勝って泣き、負けて泣きの寺地。今回はもちろん、うれし涙だ。メキシカンから2度のダウンを奪って12回を戦い抜き、文句なしの勝利を得た。「うれしいのと、ほっとしているのと……」
“アメージング・ボーイ”と異名をとるベビーフェイスの寺地も34歳になった。プロデビューからちょうど12年になる。
この間、最初の階級(ライトフライ級)では通算12度の防衛を果たし、WBC(世界ボクシング評議会)とWBA(世界ボクシング協会)のタイトルを統一。フライ級でもやはり2団体(WBC、WBA)の統一チャンピオンに輝いた。矢吹正道(緑)や京口紘人(ワタナベ)、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)などの日本人トップファイターとのライバル対決をいずれも勝ち上がっての勲章だ(矢吹とは1勝1敗)。
どん底の1年を乗り越えて
しかしこの1年は寺地にとって最もつらい時期だったかもしれない。昨年7月、リカルド・サンドバル(アメリカ)に12回判定負けを喫し、フライ級のベルトを2本一気に喪失した。再起を誓った寺地は年末にサウジアラビアで1階級上げてIBF(国際ボクシング連盟)スーパーフライ級王者ウィリバルド・ガルシア(メキシコ)に挑むはずだったが、これは計量も終えて本番を待つのみとなった時点で相手のガルシアが急病を訴え、試合が中止となったのである。サウジアラビアの試合会場で、同じイベントに出場する日本人ボクサーたちがリングに上がるなか、寺地は涙にくれた。
あれから7ヵ月、サンドバル戦からはちょうど1年になるこの時点で、ようやく訪れた舞台だったのだ。
実力、実績十分の元チャンピオンでも、新階級初戦は不安がつきものである。寺地の場合は、近年激闘型のイメージが定着しているだけになおさらだった。相手のゴンサレスは32勝12KO5敗2分。ジェシー・ロドリゲス(アメリカ)、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)などのスーパー王者に挑み、判定まで持ち込んだ粘り強い選手だ。左右フックの回転力が武器のゴンサレスと寺地が打ち合うようだと、パワー負けして劣勢に立たされるのではないかという予想はもっともだった。しかもゴンサレスは今回が5度目の世界挑戦で、念願のタイトル奪取にかける思いも並々ならぬものがあった。
いつものように『北斗の拳』のテーマソングに乗って入場した寺地は序盤から、持ち味の左ジャブで試合を組み立てた。2ラウンドには右クロスをゴンサレスの側頭部に打ち込んで、技ありのダウンを奪う。
上々のスタートを切った寺地に対し、ゴンサレスが中盤、攻撃のギアを上げて迫る。ナチュラルなパワーを感じさせるパンチが寺地を襲った。しかし、この日の寺地はかつてのように左ジャブをうまく使って不要な被弾を極力避けつつ、鋭く強い右ストレートを随所に決めた。迎えた12ラウンドには、きれいにワンツーをヒットしてゴンサレスを再びダウンさせた。
最終的なスコアは117−109、116−110、115−111。見事な寺地の勝利だった。
終わりなきチャレンジャー
驚くべきは、勝ったリング上ですぐさま次の目標を掲げたことだ。「3階級で2団体統一をした選手はいないらしいので、僕が日本人初の3階級2団体統一王者になってみせます」と。大きな仕事を成し遂げたばかりのベテランは、若々しく新しいチャレンジを口にして、ファンの喝さいを浴びた。自身のボクシングキャリアが「最終章」に差し掛かっていることを認める寺地だが、この戦うモチベーションがより名チャンピオンの最終章を輝かせるに違いない。
「負けてから次の試合が流れて、本当にどん底に落ちました。でも人間はどん底に落ちれば落ちるほど、上がった時の景色はすごく気持ちがいい。皆も心折れないで頑張っていきましょう。僕も負けずに頑張りますので、皆さんも一緒に頑張っていきましょう」
いつもニコニコとしてマイペースの“アメージング・ボーイ”も、さまざまな経験をしてこんなメッセージを伝えるようになった。