◇ ◇ ◇
 マサ、本当にお疲れ様。僕らは同学年だし「頑張ったね」とか「よくやった」って言うのは違う気がする。同世代がみんな引退していく中で、最後まで残って現役を続けたマサには「ありがとう」っていう気持ちの方が強いな。僕らが引退しても頑張っているマサを見て、あらためて野球を見る楽しさを感じたし、その姿にこちらも刺激を受けていたので「ありがとう」と「お疲れ様」だね。

 僕らは同学年だけど、僕は高卒でヤクルトに入ったから、マサが青学大から入ってきた時はもう5年目。最初の印象は、物腰がすごく柔らかくて、ただただ感じのいい兄ちゃんみたいな感じだった(笑)。ピッチャーとしてはとにかくコントロールが良くて、すごく細やかで繊細。ピッチャーとしてイメージする抑え方が僕とは全く違っていて、自分の持っている球種をどう使って、どういうゴロの打たせ方をするかとか、どうやって空振りを取るとかっていうのをすごく考えていたよね。

 今でも印象に残っているのが、巨人の清原和博さんと対戦する時にマサが「サードゴロを打たせたい」って言っていたこと。たとえば僕なら空振りを取って三振とか、詰まらせるとかそういう抑え方をしたい。だけどマサの場合は、最後に決め球のシンカーで打ち取りたい。だからそこまでのプロセスをどうするか。最後に打ち損じを誘うための配球とかボールの見せ方とか、そういうのが常に頭の中にあったんだな。引退会見でも「プロ野球は無差別級」と言っていたけど、その中で対等に戦うためにはどうすればいいのかというところを常に考えてきたピッチャーだし「まともにやったら敵わない。でもやり方しだいで勝つ方法はあるんだ」というのをひたすら考えていたんだと思う。

 先日の引退会見では「40歳を過ぎて、毎試合『今日が最後のゲームなんじゃないか』と思いながらマウンドに上がっていました」という話もしていたけど、若い頃から1試合1試合にかける思いは本当に強かったよね。試合が終わった後、遠征先のホテルのトイレで吐きそうになっている姿をよく見かけた。試合前なら分かるけど、試合が終わって緊張感がほどけた後にそんなふうになっちゃう人って僕は初めて見たからね。プレッシャーとかストレスの感じ方って人それぞれ違うんだけど、マサの場合は他の人ではなかなか感じることのないレベルで感じながらやっているんだなって思っていたよ。

 マサとは僕がヤクルトからメジャーに行くまでの8年(2002~09年)と、ソフトバンクからヤクルトに復帰して引退するまで2年(2019~20年)一緒にプレーして、思い出は書ききれないぐらいある。よく言われるのが、マサがプロ初登板で初勝利を挙げた時(2002年4月4日広島戦)のこと。僕がその試合で7回途中からマサをリリーフしてセーブを記録したっていうんだけど、マサも僕も覚えてなかった。まあ、そんなもんだよ(笑)

 今、思い返してみて一番思い出に残っているのは、マサとのキャッチボール。すごく綺麗なボールを投げるし、すごく綺麗なキャッチングをしてくれるのでめちゃくちゃ楽しかったな。綺麗なフォームで綺麗なボール、しかもコントロールがいいから捕りやすい。マサの投げるボールが僕のグローブに吸い込まれるように入ってくるのがすごく気持ち良かった。しかも1球1球にメッセージがあって、キャッチボールをしていても「ボールってこうやって投げるんだ」とか「こうやってコントロールするんだよ」みたいな感じを受けるんだよね。マサ自身もたぶんボールと会話をしながら投げていたように思うんだけど、捕っている方にも丁寧さとか大切さとかがすごく伝わってくるキャッチボールでした。

 マサとは家族ぐるみの付き合いというか、お互いの家族同士も仲が良いんだよね。石川家におけるマサは、奥さんがしっかりしているからか「可愛いおじさん」(笑)。これは僕もそうで、自分の妻がしっかりしているっていうのも変だけど、うちの妻も芯が強い女性なんです。そこはお互い共通しているというか、マサは物腰がソフトで控えめな男だけど、そんな旦那さんをいい意味で尻を叩くというか「ちゃんと頑張って」みたいな感じで言えるパートナーがいたからこそ、マサもここまで頑張れたんじゃないかな。

 僕は41歳で引退したんだけど、40を過ぎたらみんな常に引退を意識しながらやっていくという中で、たぶんマサも勝てなくなったり、結果が出せなくなったら……っていう覚悟は、ここ数年あったと思う。実際、オフに話した時も「もちろん今年も頑張るし、チームのためにっていう気持ちもあるけど、結果が出なかったらそのつもりではいる」という話はしていたよね。ただ今回、引退を自分で決めたっていうのは驚いた。野球が大好きだし、できれば続けたいという気持ちの方が絶対強かったと思うから。記者会見での表情は晴れやかといえば晴れやかに見えたけど、野球が人生そのもののような生活をしてきた男だから、自分の中から大事なものが1つなくなってしまうみたいな寂しさは確実にあるんじゃないかな。

 通算成績は188勝194敗か……。いや、素晴らしい。球団史上3位でしょ? もう大エースですよ。しかも神宮という、あの狭い球場でやり続けてこの成績を残したのがすごい。でも僕が思う石川雅規の本当にすごいところは、手術もしないで毎年のようにマウンドに上がり続けて、しっかりローテーションを守って、長い間戦ってきたこと。マサも自分で「無差別級」って言っていたけど、あの小さな体でシーズンを乗り切ることも大変だし、ケガもしなかったわけじゃないけど、大きなケガはしなかった。どこか痛いとか苦しいとかもちろんあったと思うけど、それでもマウンドに立ち続ける強さ。体が大きくても難しいことを、あの体でやったっていうところはすごいよ。

 これまでは自分を追い込んで追い込んで、いろんなことに耐えながらやり続けた野球人生だったと思う。だからマサにはまずはゆっくり休んで、今までになかった家族の時間とか、ゆっくりとした時間、野球選手では味わえない時間を楽しんでもらいたいな。でもめちゃくちゃ練習をする男だから、まだちょっと余韻が残ってるからやっちゃうと思うんだよな。「やることないから練習しちゃったよ、亮ちゃん」とか言いそうな気がする(笑)。でも、もうケガをしないようにとか、そういうことを気にする必要はないと思うし、ストレスから解放されることは間違いない。そこを楽しんでもらいたい。

 正直、これからはマサが選んだ道を行ってもらいたいと思っているから、今はたとえばコーチをやっている姿を見たいとかとは思わない。マサはいろんな人から相談されるというか頼られるタイプで、周りの人みんなに愛されて、マサのことを嫌いな人はいないと思う。ただ、僕からするとあまりにも人が良すぎてしんどくないのかなって思うくらい、いろんな人に合わせてきたと思うし、これからは周りに左右されない、自分で選んだ人生を選んでもらいたいな。でも、もしまたユニフォームを着ることがあれば、その時は全力で応援するよ。25年間、本当にお疲れさまでした。そしてありがとう!

聞き手:菊田康彦


菊田康彦

著者プロフィール 菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。