若手女子プロとクラブが共に育つ「もうひとつの女子ゴルフ」
JLPGAツアーなどの大手ツアーとは異なり、この大会を支えているのは、クラブの理念に共感するクラブメンバーや地元企業などの“パトロン”たちだ。彼らが少額ずつ出資して賞金基金を構築し、プロ部門の出場者全員に賞金を贈っている。単なるスポンサーシップではなく、「地元とクラブが共に選手を育てる」という思想が根底にある。
朝日観光の手塚勇貴社長は語る。
「試合に出られる環境を作ることこそ、私たちができる最大の支援です。プロを目指す若手にとって、実戦経験は何よりも貴重。鎌倉女子オープンが、その第一歩を支える大会でありたいと思っています。また、クラブメンバーには他にない特別なクラブライフを提供することを大切にしています。若手選手とともにラウンドすることはメンバーの刺激にもなり、ゴルフへのモチベーションも上がるはずです」
この大会の成長を象徴する存在が、昨年の優勝者である手束雅プロだ。彼女は鎌倉女子オープンでの優勝をきっかけに自信を深め、直後のプロテストに合格。今シーズンからツアー本戦に参戦している。小さなローカルトーナメントが、選手の未来を切り開くステップになったことを証明した事例として、クラブ関係者の励みになっている。

プロとアマが交わる「合同戦」——クラブならではの競技形式
鎌倉女子オープンのもう一つの特徴が、プロアマ混合の競技形式だ。大会には女子プロ・研修生に加え、クラブメンバーやアマチュアゴルファーも多数参加。アマチュアも順位を争い表彰される。
プロ1名とアマチュア3名が基本的に同じ組でラウンドし、アマチュアはスクランブル方式(全員が打ち、最良のボール位置を選んで次を打つ)を採用。戦略性とチームワークが求められるこの形式により、アマチュアも本格的な競技の緊張感を味わうことができる。
「プロの集中力やマネジメントを間近で見られるのが魅力です。普段のラウンドとは緊張感がまったく違う」と語るのは、初出場のクラブメンバー参加者。プロにとっても、アマと共に回ることでメンタル面の成長や、試合運びの経験値を高められると好評だ。アマ・プロが互いに刺激し合う構造が、クラブ主催ならではの独自性を生んでいる。
戦略性の高いコースで繰り広げられた熱戦
大会の舞台となった鎌倉カントリークラブは、鎌倉の丘陵に広がる戦略性の高い18ホール。フェアウェイの起伏やグリーンのアンジュレーション、秋風の影響などが選手の判断力を試す。特に名物の18番ホールは厳しいセッティングの砲台グリーンで、最終局面に緊張感をもたらす。
2025年大会は、台風の影響で強風が吹き荒れる中で熱戦が繰り広げられた。
プロ部門を制したのは、愛知県出身で初出場の小島彩夏選手。15番と17番でイーグルを取り、通算6アンダーで2位タイの桑村美穂選手と薮下真衣選手に3打差をつけて逃げ切った。
「2イーグルを取れたことが優勝の要因でした!来年もまたこの大会に帰ってきたいです!」と小島選手。表彰式では、クラブメンバーが直接賞金を手渡し、会場は温かい拍手に包まれた。
アマチュア部門では、クラブメンバーの髙原さんのグループが見事優勝。プロと同伴しながらのスクランブル戦で、チームワークを活かした安定感あるプレーを披露した。

クラブが築く“持続可能な競技文化”
鎌倉女子オープンは、単なるローカルトーナメントではない。賞金総額はツアー大会に比べれば小規模だが、その裏には「女子ゴルフの未来を支えたい」というクラブと地域企業の想いがある。
大会運営費は、クラブメンバーや地元協力企業による協賛で成り立つ。賞金だけでなく、選手の練習ラウンドの開放も実施し、実務的な支援もしている。これらは「経済的に厳しい若手を継続的に支える」という理念のもとに構築されている。
朝日観光の手塚勇貴社長は「プロを夢見る若者たちが、試合に出て自分を試すことができる環境を作ることが私たちの使命。鎌倉女子オープンからツアープロが誕生した手束プロのように、ここが新しいキャリアの出発点になってほしい」と語る。
手束プロの成功例は、鎌倉女子オープンの存在意義を象徴している。地域とクラブが連携し、小さな挑戦の場を積み重ねることで、確実に“次の世代”を送り出しているのだ。
女子ゴルフの未来を、メンバーシップのゴルフ場から
鎌倉女子オープンは、メンバーシップのゴルフ場が主導する女子ゴルフ支援の新しい形を提示している。選手にとっては実力を試す舞台であり、クラブにとってはゴルフ文化を次世代へつなぐ社会的貢献の場でもある。
ツアーを目指す選手が汗を流し、アマチュアが共に戦い、クラブメンバーがそれを支える。その光景は、ゴルフが「競う」だけでなく、「支え合い」「育む」スポーツであることを思い出させる。鎌倉の静かな丘に響くショットの音は、女子ゴルフの未来を照らす確かな鼓動だ。