「ちょっと楽しくなっちゃって…」一瞬の油断に父が喝!真吾氏のビンタで闘魂注入

 1万人が詰めかけた会場。激闘の末に勝ち名乗りを受けたのは王者・拓真。「天心選手は強かった。ダウンもくらったし、成長していた。だからこそ気合を入れて返り討ちにすることができた」。貫禄を示し、盤石の試合運びで王座防衛を果たした。

 ボクシングファンが臨んだ昨年11月以来、約10カ月ぶりの再戦。序盤から近距離での攻防が繰り広げられた。拓真は相手のジャブを被弾する場面はありながらも一発は避け、リング中央での戦いで試合を支配。4ラウンド終了後の公開採点では40―36、39―37、38―38とジャッジ2者の支持を得た。「もうあの展開はない」と序盤2ラウンドを取られた前回の反省を踏まえ、主導権を渡さなかった。

 ただ7回にはヒヤリとさせられる場面が訪れた。ラウンド開始直後から激しい打ち合いを演じると那須川が突如、ノーガードに。両手をだらりと下げて、小刻みなフェイントから強烈なワンツーを打ち込んだ。もろに被弾した拓真は24年10月の堤聖也戦以来の痛恨のダウン。それでも直後はさすがの修正力。「得意なパターン」とあえてロープを背にディフェンスに徹し、回復に努める巧者ぶりを見せた。兄・尚弥が「変態」と評する屈指のディフェンス技術を発揮し、打ち疲れた那須川の追撃を許さず、最大のピンチを脱した。

 ただその後のインターバル中、この試合一番のダメージを負うことになる。「ちょっと楽しくなっちゃって…」とダウン直前に笑顔を浮かべるなど、一瞬の気の緩みを見せた拓真に父・真吾トレーナーは鬼の形相で“トリプルビンタ”を浴びせた。「昔からの悪い癖。集中していれば絶対にもらわないパンチ」とコーナーに戻った愛息に闘魂を注入した。その後、見事に立て直した拓真は高度な技術と試合巧者ぶりを見せ、ジャッジ1人が114―113、2人が116―111の3―0判定勝利。「ダウン以外は完璧だった」と所属ジムの大橋秀行会長もうなる内容だった。試合後、那須川には「ポイントゲームで負けた。こんだけやっても無理か」と言わしめるほど、前戦に続き“神童”を返り討ちにして宣言通り2度目の屈辱を味わわせた。リングサイドでは兄・尚弥が何度も立ち上がって指示を出した。8月上旬に行った北海道夕張市内での強化合宿では次戦が未定ながらも、ともに走り込みを行うなど拓真をサポート。「井上家」でつかんだ勝利でもあった。

「これで最後だ」第3戦を否定した拓真が見据える、バンタム級4団体統一

 戦前から多くのファンの注目を集めた一戦。興行を主催するプライム・ビデオが集計した勝利予想アンケートではでは那須川の52.2%に対し、自身は47.8%と発表された。前回対戦前に拓真は「数字は特に気にしない」と無関心を装っていたが今回は違った。那須川がスポンサー契約を結ぶプライム・ビデオの興行である以上“Bサイド”であることを理解した上で「何だこれ。上等じゃねえか」。ベルトを守る王者としてのプライドが許さなかった。調整期間中に目をカットするアクシデントも乗り越えて“下馬評”を覆す返り討ちを果たした。

 興行のキャッチフレーズは「これで最後だ」。「自分に負けて他の団体に行くんじゃないですか」。戦前話していた那須川との第3戦の可能性について試合後、拓真は「これで最後だ、と言われたので、ないのかな」と笑顔で否定した。見据えるのは兄・尚弥に続くバンタム級4団体統一。年内に予定されるWBA世界バンタム級正規王者・増田陸(帝拳)―同級1位・堤聖也(角海老宝石)の勝者も標的に上がる。堤とはWBA王者だった24年10月に判定負け。王座陥落の屈辱を味わわされた。敗戦後は真吾トレーナーらに引退を切り出すなど、一時どん底に突き落とされた“因縁の相手”。それでも昨年11月の天心戦で再起すると、5月の東京ドーム興行では元世界4階級制覇王者・井岡一翔(志成)から2度のダウンを奪う完勝を挙げるなど、“覚醒”するきっかけとなった一戦でもある。「あそこで負けたから天心との試合も、井岡さんとの試合も決まったと思っている。自分が気づけた部分もいっぱいあった」と拓真。敗戦を機に自身を見つめ直すことで、殻を破ることに成功した。

 キャリア絶頂期で迎える次戦はWBC同級2位アンドリュー・ケイン(英国)との指名試合となる見込み。それでも大橋秀行会長は「スーパーバンタム級も選択肢」と2階級制覇を目指す構想も明かした。これも拓真が偉大な兄に近づいているからこその期待の表れだろう。3度目の防衛戦での時期は未定だが、3月にも東京ドームで予定される兄・尚弥とWBA世界バンタム級スーパー王者ジェシー・“バム”・ロドリゲス(米国、帝拳)とのビッグマッチに参戦し、兄弟競演を果たす可能性も残す。ケイン戦が実現すれば6戦ぶりの海外勢との対決。「まだ完成ではなく、伸び代もあると思っている」と話す拓真のさらなる進化を期待したい。


VictorySportsNews編集部

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