3人での兄弟ならではの思い出話を披露したり、歩夢さんが直前に大怪我を負って臨んだミラノ・コルティナオリンピックまでを描いた『平野歩夢公式ドキュメンタリー「AYUMU」特別編♯2』を約15分上映し、当時を振り返った。3人のやり取りからは随所に兄弟愛が溢れる言葉が散りばめられていて、集まったファンたちが濃密な時間を楽しんだ。
歩夢さん「久しぶりにリラックス」
ミラノ・コルティナオリンピックが終了してから2カ月。司会者に呼ばれて舞台に兄弟と共に登場した平野歩夢さんは、プレッシャーから解放されたからか、どこかリラックスした表情だった。ちょうど前日まで、海祝さんと一緒にスノーボードの撮影で北海道に滞在していたという。步夢さんは「久しぶりに大会のこととかを気にせずに、懐かしい人達や仲間がいる場で気を抜いて滑りました。リラックスして息抜きになった」と話した。
また、海祝さんはそれまでの長かった髪をバッサリ切って坊主頭での登場に観客を驚かせた。その理由について「年越ししたタイミングでオリンピックがかかっていた大会があったんですけど、挑戦する前に、負けたら頭丸めようと思っていたら負けてしまった」と苦笑いしながら明かした。
冒頭15分は、3人の子供時代の思い出話をした。平野兄弟がスケートボードやスノーボードを始めたきっかけや兄弟げんかの話などを披露し、観客をホッコリさせた。英樹さんと歩夢さんは友達を巻き込んで「宇宙一決定戦」と称して度々競い合ったことを懐かしそうに振り返っていた。
そして、ドキュメンタリー「AYUMU」の上映が行われ、平野三兄弟も最前列に座り、観客と共に自身の映像を鑑賞した。
オリンピック直前の大怪我、本番にたどり着いた不屈の姿
平野歩夢さんが現地時間1月17日にスイスのラークスで開催されたワールドカップ大会で、大技に挑戦し大怪我する瞬間の映像が生々しく放映され、鼻から血を流した步夢さんの姿や、その直後に海祝さんに見せた表情など、それまでのニュース映像などから知り得なかった裏側が流され、見るものの心がぎゅっと締め付けられる様なシーンが流れた。
さらにそこからオリンピックに向けて再び立ち上がって練習に臨んでいく姿、本番に臨んでいったところまでがスクリーンで流され、步夢さんがミラノ・コルティナオリンピックの舞台に立った事自体が奇跡だということを、ドキュメンタリーを通じて改めて知らしめた。
約15分の上映後、再び3人が登壇し当時を振り返った。そのタイミングで步夢さんの隣にはワールドカップで使っていたスノーボードが置かれた。
実際に大会で使用したスノーボードを見ながらコメントする平野歩夢さん「思い出したくないくらいハードにやられている板なんで、思い出深い・・・。(板が折れてるの気づいたのは)転倒してから、下にはなんとか自力で戻った時に視界にうつっていた。板に少しは守れていたのかな。(転倒して頭から落ちてぶつけたのは)鼻だったんですけど、頭とかも強く打ってもおかしくなかったので、板にサポートされてあの怪我だったのかな」
步夢さんはしみじみ振り返った。その瞬間を間近で目撃し、直後に言葉もかわしていた海祝さんは当時をこう振り返った。
「(転倒直後に再び戻ろうとする步夢さんに)行かないでくれという気持ちがあった。自分もプレイヤーとしてあの大会に出ていたので、回転している時にどういう気持ちなのか全て理解できたので、相当怖かっただろうなって自分も胸が痛くなった」
英樹さんも「(日本にいた)僕は映像を見ていなくて、最初は父親と母親から聞いた。めちゃくちゃ怖いし心配だった。アスリートは怪我で一瞬にしてオリンピックがなくなってしまう。本当に命をかけてがんばっているんだなって、さっきの映像を見て感動しました」としみじみと語った。
步夢さんは大転倒で尾骨と骨盤を骨折した。オリンピックでの本番、スノーボード男子ハーフパイプは予選が2月12日に迫っている。その当時の心境について聞かれた步夢さんは、「その期間内で骨折を治した経験はなかった。1箇所の怪我は過去にもあったんですけど、3箇所ぐらい負傷していた。自分の中では直前にピークをしっかり持っていって、オリンピックに臨む理想はあったが崩れてしまい、ひたすらベッドで休んで回復を待つのみ。頭の中では不安が止まらない濃い時間で、今までの中で強い日々でした」と話した。
兄弟ならではの心遣い
心配でたまらないが、英樹さんも海祝さんも歩夢さんに連絡を取らなかった。
「それはしたい気持ちがあるけど、どうだろうといろんな考えがあった。歩夢の怪我の状況とオリンピックの短いスパンで考えていることの深さとかって、人が関与できるようなところをもうとうに越しているような部分が結構あったと思う。自分が一言かけるっていうよりは、もう今は集中してもらって現地で会うような形がいいのかなと」(英樹さん)
「自分もほぼ連絡は取っていなくて、第三者から(状況や状態の)話を聞くような感じだったんですけど、それこそ兄ちゃん(英樹さん)の言った通り、自分たちがどうにかできるようなものではない。あれだけ練習を積み重ねて挑んだ試合であれだけの怪我をして、また練習に戻っていって、考えても考えきれないほどいろんな感情があって、多分本人はもういっぱいいっぱいなことも自分は分かっていたから、自分たちがごちゃごちゃ言うことも変にストレスになるかなと思って、そっとしておいたような感じでもありました」(海祝さん)
2人の心遣いを步夢さんは感じていたという。
「自分のことしか考えられない状況を察して、兄弟だったりとか家族だったり身近な人ほどあえて距離を取ってくれていた。その気持ちは伝わっていた。早く復活することだったり、オリンピックで返したい気持ちみたいなのは、日に日に強まっていったり、やっぱり間に合わないなと思う部分だったりを繰り返して、受け入れて進むしかないようなところはあった。オリンピックが始まる3日前ぐらいに、やっと今自分にとってできることは何なのかっていうのを、真剣に考えられる状況にたどり着いた。それまでは本当にお先真っ暗で、考えてどうにかなる問題でもなかったり、気持ちとか気合いでは進めないような、ただ待つことでしか自分が回復しないみたいな…。でも、やっぱり時間がないみたいな、結構そこはつらい気持ちを受け入れるしかないような日々がずっと続いていた。いろんなことを本当に考えて過ごす日々は多かったですね」
そういったこれまでにない大きな壁を乗り越えて、オリンピックの舞台にたどり着いた。トップアスリートですら大会出場を諦めてもおかしくない中、歩夢さんは不屈の魂を示した。そして、ミラノ・コルティナオリンピックでは7位入賞を果たした。本番直前に大怪我をしたにもかかわらず。
誰もが気になる今後
濃密なイベントが約1時間で終わり、終了後の囲み取材の場で、步夢さんは改めて2カ月前の心境を振り返った。
「オリンピックでピークに持っていくために、4年間自分自身と向き合って積み上げたものがあったので、直前2週間前で、ここで怪我はできないなという強い気持ちはあったんですけど、まさかここでという感じでした。2週間しかなく最後の調整が出来ない中で、本当に出るか出られないかのギリギリの可能性にかけて臨んだ。今までのオリンピックとは全然違う、自分の中での舞台だったのかな。最終的には、怪我してもっと酷い状態になってもおかしくない様な中で、自分がパフォーマンスをしないといけない状態で、無事に生きて戻ってこられた。それが結果よりも大事な状況だったのかな。今までの中でも、記憶に残るような体験だったなと改めて思いますね」
そして誰もが関心を寄せる步夢さんの今後だ。既にオリンピックは冬季で4大会、夏も1大会に出場し、金メダルも既に取っている。トップコンペティションからの引退を考えてもおかしくない。その点について問われると、步夢さんは言葉を選びながら話した。
「現時点では、道はスノーボードやオリンピックだけじゃない。これからどう成長して、さらに新しく強くなるか、成長していけるのかに重きを置いていく。今後について、これからゆっくりする時間も取れると思うので、そこで整理をつけて、またオリンピックを目指すのか、そうじゃない自分がやってきてないことに挑戦していくのも自分の成長だと思うし、時間をかけて、自分がやると決めた以上は、やらないといけない道のりになるので、改めてゆっくり整理してこれから進んでいければと思う」
今後に向けた思いを口にする平野歩夢さん 新しい挑戦について問われると、その挑戦がスノーボードに限らないという考えも示した。
「オリンピックの4年という時間は長い。15歳ぐらいから経験して、19歳、22歳ってスケートボードでのオリンピックも踏まえて、今思っていたということよりは常に自分が強くなれる瞬間というのを目指したというのがあった。今回のオリンピックがきっかけという意図は全くない。今回経験して思うことはあって、多少は新たなチャレンジ(という考え)にはつながっている。4年刻みで自分が変化していけたように、また新たなチャレンジがスノボー以外にあるかなとは思っていますし、人生はここから自分の場合は長いと思うので、そういった部分も考えて今後の活動というか、やっていきたいことを決めていけたら…」
そこには競技の発展や普及に貢献したい思いがある。
「スノーボードだったりスケートボードでも、(日本では)これからもっと盛り上がっていく競技だと思う。これからの子供達に伝えられることが、こういったイベントに参加するのも1つだったり、一緒に練習を教えてあげる機会だったり、これからも僕たちがきっかけになるようなことを続けられたらと思います。これからは自分の選手としてもやれる時間も限られてくるのかなと思うので、そういう時間が増えてくるのかな」
今回のトークイベント、ドキュメンタリーを通じて、平野歩夢というアスリートの偉大さ、平野三兄弟の絆の強さが伝わった。