モデル 映画 ゴルフはまだ もう少し自己紹介 〔Dispatch 02〕安達葵紬 ゴルフはじめました

あの人×この人

 自分から積極的に探すようになると、世界がいきなり広がりますよね。それまでバラバラだった、この人とあの人がそうやって繋がるんだ、とか。54-71もほんとにそうで。川口さんを知って、ライブの動画を見て、そうしたらローションまみれで不思議な動きをしながら歌っているというか、ラップしているヴォーカルの人がいて。

 佐藤ビンゴさんっておもしろいなぁと思ったら、今はウェブメディアのVICEジャパンの社長さんになっていたり(正確には、2018年に離脱している)。あと、Vaundyさんのnaporiのライブ動画に、もの凄いクールな生ドラムを叩くパフォーマンスがあるんですけど、そのドラマーのBOBOさんも、じつは54-71のメンバーだったり。

 その流れで、気になっていた『夏休みの巨匠』の劇伴も調べたんです。気持ち良かったから。そうしたら、誰が手掛けていたと思います? WONKとしてデビューする前の江崎文武さん。

カノサレ

 生まれてからずっと長崎だったので、大学では県外に出ようと決めていました。音楽でも芝居でも、きちんと向き合おうと思って自分なりに調べると、やっぱり渦の中心は東京であることが多かったので。

 東京の大学に進むつもりだと池田さん(マネジャー)に話したら、すぐ「いいね」って。受験勉強の応援でもしてくれるのかと思ったら、事務所が力を入れていた2人組のアイドルユニットからひとりが脱退するって言うんです。それが、彼女のサーブ&レシーブ(カノサレ)。

 福岡で活動していたユニットからひとりが抜けるから、次のメンバーは東京で活動できる子にして、福岡と東京の2拠点アイドルにしようと思っていたんだとか、急に言い出して。それで、私が加入することになりました。あっ、嫌々じゃないんですよ。えりちゃん(福岡担当)、おもしろいから。

 でも、今でも思っていますけど、コンセプトは酷いですよ。テニスだって言うんですけど、その名前以上の意味がほんとにない。コンセプトだって言うなら、もうちょっと何かあると思うじゃないですか。

深い意味なし

 たとえば、バレーボールをコンセプトにするなら「バレーは誰かがボールを落としたら、チームの負け。だから私たちは、メンバー同士の競争をしません。史上初めての、本当に仲の良い大人数アイドル」とか……そういう説明って言うんですか、一応は用意しておくものだと思うんですけど。

 えりちゃんに質問しても「う~ん。テニスの恰好するくらいかなあ。あと、ラケットを持って歌ったり」ぐらいで。池田さんに聞いても「テニスはさ、ユニフォームがいいんだよな」とか「イベント出るとするじゃん。そのとき、カレンダーとかスケジュールに『彼女のサーブ&レシーブ』って書いてあったら、カノサレを知らない他のアイドルとか、バンドのファンの人たちが『何これ、謎、気になる、ちょっと見てようかな』とか。けっこう食いついてくると思うんだよね」みたいな、ほんと適当なことしか言わないんです。

 それから、どれぐらい後だったかな、1年後とか、池田さんにまた同じ質問をしたら「いや、営業行くとさ、『おたくのアイドルのコンセプトは?』ってかならず聞かれるから、何かあったほうがいいと思って。だから深い意味はないんだ」って、言っていました。うん、特に意味はないと思います。

逆にアリ

 でも、それで嫌な気持ちにはならなかったですね、ほんとに。ただただ、形式としてのテニスだったので、ファンの人を騙すようなこともしなくてよかったし。ほら、ほんとはやったことないのに「テニスが好きだから」とかやっちゃって、付け焼刃の練習したり、知ったかぶって専門用語を使うのとか、やっぱり嫌じゃないですか。

 カノサレはそういうの、ないんです。ファンの人たちは、私とえりちゃんがテニスをほとんどやったことないのをよく知っていますし、私たちも隠していないし。その、テヘッて感じが、逆にアリかなと思うようになっています。

 ゴルフをやろうと思ったのは、けっこう偶然というか。中学校で事務所に入って、大学で上京して、アイドルとして活動させてもらって、実は……実は、って隠してないですけど、わたしも、もう24歳になってしまっておりまして。

 ずっと応援してくれている両親からも、「さて、お前はどうする。これからの人生については」みたいな視線がときどき投げかけられたり、そんな年頃になってしまいました。母は、長崎からしょっちゅう東京に来て、私のアパートに泊まっていくので、まあ、大丈夫かなと思っています。

 父は、やっぱりけっこう心配しているというか、寂しいのかな。父も兄も釣りが好きなんです。だから長崎に帰ったときには、私も一緒に船に乗って、釣りに行くことにしていて。でも、釣りにはあんまり興味ないんです。道具から仕掛けまでぜんぶやってもらって、竿を持って、楽しそうに釣っているふたりを見て、話をするだけ。でもなんか、それじゃあ、父のご機嫌取りをしているだけなんじゃないかと思うようになって。

ついにゴルフ

 なんか、ただその場にいるだけじゃなくて、自分もちゃんと楽しめて、同時に親孝行にもなるもの。ちょっとだけ、ずるい気持ちもあります。裏の考えというか、いまは芝居の稽古も楽しいので、まだまだ東京で頑張ることを認めてもらいたいな、って。

 釣りと並ぶ、父の人生の喜びがゴルフなんです。幼い頃はよくショップに連れていかれて、ずっと試打を見せられたり、子供用のおもちゃのクラブセットをもらった記憶もあります。でも、やらなかったですね。ダンスのほうが楽しくて。

 今は逆というか、ダンスも歌も練習して、ライブもやらせてもらって。これまで熱中してきた激しく動くスポーツじゃないもの、ゆっくり動くけど、ちゃんと身体を上手く使わないと結果が出ないスポーツに興味が出てきました。

 年とったからだとか、言わないで下さいね。だって先月ですよ。「なんか最近、ゴルフに興味が出てきて」って、池田さん(マネジャー)に軽く言ったら、いきなり大喜びしちゃって。「じゃあ、やる? アイドルの子にゴルフを教えるのが上手い先生を知ってるよ」って……それで今、ここにいます。取材が入るって聞いたのも昨日の夕方だし、大丈夫ですか?

                    *

「大丈夫です! でも今日は、靴を脱いでやりましょう」
と、ひとりの男性が現れて、厚底靴をチラ見して笑った。ウワサの先生こと、プロゴルファーの福住尚将さんだ。

Dispatch 04 につづく


安達葵紬 あだちあおぎ
1999年3月4日, 長崎県生まれ. 二人組ユニット「カノサレ」のメンバーとしての活動を中心にモデル, 舞台などで幅広く活躍している.西日本鉄道株式会社のCM「空気イス女子高生」では高い身体能力を発揮. 映画『なつやすみの巨匠』(2015), 『ファンファーレ』(2023)では, 名だたる出演者のなかにありながら独特の存在感を放っている.


福住尚将 ふくずみなおゆき
1978年、原宿生まれ。城西国際大学体育会ゴルフ部出身。大正大学大学院人間学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了。株式会社RARECREW 取締役。プロゴルファー。
13歳から自転車ロードレース競技を始め、父の影響で16歳でゴルフを始める。大学卒業後は、大学院進学の傍ら2004年ミニツアーを転戦中に、賞金欲しさにプロ転向。その後、ゴルフから離れ企業に勤めるなか、2021年にインスタントラーメンC M出演者のゴルフ監修をきっかけに、緩やかに復帰。盟友のプロゴルファー市原建彦の運営するミニツアー「F Jツアー」をマーケティングで支えながら、コースマネージメントはじめ、ゴルフにまつわる〈ステレオタイプの排除〉をテーマとしたティーチングをアマチュア向けに実践している。琉球大学国際地域創造学部ではゴルフツーリズム論(バリアフリー観光論)を担当。


VictorySportsNews編集部