『横浜ストロングスタイル』。是々非々でモノを言う池田氏らしいタイトルとは裏腹に、同著は意外な自戒の言葉で幕を開ける。

 愚かだった。

2016年10月、ベイスターズの球団社長を退任した池田氏は「変えたい」「変えなくてはならないんです」「一緒に戦ってください」といった言葉に立ち上がり、さまざまな組織に関わって情熱と時間を注ごうとしてきた。しかし「“次のベイスターズ”への道、自分の情熱を100%注げる道には出会えなかった」「バッターボックスにすら立たせてもらえなかった」と振り返る表情は、どこか寂しげだった。

「一言で言えば、やられまくったんです。いじめられた、ということでしょうね。スポーツの世界で。正々堂々というスポーツのあるべき姿とは真逆の世界が競技の裏にはあって、日本の嫌な部分が凝縮しているように感じました。ベイスターズでの仕事が終わった時、次の本気でできる仕事に絶対に出会えると思い、いろいろと頼まれて引き受けてきました。ベイスターズでは経営を完全に任されたので、お客さんをとことん楽しませることに力を注げましたが、退任してからの2年半はスポーツを発展させたい、組織を超えて多くの人たちを楽しませたいとの思いを持って動く以前に、トップの座を勝ち得るために“しがらみ”と戦うという訳の分からないことに巻き込まれてしまった。野球でいえば打席にも立たせてもらえなかった状態です。そこで戦いまくって、言いまくったら、この世界では排除される。そんな現実を、たっぷりと味わうことになってしまいました」

本著では、あるJリーグのクラブからのオファーにはじまり、特任理事として加わった日本ラグビー協会、参与を務めたスポーツ庁など、この2年半で関わった組織と、そこで経験した「ファクト(事実)」が明確に記されている。現状の肯定ばかりをし、何事もオブラートに包んで曖昧にし、成功している感を醸し出すことに躍起になる。いわゆる「タコツボ社会」で「なぜ?」を繰り返し「時間だけが過ぎていった」という。

「協調性とか、波風を立てないでとか、否定的なことを言わないでとか、偉い人が偉い人に忖度するとか。これは、私がいるべき世界ではないなと。だから、名義貸し、名誉職でしかなかった役職はすべて辞めました。辞めたくて辞めたわけではなく、最初の約束が反故にされ、必要とされていないと感じたからこそ辞めざるを得なかったのです。この本は、次にやるべきものを見つける上で『嘘の世界はもういいです』という“名刺”の意味合いもあります」

2020年東京五輪・パラリンピックを控える日本のスポーツ界は今、ブームの真っただ中にある。放っておいても、少しずつ発展していく状況にあるといっても過言ではない。その中で2020年以降を見据えて、危機感を持って「もっともっと日本のスポーツは非連続に成長できる可能性がある」と、多くの組織や人と向き合ってきた池田氏が、そんな自身を「愚かだった」と表現するところに、現在のスポーツ界が抱える“闇”の深さが逆説的に表れている。

また、本著の帯には、実業家の堀江貴文氏が次のような推薦コメントを寄せている。

 「池田氏は、常に日本の病と対峙してきた。そのスタイルは“戦う教科書”そのものだ!」

保身、忖度、お友達文化、毀誉褒貶-。スポーツ界で池田氏が絶望しながらも真っ向勝負を挑んできたこれらは、まさに堀江氏が言う通り、日本のスポーツ界にとどまらず、日本の組織、社会において共通した「病」と呼べるものでもある。池田氏のスポーツ界での“戦いの歴史”が記されている同著だが、組織の中でもっと自由に、強く生きていきたいと願う日本のすべてのビジネスマンにとっての普遍的な「戦い方の教科書」としての意味合いも本著は持ち合わせている。

「戦うこと、素直にものを言うことは大変なことです。それは、この本を読んでもらっても明らかだと思います。ただ、2020年以降、株価が上がる要因もなく、生産年齢人口も減っていくことを考えると、本当に日本に不景気がやってくるんじゃないかなと懸念しています。目先の体制にしがみついて、しがらみに囲まれて議論をせず、よく分からない忖度にまみれた世界で『少しずつよくなっている』と現状を肯定ばかりしていては、なおさらです。基本的には楽しく読んでもらえればいいと思いますし、誰もが私のようなファイターにはなれないと思いますし、なる必要もないと思います。一方で、こんな人間もいるんだと知ってもらうことで、今まで言えなかった一言が言えるようになったり、一歩を踏み出す勇気を持てたりすれば、“塵も積もれば山となる”ではないですが、どうにかなるんじゃないかとも思うんです」

確かに、池田氏のように今持っている地位、肩書にしがみつかずファイティングポーズを取り続けることは誰もが容易にできることではない。当の池田氏自身も「損する人生かもしれない」と苦笑する。

「でも、結果的にそれでいいと思うんです。変なものに迎合して、しがらみに巻き込まれて、嘘をついて生きる。そんな“おとな”の姿を真似る子供が増えたら嫌じゃないですか。それに、一番言ってほしくないことを言う方が、物事って実は大幅に改善されていくんです。でも、みんなそこを言わないから中途半端にしか成長しない。それは、誰もが朧げながら分かっているはず。長い年月が経ったときに、最後はそれで良かったと言えるんじゃないかと思うんです。“みんな仲良く”が理想ですが、保身や卑怯なやり方は認めない。それが横浜で培ってきた私の生きる姿勢です」

『横浜ストロングスタイル』−。池田氏が貫いてきた哲学と、今後への確固たる決意が、このタイトルには込められている。過去の成功体験に甘んじることなくファイティングポーズを取り続ける経営者の言葉は、保身や忖度だらけの組織で戦い、悩み、苦しむビジネスマンにとっても“元気玉”としての大きな力を持っている。

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VictorySportsNews編集部