プロ注目にして今大会ナンバーワンサウスポーの呼び声が高いのが竹丸和幸投手(鷺宮製作所)。2002年2月26日生まれの23歳。広島県出身。崇徳高校から城西大学を経て昨年入社。左投げ左打ち。178cm、69kg。甲子園出場経験はない。高校時代は背番号10の控え投手。大学でも2部リーグが主戦場だった。「野球は高校で辞めるつもりだったし、プロになれないと思って野球を続けてきた」と、社会人入りした当時を振り返る。本格的に取り組んだウエートトレーニングが奏功し球速がアップ。ブレない体幹が制球力向上につながった。
ストレートのMAXは150km/h、球種は決め球のチェンジアップ、切れ味鋭いスライダー、カーブ。テイクバックが小さくショートアームに近い。球持ちが良く軸がぶれない安定感抜群のピッチングフォーム。そして最大の武器は制球力。広島の白武佳久スカウト統括部長は、「打者を見て投球している(駆け引きが出来ている)。地元出身なので楽しみ」と完成度の高いピッチングを高く評価。また東京ヤクルトの小川淳司GMは「精度が高い先発タイプ。どのボールでもストライクがとれる。今年見た左投手で一番」と即戦力としての活躍に太鼓判を押す。今大会はチーム初戦となった8月30日の対TDKに先発登板。6回を69球、2安打 被本塁打1 奪三振8で与四球0。しっかりゲームを作って先発としての役割を果たす。竹丸投手の好投が初戦突破に大きく貢献した。試合以後のインタビューで、「四球は毎試合ゼロでいきたいと思っている。制球にはこだわりがあります」と自分のストロングポイントに自信を覗かせた。2回戦は登板機会なし。ベスト8の対日本生命戦に中6日で先発した。立ち上がり、ヒットと四球で2死一、二塁のピンチを背負うと、日本生命5番の山田健太選手に先制の3ランホームランを喫してしまう。カウント1ボール2ストライクと追い込みながら悔やまれる被弾。佐藤大雅捕手はインコースを要求もストレートが真ん中に入ってしまった。出端をくじかれた格好だが、四球絡みだっただけに防ぐ手立てはあったのかもしれない。その後は立ち直り5回で降板するまでに打たれたヒットは僅かに1本と意地を見せた。ゲームは初回の3点が重くのしかかり、2-4で敗戦。試合後は、「次は優勝まで勝ちきれるようにしたい」と悔しさを滲ませながら秋の日本選手権へ気持ちを切り替えていた。
●竹丸和幸投手 第96回都市対抗野球スタッツ
2試合(先発2)0勝1敗 11回 155球 被安打5(被本塁打2)失4 自4 防御率3.27
奪三振15(奪三振率12.27)与四球2(与四球率1.64) WHIP:0.64 K/BB:7.5
●2025年公式戦のスタッツ(都市対抗含む:9月8日現在)
8試合(先8)3勝1敗 50回2/3 711球 被安打39(被本塁打2) 失10 自9
防御率1.60 奪三振47(奪三振率8.35)与四球12(与四球率2.13)WHIP:1.01 K/BB:3.9
準々決勝で竹丸投手と投げ合った日本生命の谷脇弘起投手も注目の右腕である。2001年11月25日生まれ、23歳。和歌山県出身。右投げ左打ち。185cm、88kg。和歌山県立那賀高校から立命館大学を経て2024年入社。甲子園出場なし。大学4年秋は7試合登板で3勝1敗 防御率1.54(リーグ3位)35回で奪三振30、 奪三振率7.71の好成績をマーク。同志社大学とのリーグ戦1回戦で関西大学野球連盟史上31人目32度目のノーヒットノーランを達成。プロ志望届を提出したが指名は得られず。進路を日本生命に決める。MAX152km/hのストレートと伝家の宝刀・スライダーが軸。スライダーには縦と横がある。他にカーブ、フォークと球種も豊富。ゆったりと始動に入りタメを作り、リリース時に一気に力を開放する。ストレートに伸びとキレがあり、どの球種もゾーンで勝負が出来るクオリティーの高さを誇る。2023年当時、広島の鞘師智也スカウトは代名詞のスライダーを絶賛。本人も、「スライダーは生命線なので、これは誰にも負けられない」とウイニングショットに昇華した武器に自信を深める。今大会も要所を締めるピッチングでしっかりとゲームを作り、チームの準決勝進出に貢献。惜しくも決勝進出はならなかったが、ベスト8で鷺宮製作所のエース左腕:竹丸和幸投手に投げ勝った事は大きな自信となるはずだ。
●谷脇弘起投手 第96回都市対抗野球スタッツ
2試合(先発2)1勝0敗 12回 198球 被安打11(被本塁打0) 失2 自2
防御率1.50 奪三振6(奪三振率4.50) 与四球7(与四球率5.25) WHIP:1.50 K/BB:0.86
●2025年公式戦のスタッツ(都市対抗含む:9月8日現在)
12試合(先10)5勝4敗 66回1/3 1055球 被安打62(被本塁打1) 失20自14 防御率1.90 奪三振43(奪三振率5.83) 与四球27(与四球率3.66)WHIP:1.34
K/BB:1.6
剛腕投手として注目度の高かった冨士隼斗投手(日本通運)は、初戦の対日本製鉄瀬戸内戦で登板機会なし。澤村幸明監督は試合後、「タイブレークに行けば冨士だった」と語ったようにゲーム展開がそれを許さず、3-4で1回戦敗退となった。2002年3月10日生まれ、23歳。埼玉県出身。右投げ右打ち。180cm、86kg。大宮東高校から平成国際大学を経て昨年入社。甲子園出場なし。大学では3年時には主戦となり、3年冬、4年春と大学日本代表の候補に入る。MAXは155km/hまで上がり高校時代の138km/hから17km/hのスピードアップに成功。パワーピッチャーで多少甘くともボールの勢いで打者を牛耳れるだけに、課題の制球力が改善されれば上位指名を勝ち取る可能性は高い。昨年のドラフトで弟の大和投手が埼玉西武の育成1位で指名を受け、先を越された事もプロ入りへの強いモチベーションとなっている。
●冨士隼斗投手 第96回都市対抗野球
登板機会なし
●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
5試合(先4)2勝1敗 26回1/3 381球 被安打16(被本塁打0)失6 自5
防御率1.71 奪三振20(奪三振率6.84) 与四球12(与四球率4.10) WHIP:1.06 K/BB:1.7
九谷 瑠投手(王子)
今大会優勝の王子投手陣にあって、全5試合中4試合に登板(先発2/救援2)、準々決勝からは3連投と大車輪の活躍を見せ、優勝チームの中から選ばれる最優秀選手賞「橋戸賞」を受賞した。1999年11月5日生まれ、26歳。滋賀県出身。178cm、80kg、右投げ左打ち。滋賀県立堅田高校から大阪大谷大学を経て愛知県のクラブチーム、矢場とんブースターズで3年間プレー。昼は練習、夕方から店舗スタッフとしての業務に就いた。そんな中、プロを目指すなら今年が最後と覚悟を決めて王子に移籍。セットの構えから横向きに振りかぶる独特のフォーム。テイクバックが小さいショートアームからMAX153km/hのストレート、チェンジアップ、スライダー、カットボール、カーブを駆使しゴロを打たせるグラウンドボーラー。三振も多い。年齢的にもラストチャンスに近いが、今夏の活躍がドラフト指名を引き寄せるかに注目が集まる。
●九谷瑠投手 第96回都市対抗野球スタッツ
4試合(先発2/救援2):3勝0敗 23回 369球 被安打20 被本塁打1 失5 自5
奪三振24(奪三振率9.39) 与四球4(与四球率1.57) WHIP:1.04 K/BB:6
●2025年公式戦のスタッツ(都市対抗含む:9月8日現在)
15試合(先8)6勝1敗 71回 被安打59(被本塁打3)失23 自20
防御率2.54 奪三振62(奪三振率7.86) 与四球17(与四球率2.15) WHIP:1.07 K/BB:3.6
※年齢は2025年9月8日現在
【投手篇】ドラフト戦線に生き残りを懸けて “大人の甲子園” 第96回都市対抗野球大会の戦い
東京ドームにこだまする乾いた打球音、勇壮に、華やかに繰り広げられる応援合戦、自らの未来を懸けた全力プレー。社会人野球の三大大会にしてプロ野球新人選択会議(通称ドラフト会議)へ最大のアピールにつながる都市対抗野球大会が8月28日に開幕。 前回優勝の三菱重工Eastと全国の予選を勝ち抜いた31チームが東京ドームを舞台に12日間の熱戦を繰り広げた。高校球児に負けない気迫、甲子園のアルプスと見紛うばかりの応援合戦。観る者を引き込むプレーの数々は正に“大人の甲子園”と呼ぶに相応しい。この大会で結果を残し秋のビッグイベント、ドラフト会議を迎えるべく奮闘する選手たち。勝利への執念がもたらすファインプレーが運命を切り開く。高校、大学時にプロ野球のドラフトにかからなかった者、天賦の才を磨き上げて上位指名を勝ち取るたに社会人野球の道を志した者。煌びやかな檜舞台の裏側には優勝争いとは別の、抱き続けた夢を掴むための戦いがあった。
