高橋氏(以下、高)「私は早稲田大学スポーツ科学部で、主にスポーツマネジメントやスポーツ政策を専門としています。最近では『スポーツ未来研究所』をたちあげ、情報通信技術(ICT)を用いた新しいスポーツ分野の開拓に力を入れています。具体的にはオンラインを使ったゲームやエクササイズにより健康増進やコミュニティーの再生ができないかという試みです。東日本大震災で被災した福島県・富岡町の例では、オンラインによって遠隔地の方々がお互いの顔を見ながら一緒に運動をしてみた。そうすると非常に会話が増えるといった変化が起きました」

松井館長(以下、松)「対談の始まりにあたり、まず、私たちの紹介を兼ねてお話させてください。私たち国際空手道連盟極真会館は、極真空手を武道空手と標榜し、その普及を通じて社会体育・徳育活動を『健全な青少年の育成』『社会福祉』『国際交流』という主に3つの柱を軸として展開してきました。極真空手という武道を通じて、社会貢献出来る人材を育成する事に重きを置いている団体です」

高「本日はよろしくお願い致します。さて、先日のアジア大会ではeスポーツも競技として行われ、11歳の日本人選手ゆうき君が優勝して話題になるなど、今の若い人たちにとって、ゲームは非常に身近なコミュニケーションツールとなっています。国際オリンピック委員会もアジアオリンピック委員会も、人と人が対戦している一種のスポーツではないかと捉え、導入が進んできました。日本の政府やスポーツ庁も変化しています。実は昨年、改正されたスポーツ基本法の条文の中に『情報通信を用いたスポーツ』という文言が盛り込まれました。具体的にはeスポーツを指すわけです。我々はオンラインゲームを、より良く使っていくためにはどうすべきか、を模索しています。文化として拡大する一方で、課題も多く見られます。従来のスポーツには礼節や人間形成が組み込まれていますが、オンラインは見知らぬ相手に対面でもないため、つい自己中心的なストレス解消や不満のはけ口になってしまい、負けると暴言を吐いたり、機器を投げてしまったりするような行動も見られます。単なる娯楽ではなく、対戦相手を敬い、人間性を高める仕組みを模索中です」

eスポーツの健全な発展を提唱する高橋義雄教授

松「我々も競技化をしていますからスポーツの一部とみられますが、根本においてスポーツと武道は明確に違います。スポーツの本質は『非日常的な娯楽を積極的に楽しむ』こと。だからこそ、ラグビーの精神に代表されるように最後はノーサイドで健闘をたたえ合います。一方で武道は人類の『生死の世界』、つまり己や身内を守り、生き残るための戦いから始まっています。本来、苦しく、つらく、痛い戦いなど誰もやりたくないわけです。だからこそ、無用な争いを避け、いかに戦わずして済むかという知恵から、相手を尊重して敵意がないことを示す礼儀作法が生まれました。先ほど、先生から『相手を尊重する』というお話がありましたが、その前提として『相手の存在を認める』という原点があります」

高「『武道は生き死に』を原点としてスタートしているからこそ、礼節という厳格なプログラムが最初から組み込まれているのですね。eスポーツにおいても、画面の向こうに、同じ時間を共有してくれる対戦相手が存在することへのリスペクトがなければ、娯楽の時間を楽しむ競技文化として成立しません。重要なのは館長もおっしゃる『相手の存在』。ゲームが成立するのは、対戦相手というパートナーがいるからこそ。eスポーツが抱える課題が分かってきた今だからこそ、まずゲームについて深く考えてみようという教育が徐々に始まりつつあります。ですから松井館長がお話した、武道が培ってきた人間力向上の仕組みを、現代のデジタルスポーツが学び、取り入れることを考えるのも大切です」

松「空手の世界でも、試合を経験すると、負けて悔しくて、泣いたり暴れたりする子もいます。それを経て、自分をコントロールする術を覚えていく。eスポーツにも、そうした精神的な成長を促す仕組みが絶対に必要だと感じます。若い世代の育成を考えると、人間は自分の力だけで変わることはなかなか難しく、自主性や自覚をどう促すかが重要です。武道で言えばですが、人間は肉体的、精神的に極限状態に追い込まれて、自分の本性を知り、本当の強さ、また逆に弱さに気づく。安全な範囲内で、ギリギリの限界を体験させることが重要であり、自分の限界を超えるための重要な刺激と考えています」

高「それはスポーツ科学的には非常に理にかなっています。人間の脳は筋肉や骨格の破壊を防ぐために、本来持っている能力の手前で安全装置をかけていますから」

松「人間は極限状態になると、そのリミッターが解除され、火事場のバカ力のような突破力が発揮されます。また、ケガなどで体が動かない時期があっても本人の『稽古をしたい』という強い欲求やイメージトレーニングによって、復帰後に劇的な成長を見せることがあります。肉体的な負荷、脳・精神の働きという相乗効果こそが、真の心技一体を生み出すと感じます」

高「面白いですね。脳のシナプスが違う形でつながっているのでしょうね。ところで、館長は武道における『道』という言葉について、どのようにお考えでしょうか」

松「私が考える『道』とは、限りないもの、途絶えないものです。これは日本の独特な精神性に深く根ざしていると考えます。学術的な裏付けではなく私見ですが、日本という島国の地政学的環境が深く関係していると考えています。大陸では新しい技術や人間が絶えず入れ替わり、変化が起きます。しかし極東の島国、日本には一度入ってきた道具や技術が集積して、その場に留まって深く、発酵、熟成します。限られた環境の中で、先人の技術を代々継承し、極限まで探求し続ける過程で、単なる『技術』だったものが『道』になり、道具として伝わったものが『芸術』に昇華する。さらには生きざまとしての『道』になり、ひいては日本という国の伝統文化にまで高まっていきます」

高「日本独特の地政学的な影響というのは間違いなく、大きいでしょうね。(大陸から)いろいろな技術を教えられて、簡単には変わっていかなかった歴史の積み重ねが、日本人の重要な部分です。時間をかけて深く、深く、深化してきた。今の日本は上辺だけ、競争だけでまわる社会になってきたように思います」

松「先生がおっしゃったように、さらに深く、さらに広く、さらに高くという精神性は独特でしょうね。文化的に日本に根付いています」

高「その点で考えると、ガラパゴス化と、皆さん卑下して言いますが、実は良い言葉かも知れません。ガラパゴス化しているからこそ、深化していくのだと思います。だから、独特な事象が生まれます」

武道における「相手へのリスペクト」を説く松井章奎館長

松「ボクシングに例えればですが、使える武器は拳だけ、攻撃できる範囲は上半身だけという制限されたルールによって究極のパンチ技術が生まれた。何でもありなら、あの美しく緻密な技術はおそらく生まれていない。だから地域的に限定された、または情報が限定されると、そこから木の根が張り、葉が伸びるようになる。栄養を求めていますから。もし植え替えてしまったら、大木は育たない。根が張り、大きく伸びて、葉が広がるからこそ栄養が吸える。だから大きな木になる。その構造が日本の精神文化の中にあるのではないでしょうか」

高「スポーツ社会学者的に見ると、そういう日本的な考え方を理解して、実体験して感じられる人が減ってきていると思います。現在のデジタル社会ではショート動画などに象徴されるように一瞬見て刺激されて終わりと、情報が簡単に消費されて終わる危うさがあります。だから、私は『eスポーツ道』を作りたいと思っています。eスポーツにおいて、一時的な興奮や感動に酔うのではなく、相手へのリスペクトや公平性を重んじる『eスポーツ道』と呼べるレベルに引き上げられないかと考えています。これが実現すれば、素晴らしいコミュニケーションツールになり得る。また、eスポーツも一緒の場所でやると、オキシトシンというお互いを思いやるホルモンが出るという研究もあります。eスポーツは大会になると、参加者が集まって行われます。その時に、オンラインのゲームを通じても、人と人がしっかり握手できるのだと思えるようになることが理想。そのためにeスポーツにおける道(どう)を作るべきかなと思います」

松「科学的に結論が出ていないかもしれませんが、人間が持つ波動というものがある。我々の例でいうとチャンピオンが出た道場は、次のチャンピオンが出やすい。やはり共鳴する部分がある。意識が高い人といると意識が高くなりますから。それは、企業もチームも団体も同じですね」

高「館長とお話して、武道とスポーツの始まりが違うというのは、その通りだと思いました。武道の道とスポーツ界が思っている道の違う部分があるのも分かりました。eスポーツにおいては、まだ道(どう)という発想すらなく、自己満足で終わっていることが多い。それを改め、全員で共有して、eスポーツを通じて人間が形成できるとか、社会にとって有用な人になっていくようなことを、ゲーム会社や大会を開いている人がもっと発信していかないといけない。私が早稲田大学スポーツ未来研究所を設立したのもeスポーツの可能性を感じたからです。その上でeスポーツは、リアルなスポーツと違い、年齢に関係なくプレーができる。高齢者と小学生が対戦でき、離れていても対戦できるのが良さです。だから将来に向けては、まず全員が楽しめるようなルールを作っていくことが大事。しっかりしたルールを作れば、世の中での見え方も変わって来ると信じています」

松「我々の世界はアナログの最たるものです。そして今後の社会を想定した時、デジタルが進化するほどアナログが大事になってくる。バランスを取りながら良い形で両方が発展していければ良いですね」

高「武道が長年育んできた人間形成の精神をデジタルスポーツに融合させることで、未来の新たなコミュニティーを創造できれば素晴らしいなと思っています」


VictorySportsNews編集部

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