元人気横綱も絶賛
幕下以下でもいきなり紹介したくなるほど、関心を呼ぶ新弟子がいる。昨年の全日本選手権2位で、幕下最下位格付け出しでデビューする22歳の大森=本名・大森康弘、石川県出身、追手風部屋=がその人だ。初めて映像を見て鮮烈な印象を受けたのが5年前の元日。東京都立川市の立川ステージガーデンで行われた全国高校選手権だった。新型コロナウイルスの影響で前年の2020年に全国大会が開催されなかった代替で、同年度の高校日本一を決める場として実施された異例の試合だった。
大森はまず、体つきから目を引いた。この大会を制した落合哲也(現幕内伯乃富士)のように、固太りで馬力を武器とする選手が多い中、金沢学院高(現金沢学院大付高)2年の大森は185センチ、105キロで肩の盛り上がりが目立つ筋肉質の体。小学1年で相撲を始め、中学時代は野球に打ち込んでいた。精かんな顔つきで勝ち進んで3位と健闘する姿に、解説を務めていた第66代横綱若乃花の花田虎上氏は思わず次のように口にした。「プロに入ったらすごい人気ですよ」と絶賛した。
好角家の間からは高校卒業後の角界入りを待ち望む声が聞かれた。金沢学院大に進んでからは体がパワーアップし、さらに成績を伸ばした。3年時に国民スポーツ大会で団体、個人の2冠。昨年11月の全日本選手権では惜しくも決勝で敗れたものの、幕下最下位格付け出しの資格を得た。今年3月の入門会見では次のように意欲を語った。「目標は横綱とやり合うことです。2年以内に幕内に上がって活躍したいです」。花田氏の言葉が現実になる日は遠くないだろう。
横綱北の湖の見立て
足腰に粘りがあり、スピードあふれる取り口でアマチュア時代は組んで良し、離れて良しだった。新弟子検査時の体格は185センチ、120キロ。現代の相撲界ではまだ細身だけに、反対に伸びしろは大きい。加えて、その骨格からも豊かな将来性を感じさせる。特にがっちりとした両肩は魅力的だ。
相撲を取る上で肩幅の大切さをことさら説いていた元横綱がいた。優勝24回を誇り〝憎らしいほど強い〟と形容された日本相撲協会の北の湖元理事長。2015年に亡くなったが、生前、強くなりそうな力士の見分け方として、よく次のように条件を説明していた。「広い肩幅と長過ぎない足」。足の長さは重心の低さとの関連に行き当たる。それでは肩幅はどう関係するのか。北の湖元理事長は実体験を基にこう解説した。「組んだときに肩幅の広い人にぐっと差されると、こっちの体が浮いてきちゃう。俺の時は輪島さんがそうだったなあ」と懐かしそうだった。
輪島と言えば優勝14回の元横綱で、北の湖の好敵手だった。毎場所のように千秋楽結びの一番で対戦し〝輪湖時代〟を築いて角界を盛り上げた。右から絞りながらの強烈な左下手投げは輪島の代名詞で、北の湖も随分苦しめられた。相撲協会のホームページによると、輪島の体格は185センチ、125キロ。今の大森とさほど変わらない。本人は筋骨隆々だった横綱千代の富士の相撲を研究しているというが、肩の辺りはやや輪島を想起させる部分がある。くしくも輪島は石川県出身の大先輩。また、穴水町出身という点では多大な人気を博し、現在は追手風部屋付きの北陣親方(元小結遠藤)と同郷と、連綿とつながる地域性も話題になりそうだ。
ハイレベル優勝の鍵
幕内優勝争いに視点を移すと、今場所も混戦が予想される。熾烈な賜杯レースは伏兵も出てきて面白い一方、優勝力士にはその場所で最強との称号にふさわしい成績が望まれる。現在、昨年九州場所から3場所続けて優勝者が12勝3敗にとどまっている。優勝45回と圧倒的な数字を残した白鵬が2021年秋場所後に引退して以降、近年では豊昇龍や大の里が横綱に上がったものの、絶対的に強い存在は影を潜める。
ちなみに15戦全勝となれば2021年九州場所の横綱照ノ富士(現伊勢ケ浜親方)が直近で、4年余り途絶えている。これは1996年秋場所で横綱貴乃花が果たした後、2004年初場所で横綱朝青龍が達成するまでの7年余りのブランク以来となる長さ。現状では全勝はなかなか難しそうだが、夏場所は優勝ラインも気になる。
14勝以上といったハイレベルな数字を期待され、同時にその重責を担っているのが横綱。中でも豊昇龍は最高位としての初優勝がお預け状態だ。春場所後の巡業では、左肩負傷を抱えて離脱した横綱大の里とは対照的に、最後まで引っ張った。場所前は出稽古などで精力的に調整。しかし、これまでも場所に入ると強引な投げなどで墓穴を掘って星を落とすことが散見されてきた。改善への鍵について、八角理事長(元横綱北勝海)は次のように指摘していた。「横綱としての覚悟みたいなものが足りない気がする。こっち(横綱)は負けが続いたら引退しなきゃいけないんだから。もっと強気でいかないといけない」と精神面に触れた。豊昇龍の1場所最多は13勝。昇進8場所目の夏場所で横綱として一皮むければ、新たな高みへの第一歩を記せる。