文=川原宏樹

映像品質のトラブルは継続的に続く!?

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「やっぱりな」
サービス開始当初よりDAZNに加入していた人は、きっとそんな感想を持っていることだろう。それにインターネットに明るい人の感想も同感だと思われる。それほどまでに、今回の障害を予想するのはたやすいことだった。

 2月27日、DAZNのジェームズ・ラシュトンCEOは、J1のガンバ大阪対ヴァンフォーレ甲府とJ2の愛媛FC対ツエーゲン金沢の試合において、映像配信に不備があったことを認め公式ウェブサイトをとおして謝罪をした。

昨日2月26日に開催されました、2017明治安田生命J1リーグ「ガンバ大阪vsヴァンフォーレ甲府戦」の16時50分開始以降、および2017明治安田生命J2リーグ「愛媛FC vsツエーゲン金沢」の16時47分以降のライブ配信を、DAZN(ダ・ゾーン)ご契約中のお客さまが視聴できない状態が発生いたしました。 お客様には多大なご迷惑をお掛けしましたことを、深くお詫び申し上げますとともに、再びこのようなことがないよう努めて参ります。
昨日のJリーグのライブ配信の視聴不具合に関して

 DAZNに対しては、25日のJリーグ開幕戦の時点から利用者がTwitterなどをとおして大量のクレームを寄せていた。そのほとんどが、「配信が止まる」「映像がカクカクする」「画質が悪い」といったもので、映像品質に対するものだった。

 ここで、しっかりと切り分けなければならないこととして、その映像品質に関するトラブルと配信ができなかったG大阪対甲府と愛媛対金沢の障害は、原因が異なっているということだ。DAZNの発表から察するに、後者の障害はシステム上のバグあるいは単純な人為的ミスと考えられ、おそらく次節以降は発生しない障害と考えられる。しかし、前者の映像品質に関するトラブルは、おそらく今後も当たり前のように頻発すると予想される。

 そもそも、インターネット回線を利用した配信サービスにおいて、配信が途中で止まったりカクカクしたりすることはよくある話で、それは映像配信に限った話ではなくウェブサイトの読み込みなどでもよく見られる現象だ。事実、スカパー!が行っている「スカパー!オンデマンド」というインターネット配信サービスにおいても、昨年に開催されたJリーグ注目試合の中継では映像が止まるなどのトラブルが発生しており、DAZNに限った話ではない。もちろん、テレビ放送でも障害が発生して見られなくなることはあるが、インターネット配信に比べるとその確率は極めて低いと現状では言わざるを得ない。

 インターネット放送においては、個人の設定で安定的に受信できたり画質が良くなったりすることはある。だが、根本的に解決するわけではないので、おそらく次節も同じ品質で見なければならない人が大多数となり、しばらくの間はその状態が継続的に続くことだろう。

 Jリーグが2100億円という巨額なマネーを手にする代償として、ファンやサポーターには映像品質に関する不満と、配信が停止するのではないかという不安を抱える10年間がもたらされてしまった。これまでJリーグやチームを支えてきたファンやサポーターにとっては、たまったものじゃない。

安定した既存サービスへの臨時ライセンス許諾

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 お先真っ暗な状況に陥ってしまったように思えるが、DAZN側の設備投資やNTTグループの協力によって配信が安定し品質が向上するのは間違いないことで、YouTubeやニコ動といった既存の動画配信サービスの品質に近づけることは容易である。だから、DAZNには可及的速やかに品質向上に取り組んでもらいたい。そのことを言及するだけにとどめ、起きてしまった障害に対しての批判は視聴者に任せたい。

 しかしながら、DAZNが行わなければならないその設備投資には時間が必要で、とてもじゃないが次節の3月4日までに間に合うような話ではなく、放っておける問題ではないことも確かだ。

 そこでパートナーでもあるJリーグの出番がやってくる。

 今回の契約において、映像の権利はあくまでもJリーグが保持することになっている。具体的に言い換えると、Jリーグが他社へライセンスを許諾し配信させようと思えばできてしまうのだ。実際に、障害のおきた2試合は、他社サービスであるYouTubeで公開されている。

 DAZNのサービスがある程度の品質で安定的に供給されるまでの間、JリーグにはNHKやスカパー!といった電波を使った放送や、比較的に安定して配信できているYouTubeやニコ動といった既存サービスに臨時でライセンスを許諾して、不安定なDAZNの現状に対するリスクヘッジをしてもらいたい。

 新しいものに失敗はつきもので、その後どう対処するかで価値は激変する。だから、個人的には起きてしまった失敗について責めるつもりはなく、今後どう対処するか見守りたいと考えている。「ピンチはチャンス」というように、DAZNは全力で品質向上に取り組んでもらいたいし、Jリーグもファンやサポーターを失うピンチと考えて、パートナー企業を全力でサポートしてもらいたい。


川原宏樹

2004年にサッカーメディアへ飛び込み、それ以来インターネット、雑誌、書籍など媒体を問わず編集業務に携わっている。実際に体感することをモットーとし、どの競技においてもスポーツは見ることよりもプレーすることを大切にしている。