観点から「日本代表の主将は英語ができないと苦労する」と証言した。このあたりからも、日本代表の国際化は必然だと伝わる。

日本大会での決勝トーナメント進出を目指す現体制下では、「グローバル」と「ローカル」を合わせた「グローカル」というキーワードが根付いている様子。日本大会を目指す「ラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)」「ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)」のグループ全56名中20名が海外出身者だ。

ウイングで日本国籍を持つレメキ ロマノ ラヴァは、日本語の話せない選手と日本人選手を繋ぐ「ブリッジ」になりたいとする。

「僕は20歳から日本にいる。国籍も取ったし、普通に日本語も喋れるし、通訳とかもいらないから」

本当に見るべきは。

愛好家のみならず現場にとってもわずらわしい「なぜ外国人が…」の論調は、本当の問題を陰に隠してしまう意味でも厄介だ。

外国人起用に関する批判が集まったタイミングに、2011年のニュージーランド大会時が挙げられる。しかし登録メンバー中の海外出身者の比率は2011年が34名中12名(追加招集含む)。「JAPAN WAY」を謳った2015年の31名中10名とそう変わらない。

数字上の大差はないのに世間の反応が異なったとしたら、その理由は両軍の背景にあったかもしれない。

2011年のヘッドコーチ(HC)だったニュージーランド出身のジョン・カーワンは、年間の多くをイタリアで滞在。日本人を含めた選手の選考過程でも、「サイズは関係ない」という公式見解に背くように見た目上の大きさを重視していたような。カーワンに招集された国外滞在選手は本番で大きなミスを犯し、未勝利に終わった。

一方で2015年にタクトを振るったエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ(HC)は、元オーストラリア代表HCで日本での指導経験を持つ。自らの経験から、日本出身者の魅力は勤勉さにあると看破。専門コーチを揃えて1日複数回の練習を実施し、運動量とコンタクト時の姿勢の低さなどを重視した。ぶつかり合いで互角に戦うために呼んだ外国人にも、局所的に特別休暇を与えつつハードワークを課した。エッジの利いた歩みにより、イングランド大会での歴史的3勝をもたらした。

これらの歴史を鑑みれば、代表強化に関する注目点は「列強国に勝つための計画がなされているかどうか」だとわかるだろう。この「計画」には戦法、メンバー選考、さらにはグラウンド内外における首脳陣の準備が含まれる。

現在世界ランク11位という日本代表にとって「不可欠」な海外出身者のなかには、同上位の母国で代表入りが叶わなかった選手も少なくない。仮に日本人選手を極限まで減らしたところで、挑戦者の立ち位置が変わるわけではない。この現実と過去のW杯の歴史を踏まえると、日本代表は「列強国」にない強みをベースに「計画」を立てるのが吉と言えそうだ。

現代表を率いるジェイミー・ジョセフHCは、カーワンと同じニュージーランド出身。攻撃戦術はスーパーラグビー(国際リーグ)のハイランダーズでHC、アシスタントコーチの間柄だったトニー・ブラウン、守備戦術はやはりスーパーラグビーのハリケーンズで指揮を執るジョン・プラムツリーといった専門コーチに一任する。トレンドのポッドシステム(選手がまんべんなく左右に散る陣形)を用いてパスやキックをスペースへ通し、鋭い出足の防御で圧をかけたいとする。

最近ではW杯経験のある日本人選手を落選させる一方、自らは12月の国内リーグの視察、2月上旬のRWCTSキャンプ序盤への帯同をスキップ。ジョセフと親交が深い藤井雄一郎・強化副委員長は「(2月は)欧州六か国対抗戦を見ている。(現イングランド代表ヘッドコーチの)エディーさんに付いて行って、色々聞くのだと思う」とし、本人も帰国後の2月15日にそれまでの活動の一部をメディアに報告。ただ、今後もより詳細な説明が求められる。

今回のRWCTSには、W杯日本大会直前の代表資格取得が待たれるメンバーがいる。それぞれW杯出場を真摯に目指すが、滞在期間などの問題もあってか実際に出場できるかは流動的。強化委員会は「二重、三重にチェックを重ねている」と慎重な構えを崩さない。昨年末にニュージーランドで暴行事件を起こしたマフィの代表復帰に向けても、いつ下されるかわからない司法判断を待つだけだ。

さらに2020年以降は、代表資格取得までの当該国継続居住年数が3年から5年に延びる。日本代表が海外出身者の力を借りづらくなるのは明白だが、今後を見据えた強化の「計画」はあまり多くない。

このように、同じ問題提起をするのなら「なぜ外国人が…」よりも見るべき点がある。

公式のキャッチコピーで「一生に一度」とされる日本大会に際し、リーチは「これから日本がグローバルになって色々なカルチャーが混ざってゆくなか、(日本代表の)チームワークを見て色々感じて欲しいと思います」と話す。このメッセージを継続的に発信できるかどうかは、ビジョンを描く立場の者の資質が問われる。


向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。