プレミアリーグでのデビューとなった第2節のアーセナル戦。物怖じすることなく、堂々としたプレーを「サッカーの母国」のファンにさっそく披露した。目を見張ったのは、そのキックの多彩さだ。プレミアリーグ特有の猛烈な前線からのプレスに対しても、慌てることはない。相手の寄せを十分に引きつけ、そこから味方へと的確につなぐ。前線のフリーの選手へ通すパントキックや、素早く展開する精度の高いフィードは、現地メディアから「最後尾に位置するゲームメーカー」と賞賛されるほどだ。鈴木彩艶がボールを持つことで、チーム全体で攻撃の第一歩となるスイッチが入る。
相手のペナルティーエリア付近まで届くキック力、ライナー性の鋭いボール、選手の間をすり抜けていく低い弾道のパス、バックスピンをかけることで相手を欺く軌道…。単純な技術力だけではない。局面を理解し、試合の展開によって必要なプレーを選択する判断力を持ち合わせているからこそ、なせる芸当といえる。
190センチ、100キロという恵まれた体格も大きな武器となっている。ペナルティーエリア内のフィジカルコンタクトが激しいプレミアリーグでも、CKやFKでのゴール前での存在感は十分。昨季のアーセナルに象徴されるように、バスケットボールのスクリーンアウトのように相手の動きを封じるようなせめぎ合いが繰り広げられるが、持ち前のフィジカルとリーチの長さを生かして制空権を握る。クロスボールに対する出足の早さと判断の正確さは、2024年のアジア・カップのころのような不安定さがすっかり薄れている。
ミドルレンジからの強力なシュートに対するセービングも光る。キャッチできないとみるや、的確な位置へとはじく瞬時の判断が際立つ。こぼれ球を狙ってくるストライカーにみすみすボールをプレゼントしない。細かなプレーではあるが、失点を減らすための大きな要素といえる。経験がものをいうポジションながら、24歳にして既に風格が漂っている。
2026年、北中米の地で開催されたワールドカップで、1次リーグから決勝トーナメント1回戦のブラジル戦まで、鈴木彩艶は日本を支えた。初戦のオランダ戦の開始3分、マレンのペナルティーエリア内からの強烈なシュートへの好反応は、その後の日本のW杯での行方を左右したといってもいいほどの勇気をチームに与えた。
1次リーグ最終戦のスウェーデン戦でも至近距離からのシュートを幾度となくかき出し、日本の1次リーグ2位突破に大きく貢献。惜敗したブラジル戦でも、ビニシウス(レアル・マドリード)のシュートを左で触って防ぐなど、「サッカー王国」との激闘においてピッチ上で持てる力を存分に発揮した。
躍動したワールドカップを終え、鈴木彩艶はパルマからのステップアップが取りざたされるようになる。中でも大きく取り上げられたのは、欧州チャンピオンズリーグ(CL)2連覇中の強豪パリ・サンジェルマン(フランス)への移籍だ。「口頭合意」まで達し、パリ・サンジェルマンが鈴木彩艶のためにプライベートジェットまで用意したと報じられたが、事態は急転して破談。その後、イングランドの古豪であるアストンビラ入りが決まった。移籍金は出来高を含めて最大3500万ユーロ(約65億円)と報じられ、これは日本人GKとしては歴代最高額という画期的な移籍となった。
アストンビラは昨季の欧州リーグ(欧州チャンピオンズリーグに次ぐ格付けの大会)を制し、プレミアリーグで4位。今季は欧州チャンピオンズリーグにも出場している。アーセナル、マンチェスター・シティー、リバプール、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシーといったプレミアリーグのビッグクラブに準じる立ち位置のクラブといえるだろう。
9月8日にはクラブ・ブリュージュ(ベルギー)戦にフル出場し、日本人GKとして欧州チャンピオンズリーグ初出場を果たした(試合は3―2で勝利)。プレミアリーグの公式SNSが鈴木彩艶のキックを取り上げるなど、プレー自体への評価は上々だ。ワールドカップの前から鈴木彩艶の獲得について検討していたというアストンビラのウナイ・エメリ監督。「彼はゴール前のスペースを支配することができる。そして何より足元の技術によって、長短のパスを使い分けることができる」という期待に十分に応えるシーズン序盤を過ごしている。
森保一監督が続投し、9~10月に国内で4試合を戦う日本代表にも順当に選出された。王座奪還を目指す年明けのアジア・カップや、4年後のワールドカップに向けて再出発するチームにおいて、プレミアリーグで新たな挑戦をスタートさせた鈴木彩艶のプレーは大きな注目ポイントといえそうだ。
アストンビラでの多彩なキックが話題沸騰! 日本人GKの歴史を塗り替えた鈴木彩艶 最大3500万ユーロの移籍金で、憧れのプレミアへ
サッカー・ワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会で日本代表のゴールを守った鈴木彩艶。夏の移籍市場で注目の的となった24歳のGKは新天地にイングランド・プレミアリーグのアストンビラを選び、世界最高峰のリーグでさっそく存在感を発揮している。日本人GKとして初めて欧州チャンピオンズリーグ(CL)にも出場。若き守護神はこの夏、大きく飛躍した。
イングランド・プレミアリーグのアストンビラでプレーする鈴木彩艶 (C)共同通信