ウシクの新天地
1月17日に39歳の誕生日を迎えたウシク。今年もこの人を中心に展開されるのは必至だ。テレンス・クロフォード(米国)の引退により、米老舗専門誌「ザ・リング」選出の全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で1位に返り咲いた。年明け早々、海外メディアへ注目の発言があった。今後について「あと2~3試合やるつもりだ」と明言したのだ。これは以前示したプランからの変更を意味した。昨年7月、ダニエル・デュボワ(英国)を5回KOで倒した試合の前、次のように引退までの想定を語っていた。「あと2試合。今回ともう一つだ」。グローブをつるすまでの時間を引き延ばすことを今回、正式に認めた形となった。
戦績は24戦全勝(15KO)。パンチの正確性やスピードなどに衰えは見えず、歴代王者でもトップクラスとの定評がある。新たな動向として、闘いの舞台を米国に移す気配を示している。近年はサウジアラビア国営の娯楽イベント「リヤド・シーズン」の元、リヤドなどでデュボワやタイソン・フューリー(英国)ら世界チャンピオン経験者を撃破。結果的にアンソニー・ジョシュアを含め、以上の英国勢3人を2度ずつ倒したことになる。
ウシクは2019年を最後に本場、米国で試合を行っていない。巨大マーケットの広がる同国で自らの偉大さを改めて示すべく、リングに立つことを希望するのも無理はないかもしれない。本人は次戦で対戦を希望する相手に、意外にもデオンテイ・ワイルダー(米国)の名前を挙げた。世界ボクシング評議会(WBC)の元王者だが、既に40歳でピークを過ぎているとの見方が強い。ウシクは将来について次のように明かした。「いつかスポーツアカデミーを造り、そこでトレーニングしたり、他の選手を指導したりしてみたい」。有終の美へのカウントダウンがどこへ向かうのか。対戦相手とともに、闘う場所という観点でも目が離せない。
慎重さ兼ね備えるタイソン2世
一方で、新時代の旗手として熱視線を浴びているスター候補がいる。13戦全勝(11KO)のハードパンチャー、21歳のモーゼス・イタウマ(英国)だ。対戦相手のレベルにもよるが、トータルでまだ26ラウンドしか要しておらず、判定になった2試合を除いて全て2回までに決着させている。本来なら1月24日に試合を行う予定だったが、トレーニング中の負傷により3月28日に延期となった。若くして鮮烈な倒し方を披露する姿は動画などで拡散されて世界に衝撃を与え、かつてのPFP1位、マイク・タイソン(米国)を彷彿させるとの評価も出てきている。
昨年8月に闘った直近の試合も鮮烈だった。相手はディリアン・ホワイト(英国)。WBC暫定王者になったことがあるベテランを、立ち上がりからスピード、パワーのあらゆる面で圧倒。強烈な右フックを見舞って1回1分59秒で仕留めた。このサウスポーの生い立ちをたどると、ナイジェリア出身の父とスロバキア出身の母の間に生まれ、幼少期はスロバキアで育った。しかし、本人によると、同国では激しい人種差別があったという。アフリカ系のイタウマは家族で英国に移住した。兄の影響を受け、9歳で本格的に競技を開始。アマチュアで24戦全勝の成績を残し、2023年1月に18歳でプロデビューした。
既に世界ボクシング協会(WBA)と世界ボクシング機構(WBO)で1位にランクされている。ファンの間からは、できるだけ早くウシク挑戦が実現することへの期待が大きくなっている。しかし本人は冷静に語る。「まだウシクに挑む資格はないと思っているので、挑戦状をたたきつけることはない。闘うに値すると思った相手と試合をしていきたい」。慎重なステップアップを続けているが、覚えていて損はない名前だろう。理想としては何人かの実力者を退けた後、世代交代を懸けてウシク戦が組まれると、近年にないヘビー級のビッグマッチになる可能性が十分にある。
多士済々の英国勢
昨今のヘビー級は英国勢が活発で、イタウマ以外の強豪たちにも見逃せない動きがある。先述した元世界王者のフューリーがまた現役復帰を宣言した。206センチと大柄で〝ジプシーキング〟のニックネームを持ち、破天荒な言動でも知られる37歳。2024年12月にウシクに2度目の敗戦を喫した後、引退を表明していた。
約10年前の2015年11月、当時最強のウラジーミル・クリチコ(ウクライナ)に11年ぶりの黒星を付け「1強時代」を終わらせる大仕事を遂げた。ウシクに敗れるまで35戦34勝(24KO)1分けと無敗。その間、引退表明しては撤回したことが何度もあった。今回の復帰に「とてもうれしい。心はずっとボクシングの中にある」と明かしたが、サプライズ感は薄れていた。そして復帰戦を4月11日に英国で行い、ネットフリックスでライブ配信されることが判明した。相手はロシア出身で強打を誇るアルスランベク・マフムドフ。長期にわたって対戦を待望されているジョシュアではなかった。
36歳のジョシュアはここ数カ月、ジェットコースターのような時を過ごしてきた。昨年12月20日、人気ユーチューバーでもあるジェーク・ポール(米国)を6回KOとたたきのめした。元世界王者としての威厳を誇示したが、その後で悲劇に襲われた。数日後、自身のルーツのあるナイジェリアを訪問中、交通事故に巻き込まれ、コーチら親しい知人2人が亡くなった。幸い本人は軽傷で済んだが「つらい。本当につらい」とSNSに心境を吐露。将来的にフューリーと対決するとの観測もある中、ショックから立ち直ってリングに戻ってくるプロセスも焦点になってくる。
他にも、ウシクのタイトル返上によりWBO王座に就いたファビオ・ウォードリー(英国)らがいる。ウシクにイタウマ、フューリー…。地球上の至る所で、破壊力に満ちたファイトが待っている。