スポーツベッティングと仮想通貨
今年6月7日付の読売新聞で、経済産業省がスポーツの試合結果やプレー内容を賭けの対象とする「スポーツベッティング」の国内解禁に向けて素案を取りまとめたことが報じられた。実際に世界のスポーツにおいてベッティングは2020年時点で1300億ドル(約17兆8100億円、20年)にもなるといわれるほどの市場規模に拡大しており、仮想通貨との関係性も深い分野として認識されている。
日本でのスポーツベッティングの現状はどうなっているのか。日本でスポーツを対象にした賭けといえば、競馬や競輪などの公営ギャンブルやサッカーの試合結果を予想するスポーツ振興くじ「toto」に限られ、賭けを募ることも投票することも違法とされている。しかし、オンラインのスポーツベッティング、ブックメーカーの日本語版サイトがここ数年で増えており、世界3大ブックメーカーの一つ「ウイリアムヒル」やイングランドプレミアリーグ・ストークシティのスポンサー(現在プレミアではスポーツベッティング企業のスポンサードは禁止)を務めていた「bet365」なども日本に“進出”。プロ野球、Jリーグなど日本のスポーツを賭けの対象にしているサイトも多い。
日本に拠点を置く企業・サーバーによる運営が認められないのは当然、海外のサイトでも日本から投票すれば、実際に有罪判決を受ける可能性は別として賭博罪が成立するとされている点には注意が必要だ。一方で、コロナ禍でスポーツベッティングの人気は拡大。日本のスポーツを対象にした賭け金は年間5兆円以上に上るとの調査結果も出ている。
そうしたスポーツベッティング人気を後押しするのが仮想通貨の普及といわれる。通常ブックメーカーで出金する際には本人確認のための証明書類の提出が必要だが、仮想通貨を利用すれば多くの場合、それが不要となり匿名性が保たれるメリットがある。また、仮想通貨なら即日の入出金も可能で、仮想通貨とスポーツベッティングは切っても切り離せない関係にあると言っても過言ではない。
大企業が参入へ
スポーツベッティングへの関心の拡大は、大企業の動向にも表れる。プレイステーションの開発・販売などを行うソニー・インタラクティブエンタテインメントが、仮想通貨を利用してeスポーツでベッティングできるプラットフォーム『E-SPORTS BETTING PLATFORM(Eスポーツベッティングプラットフォーム)』の特許を申請していることが判明。スポーツコンテンツ配信大手「DAZN」もオンラインカジノのプラットフォームなどを提供する「プラグマティックソリューションズ」と戦略的パートナーシップを締結し、ジブラルタルに本社を置く新会社を設立。「DAZN BET」というスポーツベッティングサービスを英国で8月22日にローンチした。米国でも、ディズニー傘下のスポーツ専門局ESPNやFOXが積極的な動きを見せており、もはやメジャー企業にとっても、スポーツベッティング業界は無視できないものとなっている。
特に大きな流れを生んだのが、米国での“解禁”だ。2018年に米国の連邦最高裁がスポーツ賭博を禁じた法律を違憲と判断したことを機に、各州で合法化された。また、経産省によると先進7か国(G7)でスポーツ賭博が合法化されていないのは日本だけだという。
その中で、合法化に向けた具体的な動きも出てきている。経産省は21年に「スポーツ産業室」を設置し、サイバーエージェント、ミクシィ、楽天グループ、ソフトバンク、ディー・エヌ・エーなどのIT企業や電通、共同通信デジタルといったメディア企業などが理事企業を務める民間団体「スポーツエコシステム推進協議会」と連携。6月10日付読売新聞は、片山さつき参院議員の「日本のスポーツはすでに海外で賭けの対象となっており、国内に取り込むべきだ」との発言を紹介するなど、自民党議員ら推進派の動きを詳報している。
日本政府は12年時点で5.5兆円だったスポーツビジネス市場を25年に15兆円まで拡大させるとの目標を掲げており、その達成に不可欠なものとしてスポーツベッティングに希望を見いだす向きも多い。「ライブベッティング」と称する一つ一つのプレーを賭けの対象とするものもあり、八百長や不正行為はリスク要因として残るが、日本のスポーツに対する年間の賭け金が数兆円にも上ることを考えると、それを日本国内で管理運営できれば計り知れないスポーツ産業への恩恵が期待できるのは事実だ。
経産省はNFT・ファントークンにも注目
また、経産省は「スポーツ分野でのNFT・ファントークンの可能性」にも着目している。NFTとは仮想通貨と同様に偽造や改ざんが難しい取引情報を記録するデータベース技術「ブロックチェーン」を利用した代替不可能なデジタルデータのこと。固有の所有証明を付与して資産価値を保てることから、デジタルアート作品などで注目を集め、スポーツ関連ではオンライン上のトレーディングカードやチーム運営に参加できる権利を付与するファントークンなどに広がっている。これをスポーツ産業の新しい収益源と捉え、経産省では国内での実証実験を開始。一方で、消費者庁はランダム型販売、いわゆる「ガチャ」の射幸性について法的課題を指摘している。
そもそも、DAZNが日本に進出し、Jリーグと10年間で2100億円もの巨額契約を結んだのも、日本でのスポーツベッティング合法化を見据えた動きとして捉える関係者は多く、先述の通り、実際に「DAZN BET」という新サービスも英国でスタート。「スポーツエコシステム推進協議会」の会員企業にもDAZNは名を連ねている。ミクシィは競輪とオートレースのネット投票とライブ動画を連携させた新しいスポーツベッティングサービス「TIPSTAR(ティップスター)」をリリース。DAZNと共同でスポーツ特化型NFTマーケットプレイス「DAZN MOMENTS」の提供を開始するなど、この分野への積極投資が目立つ。
大きなお金の動きを確実に生むスポーツベッティングの合法化は、違法市場の淘汰を促す意味でも、日本国内での法整備・管理運営が必要な状況に来ているのは間違いない。これを利権や既得権益獲得の温床とせず、スポーツ産業拡大への大きなチャンスとして生かすためにも、厳しい監視の目を持って動向を注視する必要がありそうだ。
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