結実した「2チーム分の戦力」

 まずスコットランド戦で示されたのは、森保一監督がこれまで繰り返し掲げてきた「2チーム分の戦力」が、実戦でほぼ初めて機能したという事実だった。これまでの日本代表は、公式戦・親善試合にかかわらずターンオーバーを行った試合でパフォーマンスが大きく落ちる傾向があった。昨年9月のアメリカ戦のように、経験の浅い選手が多く先発した試合では組織として機能することができず、ときにチームとしての体をなさないほど良くない試合もあった。

 しかし、この試合では違った。システムは3-4-2-1で先発はGK鈴木彩艶、ウイングバックとセンターバックは菅原由勢、瀬古歩夢、渡辺剛、伊藤洋輝、前田大然、ダブルボランチに田中碧、藤田譲瑠チマ、2シャドーに鈴木唯人、佐野航大、1トップに後藤啓介。今回の2試合でチームキャプテンを任された堂安律は、スコットランド戦の後半18分から途中出場し、「これほど個が優れているスコットランドの選手、大きくて体格のある相手に、急に組まれたメンバーでこれほど組織的なチームができるのは日本人の良さ」と誇らしげに語っていた。さらに「最初に出る選手、ゲームを決める選手、ゲームをしめる選手という役割を与えられている中で、全選手が責任感を持ってプレーできた結果」と振り返るように、ピッチに立つ全員が役割を理解し、それを遂行したことが勝利につながった。

 新戦力が多く入る中で組織的に戦えたのはなぜか。その裏側には地道な積み重ねがあった。「外から見ていると退屈に見える練習でも、その重要性を全員が理解している。歩きながらでも頭を起こしてコミュニケーションを取っている」と堂安が明かしたように、日々の準備がチームの一体感を生んでいた。

 中盤で先発した藤田も、「チームメイトを動かしながらリズムを作れたのでストレスなくプレーできた」と語り、新戦力主体でも試合をコントロールできた手応えを口にした。一方で「ボールウォッチャーになった部分は修正したい」と課題も冷静に見つめており、個と組織の両面で成長途上にあることも示している。このスコットランド戦の意義は大きい。

 W杯において日本はこれまで「第2戦」に勝てていない。2022カタールW杯でも森保ジャパンはターンオーバーを行った第2戦で勝利を逃した。しかし今回の内容を見る限り、次の本大会ではローテーションを行いながら勝ち点を積み上げる現実的な可能性が見えてきたと言える。

確かな収穫と「世界一」への課題

 そしてイングランド戦。この試合は、スコットランド戦とは対照的に「ベストメンバーの最大値」を示した一戦だった。先発はGK鈴木彩艶、ウイングバックとセンターバックは堂安、渡邊、谷口、伊藤、中村敬斗、ダブルボランチに鎌田大地と佐野海舟、2シャドーに伊東純也と三笘薫、1トップに上田綺世という布陣。完全アウェー、約8万人を集めたウェンブリー・スタジアムという舞台で、日本は歴史的勝利を収めた。

 三笘は「最初の10分、20分は相手の迫力もあって難しい展開になるのは想定していた」と振り返りながら、「そこを乗り切ればチャンスは来ると思っていた」と試合のプランを明かす。そして「少ない人数でも決められる力を見せられた」と語るように、限られたチャンスを確実に仕留めた決定力は特筆すべきものだった。

 得点シーンについても「(上田)綺世のスプリントで中盤が遅れたところに、(中村)敬斗が見えていた」と語り、個のひらめきだけでなく、連動した動きが結実したゴールだったことを強調している。

 さらに重要なのは、三笘自身の変化だ。無双の切れ味で臨んだカタールW杯では左ウイングバックで起用されたことで守備の比重が多く、ファンの中からは「もったいない」という声が聞かれたほど。大活躍した半面、その才能を十分に生かし切れなかった部分もあったが、今回はシャドーとして結果を残した。三笘自身、「高い位置でプレーできる分、強みを出せる」と語る通り、4年前からの進化を強く印象づけた。

 一方で、三笘は「ボールを握られたし、そのギャップは埋めないと本大会で痛い目に遭う」と課題にも言及しており、この勝利に慢心はない。

 チーム全体を総括した森保一監督も、「選手が戦術を真摯に実践するだけでなく、ピッチ上でコミュニケーションを取って修正できたこと」を成果として挙げた。さらに「誰が出ても最大値を発揮できるエネルギーを作れた」と語り、スコットランド戦で見せた層の厚さと、イングランド戦で見せた最大出力の高さが両立しつつあることを強調した。

 守備面では2試合無失点という結果を得た一方、「ピンチは多く、さらに減らす必要がある」と課題も明確だ。攻撃でも「2点目を取り切る力」が求められるなど、世界一を目指す上での課題も浮き彫りになった。

 それでも、この遠征がもたらした収穫は計り知れない。2チーム分の戦力が機能し、ベストメンバーはどの国にも勝てる可能性があることを示した。そしてゴールマウスには、確かな成長を遂げた鈴木彩艶が君臨する。層の厚さと瞬発力。その両輪がかみ合い始めた森保ジャパンは、これまで越えられなかった「W杯第2戦」の壁を乗り越え、確実にグループリーグを突破することと、さらにその1つ、2つ、3つと先へ進むことの現実味をイギリスの地で示した。


矢内由美子

著者プロフィール 矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。