文=六川亨

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2017シーズンも浦和と鹿島が中心

 2017年のJ1リーグが3月25日に開幕する。3年ぶりに1シーズン制に戻ることで、過去2年のような年間勝点上位のチームが年間順位で下位になるという“逆転現象”も解消されるだけに、選手と監督はもちろん、ファン・サポーターも大歓迎していることだろう。ただし、1シーズン制になったからといって各チームの戦い方に大きな変化はないはず。まずは目の前の試合に集中して、勝点3を積み重ねていくだけだ。

 優勝争いは、2年連続でチャンピオンシップ出場権を得た浦和と、リーグと天皇杯の2冠に加え、FIFAクラブワールドカップで準優勝した鹿島の2強が軸になることが予想される。6年目を迎えるペトロヴィッチ監督が率いる浦和は円熟期を迎え、昨シーズンもリーグ戦は6敗しかしていない。他チームの追随を許さない安定感は今シーズンも健在だ。このためオフの補強でも、即戦力候補は新潟から獲得したラファエル・シルバくらい。レンタルバックの矢島慎也(岡山)、長澤和輝(千葉)、完全移籍の菊池大介(湘南)、オナイウ阿道(千葉)らはバックアッパーの層を厚くすると同時に、将来的な若返りを想定しての補強だろう。

 対する鹿島も、昨シーズンはかつての黄金時代を彷彿させる勝負強さで2冠を獲得した。そして“さすが”と思わせるのが、ピンポイントで即戦力を補強したこと。エースストライカーの金崎夢生は好不調の波が激しいだけに、前線に神戸で11得点・10アシストのペドロ・ジュニオールと、ブラジル代表歴のあるレアンドロを獲得。さらにスペインに移籍した柴崎岳のポジションには、新潟の生命線だったレオ・シルバを完全移籍で手に入れた。過去にも浦和など複数チームが獲得に乗り出しながら、新潟を離れなかったレオ・シルバを補強したのは大きい。彼と永木亮太が並ぶボランチは対戦相手を大いに悩ますことだろう。

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優勝候補のFC東京と神戸、正念場の新潟と横浜FM

 ただし、この2チームに死角がないわけではない。それはリーグ戦と並行して戦うACLによる過密日程だ。鹿島と浦和は2月18日にFUJI XEROX SUPER CUP(フジゼロックススーパーカップ)で激突し、鹿島を例に取れば中2日の2月21日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)がホームで蔚山現代(ウルサン・ヒュンダイ)あり、中3日の2月25日にはJ1リーグの開幕戦となるFC東京戦がある。さらに中2日の2月28日にはアウェイでACLのムアントン(タイ)戦がある。25日のFC東京戦後、深夜のフライトで移動するか、翌26日の移動となるが、そのときのバンコクの平均気温は35度になるものの、暑熱対策をしている暇はない。翌3月1日に帰国したとして、中2日の3月4日にはJ1リーグ第2節の甲府戦が控えている。15日間で5試合を消化するハードスケジュールだ。

 ACLに出場する鹿島、浦和、川崎、G大阪は過密日程を余儀なくされるだけに、リーグ序盤でつまずくようなことがあれば優勝争いは混とんとしてくるだろう。この4強に対し、ダークホースとして注目したいのが、大久保嘉人、太田宏介、永井謙佑、林彰洋、高萩洋次郎と即戦力5人を補強したFC東京と、同じく高橋秀人、田中順也、渡部博文、大森晃太郎に加えた神戸だ。FC東京は開幕戦で鹿島と、第3節でG大阪、第4節で川崎と対戦する。ACLに出場するチームにとって、優勝争いを占う試金石となる試合と言ってもいいだろう。

 今シーズンは、近年にしては活発な移籍があった。プラス材料のチームもあれば、逆にマイナス材料のチームもある。その筆頭が新潟だ。レオ・シルバと小林裕紀のダブルボランチに加え、右SBの松原健、CB舞行龍ジェームズ、2トップのラファエル・シルバを完全移籍で失い、野津田岳人もレンタル終了で手放した。昨シーズンのスタメン6人がごっそり抜けたことになる。このため18名もの大量補強を敢行したものの、戦力ダウンは否めない。新監督にJ3の長野から三浦文丈を迎えたが、その船出は前途洋々とは言い難く、厳しい戦いが待っているだろう。

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 大物の移籍ということなら、横浜FMから磐田に新天地を求めた中村俊輔が挙げられる。選手から批判の多いモンバエルツ監督の続投を早々と決め、ベテランの中澤祐二や栗原勇蔵に一時は大幅な年俸ダウンを提示し、GK榎本哲也にはコーチ兼任と暗に戦力外を示すなど不協和音が表面化した。その象徴が中村俊輔の移籍でもある。原因はチームが提携しているシティ・フットボール・グループ(CFG)が、チームの若返りに舵を切ったとされている。それも一因だろうが、横浜FMは伝統的にプロパーを放出する傾向がある。古くは木村和司、水沼貴史に始まり、井原正巳、松田直樹(故人)、三浦淳宏らチームに貢献した功労者に花道を用意したり、指導者として再スタートの場を作ったりすることなく放出してきた。4月8日の第6節では横浜FMがホームに磐田を迎える。きっと中村俊輔は、マリノス・サポーターから盛大な拍手で迎えられることだろう。その他にも見どころの多い今シーズンのJリーグは、今週末の2月25日が開幕となる。


六川亨

東京都板橋区生まれ。法政大学卒業後、『月刊サッカーダイジェスト』に勤務。編集長として同誌の隔週刊、週刊化に携わり、2001年に転職して『CALCIO2002』『プレミアシップマガジン』『浦和レッズマガジン』の編集長を歴任。2010年に退職後はフリーの記者として活動中。