投手陣の活躍が強烈に印象付けられたU-18野球ワールドカップではあったが、野球は点取りゲーム、点を取らなければ勝利は得られない。OR、SRの全8試合のチーム打率は.285で本塁打は今岡拓夢選手(神村学園)が南アフリカ戦で放った1本のみと派手さはなかった。が、選手個々がしっかり後続に繋ぐことを考え実践し、結果「打線」として機能する。総得点35(4.38/1試合)の得点力はこうした意識づけが徹底していたことを物語っている。

野手篇

 ここからはマムシのようなしぶとい攻撃で覇道を突き進んできた日本代表の野手陣にスポットを当てていく。阿部葉太選手(横浜)、岡部飛雄馬選手(敦賀気比)、今岡拓夢選手(神村学園)、藤森海斗選手(明徳義塾)。プロのスカウトがそのポテンシャルを高く評価し“お眼鏡に適う”実力を備えたプレイヤーである。

 打線を引っ張ったのはOR、SPの全8試合(決勝を含めると9試合)でリードオフを務めた岡部飛雄馬選手(敦賀気比)である。 165cm、66kg。右投げ左打ち。兵庫県。名前は野球漫画「巨人の星」の主人公:星飛雄馬に由来する。少年時代は父・烈雄さんと漫画さながらの猛特訓で連日汗を流した。高校では1年春からベンチ入り。早くから素質が開花し1年秋の北信越大会から1番ショートのポジションに定着。俊足で守備範囲は広い。ハンドリングが柔らかく柔軟に打球に対応。中学時代は投手だったこともあり肩は強く送球は正確。選球眼に優れ出塁率は高い。コンパクトに振り抜き広角に打ち分けるバットコントロールがある。パンチ力も兼ね備えた好打者。SRのアメリカ戦では1-1で迎えた延長8回、満塁のチャンスに右中間を深々と破る走者一掃のタイムリー2ベースで勝利を呼び込んだ。「1番打者の仕事は塁に出てチャンスメイクする事。簡単にアウトにはなりたくない。追い込まれてもファウルで粘って投手にプレッシャーをかける。セーフティーバントで相手を揺さぶったり、あらゆることをやろうとしている」そう話す岡部選手の出塁率は.594(9試合で.559)と異次元の高さを誇る。またSRのパナマ戦では決勝のスクイズを見事に決めた。今夏甲子園では1回戦で横浜に敗れキャプテンとしても悔しさが残った。その想いを胸に南国のフィールドを縦横無尽に疾走。決勝後、最多盗塁で表彰を受けたが、「自分は守備で魅せていきたい」と社会人でショートの守備に磨きをかける事を目標に掲げた。その先のプロ入りを見据えて。

●第107回 全国高等学校野球選手権
1試合:4打数1安打(長打なし)打点0 打率:.250 三振1 四球0 盗塁0
出塁率.250 長打率.250 OPS:.500

●U-18野球ワールドカップ
9試合:25打数10安打(二塁打1)打点6 打率.400 三振2 四球8 死球1 盗塁7
犠打1 出塁率.559 長打率.440 OPS:.999

 今大会、主将に任命されたのは横浜高校の阿部葉太選手。180cm、85kg。右投げ左打ち。愛知県。小倉全由監督から直々のご指名で個性豊かな侍戦士のまとめ役となった。「甲子園優勝を狙ってきたチームの中心でやったキャプテンで、素晴らしいバッティングをしている」指揮官も全幅の信頼を寄せる。本人も「チームの中心に抜擢されている中で出来るというのは自分としてもやり甲斐があるので、こういった大舞台で活躍できるようなメンタルを付けていきたいと思う」と戦う集団としてまとめあげていく決意を大会前に語っていた。その阿部選手。ORの4試合はやや気負いがあったのか打率.182 打点1 出塁率.308 長打率.182 OPS:.490 三振4 と本来のバッティングが影を潜めていた。しかしSRに入って打棒復活。3試合で打率.500 打点2 出塁率.500 長打率.583 OPS:1.083と完全復調。頼れる主将の復活で強敵のアメリカ、パナマを延長タイブレークの末に撃破。8連勝で決勝進出に花を添えた。今夏の甲子園では横浜高校史上2回目の春夏連覇に挑んだが、準々決勝で県立岐阜商業に延長11回の末敗れ偉業は阻まれた。全試合3番に座り打率.375 4打点 4盗塁とチームを鼓舞し続けるも道半ばで聖地を去る事となった。打席ではゆったりとタイミングを取り内側から最短距離でバットが出る。スイングは速く広角に長打が打てる。50m5秒9の俊足の持ち主。スタート勘が良く盗塁でチャンスを広げる。守備範囲は広い。遠投100mの強肩でチームのピンチを救う。プロ注目の逸材も早い段階から大学進学を表明。4年後に一回り大きくなった姿で何球団の指名が集まるのか、今から楽しみな選手である。

●第107回 全国高等学校野球選手権
4試合:16打数6安打(長打なし) 打点4 打率.375 三振0 四球0 死球2 盗塁4
出塁率.444 長打率.375 OPS:.819

●U-18野球ワールドカップ
8試合:26打数8安打(二塁打1) 打点3 打率.308 三振8 四球2 死球0 盗塁2
出塁率.357 長打率.346 OPS:.703

 今大会チーム初ホームランをかっ飛ばしたのが今岡拓夢選手(神村学園)。180cm、80kg。右投げ右打ち。兵庫県。打率こそ.200とやや低めながら南アフリカ戦で放った豪快な一発はチームの活気を呼び覚まし、SRへ弾みをつける値千金弾だった。開幕日の9月5日に18歳の誕生日を迎えた。7日の決起集会ではチームメイトから祝福を受け「チームの雰囲気に馴染めた。チームに貢献するぞという気持ちでこの試合に臨みました」と手応え十分の一発を振り返った。アメリカとの決勝後、最多本塁打の表彰を受ける。大型ショートとして将来を嘱望される右の大砲。ツイストを効かせてしっかり壁を作り力強いスイングで振り切る。広角に長打が打てる。俊足で一塁到達は4.4秒前後。肩も強く遠投は90m。鹿児島県大会では5試合で打率.455 二塁打6 打点6とチームを牽引した。坂本2世(巨人)の呼び声も高い。今夏甲子園大会は2回戦の創成館戦に0-1と惜敗。試合後に「プロ一本です」と決意を語っている。

●第107回 全国高等学校野球選手権
1試合:4打数0安打 打点0 打率.000 三振0 四球0 死球0 盗塁0
出塁率.000 長打率.000 OPS:.000

●U-18野球ワールドカップ
6試合:10打数2安打(本塁打1)打点2 打率.200 三振4 四球0 死球1 盗塁0
出塁率.273 長打率.500 OPS:.773

 キャッチャー登録ながら内外野を器用にこなすユーティリティープレイヤーの藤森海斗選手(明徳義塾)。180cm、66kg。右投げ左打ち。北海道。中学から明徳義塾の門をたたく。当時は捕手。高校に入り外野(RF、CF)や一塁も守るようになる。外野の時は「飛んできたボールに素早く反応する事を心がけているが、捕手は考える事が多い。その分試合も作れるし打者の苦手な部分を探すのも楽しい」とそれぞれのポジションでやり甲斐を感じている。打席では手元までボールを呼び込んでコンパクトにバットを振り抜くスタイル。ここ一番に勝負強さを発揮するクラッチヒッター。50m 6秒0の俊足。盗塁は多くない。遠投105mの強肩は捕手や外野で威力を発揮する。今夏は高知大会決勝で高知中央に敗れ春夏連続出場ならず。最終的にプロを目指したい旨の話はしているが、現時点での表明はない。(9月15日現在)

●第107回 全国高等学校野球選手権(高知県大会)
4試合:12打数6安打(三塁打1)打点2 打率.500 三振1 四球4 死球0 盗塁2
出塁率.625 長打率.667 OPS:1.292

●U-18野球ワールドカップ
9試合:30打数7安打(二塁打1)打点4 打率.233 三振6 四球3 死球0 盗塁0
出塁率.303 長打率.267 OPS:.570

 今大会、各々が自分の持ち場で与えられた役割をしっかりとこなし、最大限のパフォーマンスで決勝までコマを進めた。決勝はアメリカに0-2と惜敗。連覇は阻まれたが、日本のレベルの高さが世界に示された形ともなった。一方で、決勝で対峙したアメリカは、ORで登板した投手10人中8人が150km/hオーバーを記録。打線はコンタクトヒッターを揃え機動力が効果的に活かされた。結果的に攻守両面で日本の良さを消す選手が選抜され、エクスタイン監督の大会に臨む意図が透けて見えた。ライバルに対する綿密なリサーチが生んだ勝利ともいえる。大会11度目の優勝を飾ったアメリカ。野球の母国。その底の深さを思い知るとともに、世界一への道のりは決して平坦ではない事も身をもって学んだ。

 戦いは終わった。自分自身の立ち位置を感じ取った若き侍戦士たち。人生の岐路を、経験値を拠り所とし、悩みながら進むべき道への答えを探し求めていく。プロへの挑戦を決めた者、更なる進化を目指し4年後の飛躍を誓った者。彼らの決断が日本の野球界に寄与する事を信じて止まない。そして更に上のカテゴリーで代表に選ばれるならば、それは即ちメジャーリーガーとの対戦を意味する。来年開催のWBC、その先にあるロサンゼルスオリンピック2028(LA28)。その前哨戦ともいうべきU-18野球ワールドカップで世界の猛者と戦った意味は大きい。国際舞台を肌感覚で実感できた強みは、間違いなく、彼らのこの先の野球人生に恵みをもたらすものとなる。この経験を糧に。夢の実現に向けてノンストップで走り続けて欲しい。

※スタッツはバーチャル高校野球、Sportsnaviの数字を参考に筆者が算出


渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)