師匠は経営者でプロゴルファー!? まずは靴を脱ぎましょう〔Dispatch 03〕安達葵紬 ゴルフはじめました

怪しい大人

「ゴルフのルールって簡単なんですよ。ボールを打って、ホール(穴)に入れる。打った回数が一番少ない人が優勝。基本的には、それだけ」
 福住さんが言う。
「なので、さっそくやってみましょう」。 
 今日の練習場所は、東京・神宮前のE-GOLF SCHOOL神宮である。
「わざわざ来てもらって、すみません。自分の家からすぐ近くなんですよ」
 福住さんは、原宿に生まれ育った生粋の江戸っ子だ。プロゴルファーでありながらシニアを対象にしたマーケティング企業や第3セクターで取締役を務め、琉球大学・国際地域創造学部でバリアフリー観光論を担当する非常勤講師でもある。
「肩書だけ並べると、完全に怪しい人でしょ」
 よく見れば、安達さんの顔にも困惑の色が浮かんでいる。
「でもそんなに怪しくないので、心配しないで下さい。落ち着きがなくて、いろいろやってみたくなっちゃうだけなんです」
 言うなり、椅子から立ち上がった。

アドレス

「ゴルフで大事なのは〈打ち方〉より、まずは〈立ち〉。構えですね。これを〈アドレス〉と呼びます」
 両足を肩幅よりもすこし広く開く。
 靴下だけになった安達さんも同じように立つ。
「足元から、順番に調整していきましょう。まず、まっすぐ立ちます。脚もまっすぐ。肩幅よりすこし広く開くので、厳密にはまっすぐじゃありませんけどね。左右の脚が同じ角度で、腰を通り抜けて、自分のおへそを頂点にした2等辺三角形になっているイメージです」
 さすが、長年のダンスの成果。
 スウッと立った安達さんの両足は、調整するまでもなく左右対称、シンメトリーである。
「いいですね、いいですね」
 福住さんは、とにかく褒める。
「怖い顔で直されるより、褒められながら修正していくほうが気持ちよくないですか」
 と、安達さんが心配した。
「えっ、ほんとはわたしできていないですか」
「いえいえ、ばっちりです。ほんとですよ。じゃあ、次、両足はそのまま、膝を曲げずに、上半身をゆっくり前に傾けたい」
 福住さんが手本を見せる。
「背中に定規を入れているようなイメージで、背中はなるべくまっすぐに伸ばしたまま、あと頭、というか首ですね。首を曲げずに、腰を前に傾ける」
 こちらも、すぐできた。
「あっ、でも膝が曲がっちゃうかも」
「いいんです、いいんです。軽く曲がるのは、ぜんぜん問題ないです。膝を曲げない、というのは、あくまでイメージで、完全に伸ばしていたら、突っ張っちゃって、クラブも振れないので」

並行に立つ

 安達さんと福住さんが立っている。
 肩幅よりすこし開いた両足。心なしか、膝は曲がっている。上半身は腰から折って、前傾の姿勢。首と頭は後方にそり過ぎず、前にも飛び出さず、ボディに対して、まっすぐ乗っかっているイメージ。両腕は、だらり。
「はい、オッケーです。いったん崩しましょう」
 アドレスが解けると、安達さんが汗を拭いた。
「普段とらないポーズなので、なんか緊張するというか、疲れますね」
 福住さんが、人工芝にボールを置く。
「さっき、アドレスのことを〈構え〉と言いましたが、この構えは、〈ボールに対する構え〉です。ボールに対して、いつでも同じ距離でアドレスをとる。ボールを飛ばしたい場所(コース)とアドレスをとった自分のおへそ、そしておへそからボール。この、ふたつの線が90度の直角になっていれば、ばっちりです。これに尽きますね。90度をとって、ボールに対して並行にクラブを振れば、かならずまっすぐ飛んでいきます」
 ボールを前にして、ふたりはさっきの姿勢。
「いいですね、いいですね。でも安達さん、アドレスとる前に、コースを確認しましたか?」
 安達さん、ハッとスクリーンを見た。
「そう、スクリーンに対して、自分の身体が90度になるように。ボールとおへそもまっすぐ繋がるように。いいですね、いいですね」
 ついに、福住さんがクラブを持ってきた。
「はい、アドレス崩して大丈夫です。ちょっと休憩しましょうか」

Dispatch 05 につづく


安達葵紬 あだちあおぎ
1999年3月4日, 長崎県生まれ. 二人組ユニット「カノサレ」のメンバーとしての活動を中心にモデル, 舞台などで幅広く活躍している.西日本鉄道株式会社のCM「空気イス女子高生」では高い身体能力を発揮. 映画『なつやすみの巨匠』(2015), 『ファンファーレ』(2023)では, 名だたる出演者のなかにありながら独特の存在感を放っている.


福住尚将 ふくずみなおゆき
1978年, 原宿生まれ. 城西国際大学体育会ゴルフ部出身. 大正大学大学院人間学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了. 株式会社RARECREW 取締役. プロゴルファー.
13歳から自転車ロードレース競技を始め, 父の影響で16歳でゴルフを始める. 大学卒業後は, 大学院進学の傍ら2004年ミニツアーを転戦中に, 賞金欲しさにプロ転向. その後, ゴルフから離れ企業に勤めるなか, 2021年にインスタントラーメンC M出演者のゴルフ監修をきっかけに, 緩やかに復帰. 盟友のプロゴルファー市原建彦の運営するミニツアー「F Jツアー」をマーケティングで支えながら, コースマネージメントはじめ, ゴルフにまつわる〈ステレオタイプの排除〉をテーマとしたティーチングをアマチュア向けに実践している. 琉球大学国際地域創造学部ではゴルフツーリズム論(バリアフリー観光論)を担当.


VictorySportsNews編集部