衰退説の危機を回避
カネロは健在ぶりを誇示する意味でも必勝を期した。昨年9月、テレンス・クロフォード(米国)とのメガファイトで判定負け。全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」1位のまま引退したクロフォードの引き立て役に回った。「あの試合からは細かいミスが勝者と敗者を分けることを学んだ。そこから前に進まなければならないんだ」。キャリア三つ目の黒星を糧にし、再起を狙った。
10月31日に実施された今回の世界戦。クロフォードの引退により正規王者に繰り上がったクリスチャン・エムビリ(フランス)に挑む形だった。それまで29勝(24KO)1分けと無敗だったハードパンチャーを相手に、カウンターやボディーといったパンチの正確性、防御など総合的に上回ってみせた。結果は3―0の判定勝ちで、戦績は64勝(39KO)2分け3敗となった。危なげない出来で再出発を果たし、次のようにまくし立てた。「信じられない気分だ。初タイトルを取ったような感じがしている」。いつも以上に興奮気味だった。
36歳とキャリア終盤に差しかかりつつある。かつてドーピング検査で陽性反応を示し、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との世界戦が延期されるトラブルを起こしたこともあった。だが、長く第一線で活躍。負けた相手はクロフォードの他にフロイド・メイウェザー(米国)、ロシア出身のドミトリー・ビボルと世界的強豪だけだった。もし格下のエムビリに敗れるようだと自身初の2連敗で、一気に衰退説が広まるところだった。「世界王者とリングに上がり、そして再び世界チャンピオンになることは自分にとって大きなことだ」。試合前の言葉を体現し、強さをアピールした。
異例の合同トレーニングで刺激
エムビリ戦を控え、驚きの行動に出た。ヘビー級とクルーザー級の2階級で世界4団体統一を果たしたオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)のトレーニングキャンプに参加したのだ。米専門誌「ザ・リング」の取材に「ウシクとは昔からいい友人で、彼の映像をたくさん見たり、質問したりしていた」と良好な関係を明かした。
24戦全勝(15KO)と無敵のウシクは、現在の井上尚弥(大橋)の前にPFPトップに君臨していた。カネロはそんなレジェンドと並んでランニングマシーンで走ったり、すぐ近くでシャドーボクシングをしたりした。PFP1位経験者の両雄による豪華なトレーニング風景はSNSなどで拡散。「強化やコンディショニングに関し、新しいことを学び取ることができた。彼と彼のチームはたくさんのことを教えてくれてとても感謝している。楽しかったし、とても調子が良くなった」。ベテランの域に達しても自らに刺激を与えたことは、エムビリ戦への並々ならぬ意欲の象徴だった。
フォーブスの長者番付の対象期間は2025年5月1日から今年5月1日までで計算。カネロは1年間で1億7千万ドル(約269億円)を稼ぎ出し、クロフォード戦のファイトマネーも反映されたとみられる。ちなみに1位のロナルドは3億ドル。米大リーグ、ドジャースの大谷翔平は契約の大半が後払いとなっている影響もあり、1億2760万ドルで5位だった。同誌によるとカネロは競技関連以外の収入源として近年、母国でガソリンスタンドやコンビニエンスストアのチェーンを展開している。15歳でプロデビューして以来、拳一つでのし上がり、自らの価値を高めながら金銭的にも成功。サクセスストーリーを地で行っている。
特殊な状況下での注目の開催
試合がリヤドで行われたことも注目を浴びた。潤沢なオイルマネーで急速にスポーツ界での存在感を強めているサウジアラビア。2024年のウシク―タイソン・フューリー(英国)をはじめビッグマッチを開催するなど、ボクシングも例外ではない。カネロが登場した一戦は〝メキシコVS世界〟と銘打ったイベントのメインだった。
ただ、今回は特殊な状況だった。リヤドの空港などがイエメンの親イラン武装組織フーシ派による度重なる攻撃を受け、情勢が悪化している。スポーツ界にも影響が広がり、当地で開催予定だったイベントが相次いで中止や延期を余儀なくされた。国際自転車連合は11月3~7日に行う予定だった都市型種目の世界選手権を中止。アジア・サッカー連盟は10月26日に実施予定だったアジア・チャンピオンズリーグ・エリート西地区1次リーグの試合を延期した。12月に想定していた総合大会「アジア室内・マーシャルアーツ大会」も来年へ延びた。来年1~2月に同国で行われる予定だったサッカーのアジア・カップも開催を懸念する声が後を絶たず、結局延期が決まった。
渦中の都市で復活への第一歩を踏み出したカネロ。歴史に残る偉大なボクサーとしての地位と名声をさらに確固たるものにするには、引退までにPFPトップ10クラスなど、強敵とのメガファイトが必要となりそうだ。渇望しているクロフォードとの再戦は、相手の引退により実現の可能性は極めて低い。となると、再びライトヘビー級に階級を上げてのビボルとの再戦などが選択肢として考えられる。次戦はプロ70試合目の節目。「ボクシングを愛し、大いに楽しんでいるから今の自分がある」。ボクシングに愛されもしている人気者からスポットライトが外れることはない。