データが可視化する「勢い」という印象の正体
CS開幕前日の記者会見。阪神の藤川球児監督、巨人の橋上秀樹監督代行が、ともにDeNAの強さを「勢い」と表現すると、これに対して珍しくDeNA・相川亮二監督は語気を強めた。「勢いだけで勝てるものではないと思っています。この3カ月はしっかりと戦ってきたという自信がある」。その言葉を証明するようにCSでは盤石の戦いぶりで巨人、阪神を圧倒した。
なぜDeNAは世間的にも「勢い」という印象を与えるのか。記憶に新しいのは、今年と同じく貯金「42」と圧倒的な成績でパ・リーグを制したソフトバンクと戦い、「40」という史上最大の貯金差を覆した2024年の日本シリーズだろう。“史上最大の下剋上”とも形容されたDeNAの日本一は称賛された一方、「リーグ優勝の価値」が問われ、一定の基準(ゲーム差10以上、または相手チームの勝率5割未満)に該当するとリーグ優勝したチームにCSファイナルステージで2勝のアドバンテージが与えられる今季からの新ルールが導入される遠因になったともいわれるなど、さまざまな議論も呼んだ。それだけ、インパクトの大きい結果だったといえるだろう。
そこで、過去10年(コロナ禍でCS開催がなかった2020年を除く)のセ球団のCSでの成績を見てみると、DeNAの「短期決戦の強さ」が分かりやすく可視化できる。
過去10年(コロナ禍でCS開催がなかった2020年を除く)のセ球団のCSでの成績まず、CS進出回数が3度リーグを制している阪神と並ぶ8度で、うち5度ファーストステージを突破している。今季でファイナル突破も最多となる3度目と、リーグ優勝が1度もないチームとして異彩を放っている。そもそも3位から日本シリーズに進出した例は全体で4度しかなく、DeNAがそのうち3度(ほかに2010年のロッテ)を占める。CSの制度導入(2007年)以降の通算成績は42試合で25勝17敗。勝率.595は22勝14敗1分けで勝率.611の中日に次ぐ数字で、勝率.431(28勝37敗2分け)の巨人や勝率.404(19勝28敗1分け)の阪神を大きく上回る。リーグ優勝(2度)より日本一になった回数のほうが多いという事実も、「勢い」や「短期決戦の強さ」を印象付ける特異なデータといえるだろう。
短期決戦を制圧する「一発の破壊力」とピークを迎えるバイオリズム
では、どうしてDeNAは短期決戦に強いのか。まず、打線の爆発力、特に「長打力」が大きな要因として挙げられる。レギュラーシーズンのチーム打率.246、125本塁打、557得点はいずれもリーグトップ(本塁打は阪神とタイ)。長打率.374も阪神(.369)を上回る。実際に、今回のCSでも牧秀悟が日本選手歴代最多の4本塁打を放ったのを筆頭に、全6試合で本塁打を記録し、計9本をマーク。3試合は本塁打のみの得点で勝利した。「長打力」は短期決戦で何ものにも替え難い武器になることが、CS6連勝の内容にも表れている。
次の要因として挙げられるのが、「後半戦特化型」のチームスタイルだ。今季のDeNAはスタートで大きくつまずいた。三浦大輔氏に代わって相川監督のもとで再出発したチームだが、開幕4連敗でスタートダッシュに失敗。3・4月は13勝13敗の勝率5割で踏みとどまったものの、5、6月は負け越す結果となった。特に6月は4勝しか挙げられないほど低迷。6月終了時点での借金は今季最大の15、順位は勝率.391(27勝42敗2分け)の5位。優勝どころか、CS進出すら極めて厳しいところまで追い詰められた。
ところが、ここから反撃を開始する。7月のスタートで5連勝を飾ると、同月は12勝9敗1分けと大きく浮上した。オールスター戦後の勝率.627(32勝19敗)は、阪神の.569(29勝22敗1分け)、巨人の.520(26勝24敗1分け)を上回りリーグトップ。特に9・10月は勝率.680(17勝8敗)と断トツの成績を残し、最終的に4位広島に9.5ゲームもの大差をつけて3位でフィニッシュした。借金15の完済は球団記録。後半戦のセ・リーグを牽引していたのは紛れもなくDeNAであり、ピークに近い状態で臨んだポストシーズンで巨人や阪神を圧倒できたのもうなずける。
このスロースターターぶり、実は例年のDeNAに共通する特徴でもある。昨年も4月を終えた時点で10勝13敗2分けの借金3と序盤は苦しい戦いが続きながら、最終的に71勝66敗6分けでリーグ2位まで浮上した。コロナ禍で開幕が遅れた2020年を除き、過去10年で3・4月終了時に貯金があったのは2度のみ。にもかかわらず、この期間にCS進出は8度、勝率5割以上も7度記録している。ある意味、終盤の巻き返しはDeNAの“通常運転”であり、それがポストシーズンに調子を上げることにつながっているともいえる。5年連続でCS進出を果たしている中、このピークの在り方が「勢い」や「短期決戦に強い」という印象をより色濃くしているのだろう。
数字で見る短期決戦力劇的変化を呼んだマネジメントと一戦必勝のチーム戦略
ただ、ここで注目したいのは、今季終盤の巻き返しが単なる「勢い」だけによるものではなく、明確なチームマネジメントによって計画的に成されたところだ。まずは「リリーフ力」の再構築策として、7月10日に右腕の浜地真澄を支配下登録。終盤戦では八回を任されるだけの存在になり、伊勢大夢-浜地-レイノルズによる「勝利の方程式」が確立された。昨年3試合の登板にとどまった変則左腕の岩田将貴も“切り札”として加わり、1試合あたりの平均失点は球宴までの3.90から球宴後は3.12に改善。救援陣の充実は、阪神に対してポストシーズン史上初の3試合連続完封勝利を飾り、レイノルズが同一CSではセ・リーグ初(史上最多タイ)となる5セーブを挙げるなどCSでも威力を発揮した。
5月には山本祐大をソフトバンクにトレードで出し、尾形崇斗、井上朋也を獲得。尾形は主に先発で85.2イニングを投げ、7勝(2勝は救援)を挙げた。正捕手格の放出という、時に賛否も呼ぶ思い切った策に打って出られるフロントの決断力が、チームに劇的な変化を呼ぶ布石となった側面もある。
序盤に低迷した打線のテコ入れも、効果的だった。7月に緊急補強したエンカーナシオンは主に4番を担い、前後を牧や筒香嘉智が固めることで打線のつながりが大きく向上した。1試合あたりの平均得点はエンカーナシオン加入前の3.52から4.26に上昇。先発陣容や控えの層に課題を残し、レギュラーシーズンでは年間を通した安定感を出せなかったDeNAだが、短期決戦で武器となる「一発の破壊力」と「リリーフ力」という強みを併せ持つチームへとシーズン中に修正、進化できたところが、CSを勝ち抜けた重要なポイントといえるだろう。
逆転優勝、CS進出に向けて終盤に負けられない戦いを演じてきたことも強みとなった。相川監督は、7月以降の戦いについて「3カ月間、これ以上負けられないと毎試合やり続けてきた」と振り返る。「負けたら、俺たちのシーズンが終わる」と一戦必勝をテーマに掲げ、勝負強さを磨いてきた。2021年の東京五輪でソフトボール女子の金メダル獲得をサポートした遠藤拓哉メンタルパフォーマンスコーディネーターを2022年にチームに加えるなど、力を入れてきたメンタルスキルの向上もナインを支える。
データ戦略に長けたチームでもあり、それはレギュラーシーズンを経てデータが蓄積されたポストシーズンで、より活きた。例えば、守備シフト。阪神とのCSでの佐藤輝やソフトバンクとの日本シリーズでの近藤健介や柳田悠岐といった左打ちの強打者の打席で、三塁手を遊撃の位置に、遊撃手を二塁ベース付近に寄せ、一、二塁間を3人で守る形にすることでゴロアウトを積み重ねた。10月27日の第3戦では六回1死一塁から柳田の中堅方向への打球を遊撃・成瀬がつかんで併殺打にするなど、打球方向の特性を捉えた戦術が随所で奏功。岩田を“左打者キラー”として機能させたり、過去12試合0勝だった巨人戦で石田裕太郎の好投を引き出したりと、投手の配球面にもレギュラーシーズンからの変化が見られた。
「短期決戦の鬼」から次なるフェーズへ
日本シリーズでは、開幕から3試合連続で延長戦にもつれる激闘を演じながら、ソフトバンクに3連敗を喫して崖っぷちに立たされたDeNA。頼みのレイノルズが2試合続けて同点を許し、試合が長引く総力戦に持ち込まれると、レギュラークラスをベンチにずらりと並べる相手との戦力差が顕在化するなど、「短期決戦の強さ」だけでは抗えないものも当然ある。
ここからDeNAが目指すのは「短期決戦に強いチーム」から「短期決戦」の冠を外すことだろう。そのためにも、年間を通して安定した成績を残せる体制を築くことが求められる。
まずは、やはり先発陣の強化。レギュラーシーズンの先発防御率はリーグ4位の3.49(トップは阪神の2.79)、先発の投球回がリーグ最少の1試合平均5.44イニング(トップは中日の6.10)、クオリティスタート(先発で6回以上、自責点3以下)率もリーグワーストの43.4%(トップは中日の61.5%)と、先発の駒が揃わなかったことが今季の弱みとなった。また、日本シリーズでも課題として見えている球際の守備への意識をより高めることも必要となる。
巨人に松井秀喜新監督、中日に工藤公康新監督が就任し、さらに熱い戦いとなりそうな来季のセ・リーグ。29年ぶりのリーグ王者、そしてCS、日本シリーズの完全勝利へ、DeNAのオフの取り組みに注目が集まる。